「かばやきの浅田」どじょうの蒲焼き
金沢ふだんの魚メシ Vol.3
金沢で蒲焼きというと「どじょう」が定番。「うなぎの蒲焼き」も勿論食べるけれど、「どじょうの蒲焼き」が金沢の名物、ソウルフードです。居酒屋、おでん屋で一品料理として、あるいはスーパーや近江町市場でも「どじょうの蒲焼き」を見かけます。しかし、どうやら石川県内でも金沢市の他では見られない食文化のよう。「何でやろ?」と思っていたところ、ようやく専門店「かばやきの浅田」さんで、その疑問がスッキリしました。
「どじょうの蒲焼き」とキリシタン
「かばやきの浅田」さんは浅野川のすぐそば、横山町の住宅街にあります。扱っているのは一年中「どじょうの蒲焼き」のみという、生粋の専門店。地元の人が昼食や夕飯のおかずに買い求めたり、有名料亭や茶屋街のお茶屋さんも夏になると郷土の名物料理として提供するため仕入れて行くそう。また、「ひがし茶屋街」「兼六園」から徒歩圏内なので、少し足をのばして1串、2串とおやつ感覚で楽しむ観光客も増えています。
「金沢のどじょうの蒲焼きは、幕末・明治初期に長崎の浦上から金沢藩預けにされたキリシタンが、卯辰山に籠っていた時に食うや食わずの生活の中で、精のつくものとしてどじょうを捕り、醤油をつけて焼いたのが始まりといわれています。加賀百万石の城下町なので腹開きは切腹に通じて縁起が悪いからと、背開きにしたと伝わっています。卯辰山には、そのキリシタンの記念碑もありますよ」と3代目店主の浅田さん。
え、キリシタン!? 思いもよらない来歴にビックリ!! のほほ〜んとビール片手に「どじょうの蒲焼き」を頬張っている、そこの金沢人さん、その由来をご存知でしたか? 金沢から山越えした富山県の南砺市(福光・城端など)でも「どじょうの蒲焼き」を食べるので、この関連性も気になっていました。てっきり山越えして、山の文化が金沢に伝わったのかと。
「詳しくはわかりませんが、富山の人は商売上手だから、金沢の蒲焼きを取り入れたのかもしれませんね。一昔前は金沢市内に何十軒も「どじょうの蒲焼き」専門店があったんですが、今ではうちくらい、他はうなぎ・どじょうの蒲焼きを販売するお店が数軒残るのみ。浅野川のそばにも、何軒もあったんですよ」
もう、B級なんて呼ばないで!!
「今は上質のどじょうを手に入れるのも難しく、石川県でも養殖に力を入れてますが、各地から良いものを選んで仕入れてます。かつては、田んぼや小川に生息していたどじょうも、今では数も減って、農薬などの心配もあるため天然物ではなく安心な養殖物を使っています」
スーパーや魚屋で桶に入ったどじょうが売られていることがありますが、それは味噌汁や唐揚げなどに使う小ぶりなもので、蒲焼き用は開いて串に刺せるビッグサイズ。とはいえ、うなぎに比べると小さな1匹1匹を背開きにして串を打つのは大変な作業。さらに、一番の繁忙期は真夏の土用の丑の日なので焼きの作業も大変です。
「夏は『見ているだけでも暑そうで気の毒やわ』とドージョウ(同情)してくれる人も多いんですよ(笑)。けど、やっぱり夏の滋養強壮にはぴったりの食べ物だし、病院のお見舞いや出産後の女性へお土産にされる方も多いですよ。100歳まで元気だった私の母は『どじょうは元気の源だから、あんた達も毎日食べなさい』とよく言っていました」
金沢に移されたキリシタンが精をつけるために食べ、街に売り歩いたのが始まりという金沢の「どじょうの蒲焼き」。貴重なタンパク源、栄養源であったとともに、その美味しさこそが舌の肥えた金沢人に定着した理由なんでしょうね。
浅田さんの蒲焼きは素材にもこだわり、タレに使う醤油・砂糖・水飴・日本酒も上質なものを使用しているので、上品であっさりした中にも深み・コクがあるのが特徴。どじょうは脂もうなぎより少なく、タレも甘みが控えめなので、食欲が落ちた夏場もパクパク食べられます。「どじょうの蒲焼き」を金沢のB級グルメと呼ぶことがありますが、この手間暇、素材、料亭でも供される味わい、これは決してB級とは呼べませんね。