フォトグラファー・志鎌康平さん
新連載「山形ポートレイト」に向けて
志鎌康平さんはいま、地元山形市のほか東京そして長崎という3都市に事務所を構えつつ、日本全国を飛びまわりながら写真を撮りつづける日々を送っています。さまざまな土地を駆けずりまわりたくさんの人や風景との出会いを繰りかえす彼がめざす写真とは? フォトグラファー・志鎌康平さんの現在進行形のインタビューです。
==「六」という屋号を掲げてお仕事されてますね?
志鎌:ついさっきも千歳山を走ってきたんですけど、山を走るのがすごく好きなんです。山形に帰ってくるとたいてい千歳山とか蔵王とか瀧山を走ってエネルギーを充電しています。
自然の中を走ると自分の中にたまったものが吐き出されてクリアになって、気持ちよくなります。自分自身、山の動物のようでありたんですね。鹿です、山の鹿。自分の名前も「しかま」なので鹿。鹿は「ロク」とも読みますよね。だから「六」。
それから、五感の先の、第六感の「六」。写真を撮るとき、人であれ風景であれ、その被写体の本質を撮りたいんです。カメラを持つと「これはこの人の本当じゃない」とか、逆に「これだよね」とか、「まだもっと向こうに眠っているものがあるな」とか、そういうことをすごく感じるわけです。
ふだんの姿の先に隠されているものを見つけて撮りたいんですね。写真は視覚でしかないけど、できるだけ五感で撮りたいし、さらには動物的な感覚にまでなって、第六感まで研ぎ澄ませて写真を撮りたい。だから、「六」なんです。
==山形、東京、長崎の3都市を拠点にしているのはなぜでしょう。
志鎌:東京には仕事が多いんです。雑誌、Web、いろいろ。面白い仕事がいっぱいあると思います。山形は、自分たちが面白い仕事を見つけていったり作っていったり、っていう感じがすごくするわけですけど、東京にはすでに面白い企画が走っていてそこに乗っかっていくという感じがある。仕事がポンポンやりやすいですね。
そういうなかで自分という存在は、山形という自然いっぱいの山の麓から来た動物のような、獣の匂いのするカメラマンでありたいんです。実際、仕事の多くは、「自由にやって」って任せてもらうことも多いので、作品のように撮らせてもらっています。仕事と作品の区別が、最近はなくなってきたような感じがします。
長崎の事務所の方には、4ヶ月に1回くらいしか行けないんですけど、ものすごくいい土地で、人もいいし、飯もうまいし、温泉もあるし、湧き水もうまいし、コーヒーまでめちゃくちゃうまくて、行くとものすごくエネルギーをもらえる、本当に最高の場所なんです。
あとは、拠点に関わらず、いろんなところに行きます。最近は山梨でもよく撮ってますし、対馬にも通っています。8月25日からは「対馬アートファンタジア」という芸術祭があるんですが、これは韓国と日本から半分ずつアーティストが参加するんですけど、先日滞在制作してきたので、会期中はその作品を展示します。
==これから撮っていく作品はどんなものになりますか?
志鎌:人と家族と地域とを見せていくものを、いま構想しているところです。
それから、「カメラ小屋」という家族写真をライフワークとしてずっと撮ってきたんですけど、今度、富士吉田、対馬、そして東京でもやりますし、これからさらに全国を回っていきます。
家族写真ってふつうはその家族からの依頼で撮るわけですけど、最近は、その家族を撮るとすごく地域性が見えてきて、地域そのものを撮っているような気がして面白いんですね。
とにかく今は、いろんなところに行って、たくさん見て、写真を撮るってことをがむしゃらにやっている感じです。依頼を受け、もらった仕事であっても、いつも自分にしか撮れないものをと思って作品のように撮っていきたいと思います。
これからまだまだ、もっともっと写真を撮っていきたいし、もっと写真が上手くなりたいし、もっともっとみんなに見てもらいたい。本当に、まだまだ修行中なんです。いろんな土地に行っていろんなものを見て、チャージしながらアウトプットして、また旅をしてチャージしてアウトプットしてというのを繰り返していく、という感じですね。
==reallocal山形で 新しいシリーズをはじめますね。
志鎌:これまで、山形という地元のまちの日常って、ちゃんと撮ってないなあと思ったんですね。蔵王とか瀧山とかじゃなくて、山形市のまちのなかというものを撮ってない。ということに改めて気づいて、撮ってみたら面白いかも、やってみよう、と思いました。
今までたくさんの土地を撮ってきたからこそ、ようやく、山形でも撮れるよねっていう気持ちになったんだと思います。
ということで「山形ポートレイト」というシリーズで、ド直球で山形の人を撮っていきたいと思います。このまちで、僕が撮りたい人を探して、撮っていきます。写真にテキストも添えて。誰を撮ろうかと、想像するのも楽しみながら。
志鎌康平 Kohei Shikama
1982年山形市生まれ。東北芸術工科大学卒業。写真家小林紀晴氏のアシスタントを経て山形に戻り、アカオニデザイン入社。2016年独立し、志鎌康平写真事務所【六】設立。山形のほか東京、長崎にも事務所を置き、人物から料理そして風景まで、日本中世界中を駆け回りながら撮影を行っている。Webでは『雛形』『北欧、暮らしの道具店』『コロカル』など、雑誌では『Casa BRUTUS』『BRUTUS』など様々な媒体で撮影を担当。山形ビエンナーレ2018では公式フォトグラファーを務める。移動写真館『カメラ小屋』も日本全国開催予定。
志鎌康平写真事務所【六】http://www.shikamakohei.com/