山形ビエンナーレ2018開幕「山のような 100ものがたり」
9月1日〜24日 *期間中の金・土・日・祝日のみ開催
9月1日、山形ビエンナーレ2018が開幕しました。
3回目となる今回は、山形市七日町から東北芸術工科大学(芸工大)にまで会場エリアが広がり、芸工大のキャンパスを回るアート展「100ものがたり」が開催されています。
学内が「ラボラトリー」「インキュベーション」「コンテンポラリー」「コラボレーション」「アーツ&クラフツ」の5つのゾーンに分けられ、民俗資料、芸工大から生まれる現代アート作品、地域の文化遺産や自然風景、大学に住み着く猫まで、キャンパスに点在する100のものがたりを巡っていく展示です。
「ラボラトリーゾーン」(本館7階ギャラリー)は、「現代山形考 -修復は可能か? 地域・地方・日本-」のテーマのもと、絵画、立体、写真、映像などのあらゆる表現が集まり、山形のエッセンスが濃縮された空間に仕上がっていました。
ところが、それは山形を賞賛するものでもなく、古きものをノスタルジックに扱うわけでもない。山形から、東北へ。そして全国へ。山形を通じて現代の日本について考えたいと、「100ものがたり」キュレーターの三瀬夏之介さんは話します。
「山形の現状は、日本の最先端の現状。廃村や限界集落といった問題は、いまや日本全国どこにでもあります。
『修復は可能か?』のサブタイトルに込めているように、とり残された文化財はどうあるべきか、フィールドワークを通じて考えてきました」
大江町の雷(いかづち)神社で発見された風神雷神像は、本展示の象徴的な存在。風神雷神像は自然由来の神様であり、天災から守ってもらおうと、地域の人々が祈りを捧げてきました。
ところが雷神社の周辺はいまや限界集落で、鳥居は倒れ、いまにも崩れ落ちそうなお堂の中で二体が息を潜めていたといいます。
「神社が潰れて、土に還ったら終わり。それも役目を終えた神様としてのひとつの在り方かもしれない。一方でこれを残すことから、もう一度後世に別の価値が生まれるかもしれない。
台風による水害や地震といった自然災害が頻発するこの列島で、この像の意味や、像にすがりたくなる人々の気持ちについて改めて考えました。いまの日本では、その重要性が増してきている気がするんです」(三瀬さん)
ストーリー性のある会場構成も、ラボラトリーゾーンの見所のひとつです。歴史ある地域の文化財と現代作家の作品が対話するように並んでいます。
例えば、山形独特の信仰や生活文化を吸い上げたムカサリ絵馬や御沢仏。それらをオマージュした現代作家による現代版ムカサリ絵馬や御沢仏。
忘れかけられた文化財に現代アーティストが触発されて作品をつくり、文化財に新たな意味づけがされ生き延びていく。そんな循環を感じさせる構成です。
100ものがたりでは、ゾーンによって異なるテーマが設けられ、学術的な研究から、コンテンポラリーアート、個性豊かな陶器でコーヒーが楽しる「彫刻のある喫茶店」まで、バラエティに富んだ仕掛けがあります。
「最初に『山のような』というテーマを聞いたとき、一番に浮かんだ言葉が『多様性』でした。その言葉の意味について、出品作家である井戸博章くんとディスカッションしました。
僕や一緒にキュレーションをつとめた宮本晶朗さん、展示デザインのアイハラケンジさんが考える多様性と、一回り年下である彼らの多様性とはまた違う意味を持つ。いろんな世代の視点を入れることで、より多声的で立体的な空間になったのではないかと思います。
作品を眺めるだけでもいいし、ハンドブックを見てカジュアルに楽しむのもいいし、壁に貼った学術的な説明を読み込むのもいい。コーヒーを飲むだけでもいい。いろんな層の人に楽しんでもらえるように、できるだけ多くの入り口を設けています」(三瀬さん)
「100ものがたりでは、『もの』のチカラを信じています。
現代化に伴う合理主義が、多くのものを壊してきました。だけど、災害を最たる例として、世の中には合理的には解決できない、人間の力では立ち向かえない圧倒的な力があることに気付き始めている。
その力に向き合うヒントは、地域の奥底にまだまだ多く眠っている気がします。ここでもう一度、回り道したり、迷ったり、余白に目を向けてみることを考えたかった。そのきっかけとして、集まったのものたちが『100ものがたり』です。
残ってきたもの、生まれたばかりのもの、残るかもしれないもの、消えていくかもしれないもの。あらゆるものを集めて、そのものがたりを見つめて、100の数字をつけて並べました。
この展示から、見た人の住む場所やそれぞれのものがたりに思いを巡らせてもらえたら嬉しいです」(三瀬さん)
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100ものがたりでは、ギャラリートークやガイドツアー、演劇パフォーマンスなど、参加型のプログラムも多数開催されます。
詳細は山形ビエンナーレ公式HPよりご確認ください。
Photo: Gaku Ono