逗子の自然に囲まれ五感で育つ。
「ごかんのいえ」「ごかんのアトリエ」
「うちの保育園は、山に行ったり海に行ったり、室内にはほとんどいないんです。」
そう話すのは「ごかんたいそう」の全田和也(まった かずや)さん。
「ごかんたいそう」は、保育園「ごかんのいえ」と、子供のためのアートスクール「ごかんのアトリエ」を、豊かな自然に囲まれた古民家にて運営している。天気の良い日はこの立地を生かし、悪天候の日以外はほぼ毎日、海や山で五感を使って遊ぶ野外保育を行っているという。
「海や山へ毎日行っていると、自然の日々の変化が分かります。昨日までなかった落ち葉がいっぱいおちていたり、風が強い日は木がザワザワいっておっかなかったり。それはたまに遠足のような行事で行くのでは分からないことなんです。」
そしてその変化の中から、子どもたちは自分たちの遊びを勝手に見つけて遊びだすのだすという。
自然の中で五感がくすぐられるから、自発的に好奇心を広げ、自分から行動をしはじめる。
「大人がこうしたらいいよ。なんて言う必要はない。人から言われても納得しないし、自発的にやるから、できた時に達成感がある。それが自信にもつながるし、すごい集中力を発揮させるんです。」
2015年4月には、逗子の森の中に新しい園舎とパーマカルチャーファームができるという。農薬や肥料を使わず、トイレの汚物や生ゴミを土に帰して野菜を育てる。近所の人も参加してもらい、生ゴミをもらう代わりに、物々交換として、できあがった野菜を差し上げるという仕組みもつくる。
お話を伺っていると“大自然の父”のようなアクティブなイメージを抱いてしまう全田さんだが、元々は真逆の超インドア派だったのだそう。これまでの経歴もとてもおもしろい。リノベーションの企画・提案の仕事をしたり、西麻布にビストロをつくったり。青山でパン屋を運営していた時は、寒い中丸の内までバイクで売りに行ったりも。
そんな全田さんがこの仕事をやるきっかけになったのは、自身の子育てがきっかけだった。
「うちの子は他の子よりも発育が少し遅いような気がして、ずっと子育てには悩んでいましたね。ある日、ほんとにふらっと、逗子海岸に遊びに行ったんです。すると子どもが目を輝かせて元気いっぱいに遊び始めた。奥さんと2人で “スゴいね、ここ。”と。次の日は一色海岸に行ってみた。するとまた元気いっぱい駆け回っていたんですよ。」
その足で近くの不動産屋さんに行き、1ヶ月後には葉山に移住していた。
その後は子どもさんも見違えるように活き活きとして、すくすくと育っていき、
“こういう環境を作るのが、自分のライフワークなんじゃないか”
と思い、この取組みをはじめるに至った。
「きっかけは間違いなく自分の子育てなんだけど、もう1つ目標があって、世の中の“偏差値というものを無くしたい”んです。」という全田さん。
「中学受験、高校受験、大学受験と、偏差値をつけられ、就職して会社に入っても同じようなシステムが続く。世の中がどんどん単色化し、偏差値を背骨にして人間が評価されているように感じる。でも一方でそうじゃない、もっと自分の個性にプライドを持っている人に僕は巡り会う機会も多かったし、感動させられることも多かったんです。」
保護者の方に、(保育園で山登りをしたり、給食で野菜中心の食事を出してもらってるから)「子どもも丈夫になって、育ててくれてありがとうございます。」と言われることがあるというが、全田さんは「そうじゃない。」という。
「園のプログラムとか、大人が育ててるから育ったんじゃなく、子ども自身が、自分が育とうとするポテンシャルをスゴく持っている。この取組みを通じて、私自身が、子供たちが自ら育つ力に感動させられる毎日です。」