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「Mook」顔のある本棚に会いに

「Mook」があるのは西新商店街から伸びる横丁、小さなショップが立ち並ぶ、今いちばん賑やかな通りに面している。
でも、そう聞いてふらりと行ってみると、しばらく迷ってしまうかもしれない。

「本屋いかが」

こんな小粋な看板を目印に、建物と建物の隙間を進んだ場所に、隠れるようにMookの扉は開いていた。

「Mook」顔のある本棚に会いに

中に入ると、一見しておしゃれなセレクト系古本屋さんという趣。
けれど、よくよく本棚を見ていくとおもしろいことに気づく。本棚の顔が違うのだ。

本をよく読む人にはおなじみのことと思うが、本棚には顔がある。
ごくかぎられた本棚のスペースに何を並べるかを選ぶことは、思った以上に個性が現れてくるものだ。

「Mook」顔のある本棚に会いに

普通、セレクト系の古本屋の本棚というのはかなり「濃い」顔をしている。
それはまず第一に経営者が特定のジャンルを好きで好きでたまらないということが多いし、小さな店が生き残る上では「キャラ立ち」することが重要だからでもある。逆に広範な品揃えが魅力の大型書店は、すなわち顔がないのが良いところみたいなものだ。

ところが、Mookの本棚はそのどちらでもない。
海外翻訳ミステリで埋め尽くされた棚もあれば、アート系の古い雑誌が無造作に並べられている棚、昔懐かしい箱入りハードカバーの児童文学の棚と、一つ一つの棚を見つめていると明らかに顔があるものの、次の棚、次の棚と眺めていくといつのまにか、また違う顔が現れてくるふしぎな構成になっている。

「ここ、実は9人でやってる古本屋なんですよ」

カウンターの向こうから声をかけてくれた、今日の店番KKさんの言葉で謎が解けた。

Mookは、複数の運営者がひとつの場所をシェアしてできている店なのだ。
メンバーは、雑誌の編集者、映画のエキスパート、ボードゲームのことなら何でもという猛者などなど、実に様々。ここでの活動が嵩じて自分の本屋を構えてしまった人もいるというほど。

ちなみにKKさんの担当ジャンルは、映画とアウトローの文学だとか。
「いい人より悪い人のほうが魅力的じゃないですか。そんな人たちの書いた本にすごく惹かれるんです」

「Mook」顔のある本棚に会いに

しかし、どうしてこんなおもしろい古本屋が始まったんだろう。
そんな疑問をぶつけてみると、予想外の答えが帰ってきた。

「2015年の年末に突然電話がかかってきたんですよ。『古本屋、やらない?』って」

そんなことがあるんだろうか。一体誰から?
答えは、Mookが入居する建物の2階にあると聞いて、急遽細い階段を登った。

アパートの廊下に「bygones」の看板が出ている。
本が並べられたバーカウンターの向こうで、2015年の電話の主、マスターの石井さんが出迎えてくれた。

「Mook」顔のある本棚に会いに

「bygones」は営業15周年になるブックバーだ。
今でこそブックカフェなどの概念は浸透してきているが、開店当時は今にもまして、本が並ぶ空間を持つ店は珍しかった。その頃から着々と常連を獲得し、今では老舗のブックバーとして福岡の本好きの間で密かに語られる店となっている。

「Mook」顔のある本棚に会いに

始めた当初、石井さんが決めていたのは意外にも「本のある空間を、とにかく10年続ける」というシンプルなこと。
本屋というのは、あまり採算が取れないことで有名な業種だ。そんな中で続けてこられたのは、バー営業はもちろん、イベント開催やアーティストとの企画など、良いと思ったことはなんでも試してみるという意気込みだったのかもしれない。

Mookが店を構える場所は、そんな、なんでもやってみるスタイルの延長として借りたもの。確かに、奥まっているとは言っても1階、通りからも見える店舗スペースは様々な可能性がありそうだ。

しかし実際には、夜のバーとしての営業が忙しく、日中にひとりで別の店を切り回すことは現実的ではなかったという。
一方、bygonesに集まる常連さんたちは、本や映画や音楽が大好きで、何かの分野に一家言ある人たちばかり。
これはみんなでお店をやった方がおもしろいんじゃないか、と声をかけたことが始まりだった。

「Mook」顔のある本棚に会いに

みんなでシェアするMookで大事にしていることは「好きなものしか置かない」「無理はしない」ということ。
儲けることが目標ではなく、好きなものをプレゼンするように棚を作っていくのがMookのスタイルだ。

最初は自分たちの家にある逸品を持ち寄っていたが、そこはこだわりのあるメンバーのこと。すぐに自分たちで仕入れを始め、あっというまに棚はいっぱいに。以降、模様替えを繰り返しながら、棚の密度は着々と上がってきている。

本だけではなく、映画のDVDやボードゲーム、ちょっと変わった玩具まで、「好き」を基準に厳選されたものたちが並ぶ棚。それぞれのスペースはとても濃い品揃えなのに、全体としてはなぜか寛容な安心感が漂っているから不思議だ。

「Mook」顔のある本棚に会いに

店に戻ると、ちょうどイラストレーターの安藤かえさんの似顔絵イベントが開かれていた。
もう60年以上近所に住んでいるという常連さんが、店番のKKさんとおしゃべりしながら似顔絵を描いてもらっている。

様々なボーダーを軽々と踏み越えていくその風景は、9つの顔を持つ本棚が見守るカオスで寛容な空間を、ちょうどよく表しているようだった。

屋号

Mook (MUSIC,MOVIE and BOOKS)

URL

https://hold-a-join-mook.tumblr.com/

住所

福岡県福岡市早良区西新5丁目6−5−105

営業時間

不定期
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定休日

不定休

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