“ニュース”な まちづくり会社。/七尾街づくりセンター株式会社
「事業承継」(*1)が注目を集めている。そんな中、事業承継絡みで何かとニュースフィードで「七尾街づくりセンター」という会社名を目にするようになった。一体彼らは何者なのか。七尾市にある会社を訪ねた。
(*1)「事業承継」…会社の事業を後継者に引き継ぐこと。中小企業の後継者不足が問題となる中、親族や従業員以外の個人への事業譲渡や、M&Aの動きを国も後押ししている。
再起動したまちづくり会社
七尾街づくりセンターが設立されたのは1998年。七尾市と市内事業者が株主となった第三セクターとして、中心市街地のまちづくりを目的に設立された。
20年前から会社はありつつも、名前をよく聞くようになったのはここ最近の印象。聞けば、半休眠状態だったそう。2017年にローカルベンチャー・戦略アテンダント、移住コンシェルジュの就任によって、“リブート(再起動)”したのだ。
ローカルベンチャー・戦略アテンダントとして、多数の募集の中から選ばれたのが友田景さんだった。
「選考のプレゼンテーションで『なぜ七尾が若者に逃げられるのか(*2)、それは“おもんない”からや』と言いました(笑)。若い子って、やっぱり新しいことが好きでしょう。だから、どれだけブラックでも目新しいことをやってる業界に若者が集まるわけで。それに“七尾”と言っても、県外の人はほとんど知らない。だから、とにかくまず七尾の街全体でニュースをつくろうと」
(*2)七尾市は毎年の若者の流出は20歳未満100人、20代239人。
廃校になった小学校を利用したイベント、その名も「廃校中」への協力や、とことんコアな層をねらったイベント「マニアック・ナイト」など、文字通り「ニュース=新しいこと」を矢継ぎ早に七尾で開催。「そうすると、七尾に縁もゆかりなかった人がいきなりポンっときてくれたりするんですよね(友田さん)」
経済の地盤沈下を防ぐ「事業継承」。
そして七尾街づくりセンターに課せられた本題は、何よりもまず「経済の地盤沈下を防ぐこと」。そこで友田さんが取り掛かったのが「事業承継」だった。
「七尾市は創業支援を頑張っている方で、年間約20社が起業するんですが、全体では50社ずつ企業数が減ってます。つまり70社くらいが年間で倒産・廃業しているわけです。これではいくら創業支援をしても追いつかない。まずは廃業・倒産を食い止めなければと」
「さらに詳しく見ると、毎年廃業している会社の26%が、経営状態は悪くないのに、ただ“後継者がいない”という理由で廃業しているんです。そこで「事業承継」だなと。個々の企業としてではなく、もう『七尾市全体で後継者を募集しています!』と打ち出すことにしたんです」
そこで七尾街づくりセンターがコーディネーターとなり立ち上げたのが「七尾事業承継オーケストラ」。金融機関や経済団体、行政関係、さらには弁護士や税理士といった士業の計23機関が集まり結成された、事業承継を支援するための官民連携ネットワークだ。
「多数のプレーヤーが関わるのでオーケストラという名前にしました。ワンストップで事業承継の相談にのれる官民連携ネットワークは、七尾市が全国初です」
さらに、全国に向けた発信にも前のめり。事業承継M&Aサービスに取り組む「ビズリーチ」と組んで事業承継プロジェクトを開始。具体的には2018年7月からビズリーチが運営する検索エンジン「スタンバイ」上に後継者を探す七尾市の求人サイトを特設(サイトはこちらから)。首都圏のU・Iターン希望者を募集するために東京・渋谷でイベントも開催した。実際にいくつかの案件はすでに事業承継の話が進んでいるという。
「あまりに借金が大きいと、継ぐ方も尻込みしてしまうから」と地域で事業承継を応援するファンドの仕組みまで現在準備中だというから、その本気度がうかがえる。
継ぐのは、業務ではなく“想い”。
事業承継のコンセプトは素晴らしい。しかし、すでにある事業という「型」に、応募者側の「やりたいこと」がぴったりとマッチングすることは実際にあるのだろうか?
「自分で創業するのも苦労を伴うものですが、それを乗り越えられるのは“こんなことがしたい”という強い想いがあるからですよね。事業承継においても同じで、想いがないと、とてもじゃないが事業は続かない。それに継がせる側も事業内容というより“想い”を継いでほしいと思っていらっしゃいます」と話すのは事業承継プロジェクトを担当する、シニアマネージャーの浜田さん。
「例えば高級椎茸を栽培する会社さんの事業承継のケースでは、応募者さんは『荒れ放題になっている山をなんとかしたい』という気持ちから応募して来られました。もともと創業者も、『里山里海を守りたい』という想いから、山を管理しながら椎茸栽培を始められたんですね。だから、具体的な業務内容というよりも、どんな想いで続けてきたのか、その“想い”に共感して事業を継ぐという面が大きい。今の時代、事業内容をそのまま継いだからといって上手く行くわけではないので、あとは自分のやり方で事業を展開していけばいいと思うんです」
「また地方で事業承継に挑戦することは、普通に起業するよりもメリットが大きいと思います。その企業に対する地域の思い入れがあるから、応援団が継いてくれているというか。すでに常連さんもいれば販路もあるわけで。特に七尾のような地縁が強いところで事業をするなら、地域との繋がりは不可欠です(友田さん)」
仕事、移住。よろずサポートをワンストップで。
また事業承継など「仕事」はもちろん、「移住」についてもワンストップで相談できるのが七尾まちづくりセンターの強み。
友田さんと同時期に移住コンシェルジュに就任した太田殖之さんが運営する「能登半島 七尾移住計画」や、UIターン者だけが集う「イジュトーーク」の開催、さらには宅建資格を持つチアリーダー・石坂真由美さんには空き家や不動産の相談ができる。
「株式会社 御祓川」など、市内のまちづくり会社との横の連携も密なので、七尾暮らしの“よろず相談”はまず「七尾街づくりセンター」を窓口にすれば、適切な相談先を紹介してもらえる。
「最近、地元の新聞記者さんが、やたらうちの会社に来てくれるんです。“何かニュースありそうで”って」と友田さんはにやり。
“七尾からニュースをつくる”、という所信表明は現実のものとなっている。