実際的な“生きる力”。/【能登島】春の野草摘み
青い海に薄ピンクが映える、能登島の春。
島のいたるところで桜が咲き誇り、足元に目を落とせば小さな野花も顔をのぞかせる。この世の極楽ともいえる、穏やかな風景。
「なんと可憐なんだろう」と愛でる、私はせいぜいそこまでだが、能登島の人には「これは食べられるか否か」と、もう一段フィルターが働いているらしい。
今回は能登島の春のお仕事、野草摘みに同行させてもらいました。
「野草摘み」というから、もっと山に分け入るのかと思いきや、普通の“原っぱ”でちょっと拍子抜け。こんなところに、果たして「食べ物」があるのだろうか…
そんな私の心配をよそに、集まって早々、突然道端にしゃがみこむ女将さんたち。
「これはセリね」と手際よく収穫。セリ?あの“春の七草”の?私には、ただの雑草にしか見えていなかった…。(というか、目にも留まらなかった)
この可愛らしい紫の花は「カキドオシ」。シソ科の植物だそうで、干してお茶にするのだとか。
そしてこちら。どうみても雑草…ですが、こちらも食べられます。「ギシギシ」といって、ホウレン草などとも同種だそうです。
棒立ちしている私をよそに「特殊なレーダーでも搭載されているのでは…」と疑ってしまうほど、次々に野草を見つけ出す女将さんたち。
何せ「学校の帰り道、遊びながら野草を探しては食べていた」そうで、さすが年期が違います…。
こちらは「ノビル」。下の玉になっているところが特に甘いのだそう。葉ごと湯がいて酢の物にしたり、“ぬた”に混ぜたり。
収穫した野草、今回は天ぷらにしていただきました。「野草」って、筋っぽそうなイメージがあったのですが、柔らかくて歯切れよく、そして香りも良い。
野草は年中自生しているものも多いけれど、春を過ぎると薹が立って(*1)食べられなくなるそう。だからこそ、野草はこの時期だけ食べられる、春のごちそう。
(*1)薹が立つ…野菜などの花茎が伸びてかたくなり、食用に適する時期を過ぎること。
「うちの息子、ノビルかじりながら学校行ったわ」なんて話が、昭和じゃなくてつい先日の出来事ところが能登島。
“生きる力を育む”とか、ちょっと前盛んに議論されていたけれど、机上の曖昧な何かより、「食べられる草を見つけられる」とか、そんな能力の方が、よっぽど直接的で、まずは身につけるべき「生きる力」なんじゃないか。
次の春がきたら、ヨモギとか、フキノトウとか、分かりやすい野草から娘と探してみよう、などと、次々に揚がる天ぷらを頬張りながら決意した。