英語を通じて生きるチカラを身につける「デコボコ英語」
今回ご紹介するのは、ちょっと個性的な英語教室。
山形市旅篭町にある「デコボコ英語」をお訪ねしました。
ビルの階段をのぼり扉を開けると、広々としたワンフロアに元気のいい子供たちの話し声が聞こえてきました。
英語教室とはいえ、塾のような机と椅子はありません。子ども達の作品があちこちに並び、視覚的にもとても賑やかです。
デコボコ英語が目指すのは、英語を身につけることの、ちょっとその先。
英語を通じて、楽しく、たくましく生きる力を身につけること。
デコボコ英語を主宰する、五百川かおるさんと奥山ヒラリーさんに、お話をうかがいました。
五百川かおるさんは、山形市で生まれ育ち、16年間にわたって山形市内の英会話教室でディレクターを務めていました。奥山ヒラリーさんは、ニュージーランド人の父とイギリス人の母を持ち、12年前に小中学校で英語を教えるためにニュージーランドから山形へ移住しました。
そんなお二人が出会ったのは、約7年前。市内の英会話教室で同僚となったことがきっかけでした。
お二人は英語講師でありながら、それぞれ一児の母でもあります。同じ職場で働くなかで、英語教育のこと、育児のこと、家族のこと、そして生きることについて、二人で話し合うことが増えてきました。
「日常生活を通じて、楽しく英語に触れられる環境があったらいいのに」
「子ども達が自分らしくいられること。その大切さを感じられる場所が必要だよね」
10年以上にわたって英語教育に携わり、温めてきたそれぞれの思い。
「自分たちが思う“あったらいいな”をすべて詰め込んだ、よくばりな英語教室をつくろう!」
こうして2017年9月、山形市の中心市街地に、デコボコ英語をオープンさせました。
自己表現、ロジカルなコミュニケーション、文化とエチケット、プレゼンテーション、環境問題。
これら5つの要素が生きていく上で大切であるとヒラリーさんとかおるさんは考え、空間やレッスン項目に5つの要素が散りばめられています。
デコボコ英語は、これら5つの要素を含んだライフスキルを英語で学ぶ場ということです。
平日では主に、小学生コースと幼児コースがあります。
午後になると少しづつ子ども達が教室にやってきて、14時半には、幼児のレッスンがスタート。
16時に近づくと小学生たちのティータイムが始まります。ティータイムは、英国式のマナーを学びながら、みんなでお茶とお菓子を囲み、近況報告をする大切なコミュニケーションの時間。
テーブルを拭いたり、ティーカップを並べたり、掃除機をかけたりと、みんなで協力しながら準備と後片付けをします。こうした日常的な行為から会話を繰り返すことで、生活に密着した英語に触れられる。ホームステイを切り取ったような、放課後のプチホームステイとも言えます。
ティータイムの後に基礎学習とテーマ別学習に入ります。
基礎学習では、リーディング、ライティング、フォニックス(スペリングと発音に関わる学習)の中から、自分が学びたいものを選んで取り組みます。「テーマ別学習」では、月別テーマを通じて文法や単語、ディスカッション術を学んでいきます。
教科書を使わないのが、デコボコ英語の特徴です。
レッスンでは、ヒラリーさん自作のスライドやカード、スケッチブックなどを使って学んでいきます。みんなで丸くなって座り、アットホームな雰囲気で子ども達から発言を引き出していくヒラリーさん。なにか思いついた瞬間に、子ども達はシュッと手を挙げて、積極的に発言します。
レッスン内容は、子供達の反応を見ながら日々変化していくといいます。どんなテーマがいいか、教室にどんな物があったらいいかなど、子ども達から要望をもらうこともあるそうです。
小学生コースでは、周辺の5つの小学校から子ども達が集まり、1〜6年生が一緒に時間を過ごします。早めに来た小学生が幼児コースで教えるヒラリーさんのお手伝いをしたりして、幼児と自然に交流している姿もありました。
「年長者から学ぶこともあるし、年少者に教えることで自分が学ぶこともある。子ども同士、異なる年齢と接することが理想の教育の姿だと思います。子ども同士で助け合って、自分たちで解決策を見つけてもらうことを大切にしています」(かおるさん)
もうひとつのデコボコ英語の特徴として、オリジナリティに富むワークショップがあります。地元で活躍する生産者やクリエーター、事業者などを「コラボレーター」と呼び、特別講師として招いたさまざまなプログラムが開催されます。
高瀬地区の獅子踊り保存会から伝統の踊りを学んだり、畑から紅花を育てて紅花染めをしたり、デザイナーから年賀状作りを学んだり、老舗蕎麦屋からそば打ちを学んだり。大人も参加したくなるような本格的なコンテンツばかり。
人と人との繋がりから、どんどんワークショップの企画が生まれるそうで、毎月1回開催されています。親子で参加できる回もあるそうです。
少子化や核家族化が進み、孤立しやすく、学校と家しか居場所がない子ども達が増えているといいます。そんな現代社会で、デコボコ英語が子ども達にとっての“もうひとつの居場所”でありたいと、かおるさんは話します。
「ワークショップで新しい体験をしたり、プロフェッショナルな大人たちと交流したり、社会や地域との接点をひとつでも多く子ども達に提供したいと思っています。
いろんな社会問題や事件がある現代だからこそ、辛いことがあったときやピンチのときに、相談できる大人が一人でも多くいることが大切です。どんな些細なことでもいい。私やヒラリーは自分の味方なんだと思ってほしいし、子ども達にとって身近な存在でいたいと思います」(かおるさん)
デコボコ英語には、自分の頭で考えて、表現して、仲間と積極的に意見を交わす子ども達の姿がありました。一生懸命に単語を発して、伝えようとする子ども達の姿勢を見ていると、英語はただの言語や教科ではなく、コミュニケーションツールなんだなと改めて気付かされます。
「日本では英語にコンプレックスを持っている子どもが多いように感じます。アメリカ人みたいに話せないと英語じゃない、と思っている。だけど、海外のいろんな国の人々は、ネイティブではなくても、それぞれの発音でまっすぐに英語を話しています。
文法や単語は大切だから、ここでもちゃんと勉強します。だけど、英語を身につけることがゴールではありません。日本人の英語にもっと自信を持っていいんだと、日本人のアイデンティを持ちながら、英語を使って自分を表現することの楽しさを、デコボコ英語から伝えていきたいです」(ヒラリーさん)
撮影:根岸功
屋号 | デコボコ英語 |
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URL | |
住所 | 山形県山形市旅篭町2-2-26庄司ビル4階 |
備考 | OPEN 13:00-18:00(土日祝は休み) TEL 023-674-0604 |