お日さま農園 西尾佑貴さん、沙織さん/わたしのスタイル1(後編)
前編では、お日さま農園園主の西尾佑貴さんから伺った、西尾さんが目指す野菜の味のこと、環境問題や農家の自立に対するアプローチとして「野菜セット」を届け続けている話などを紹介しました。
後編では、西尾さんの奥さんであり畑仕事のパートナーでもある沙織さんにも加わっていただき、暮らしのことから有機農業の考え方に至るまで、ざっくばらんにお話いただきました。お二人の率直でチャーミングなやりとりをぜひお楽しみください。
カエルをさばいて
子どもと食べる
――お子さんが3人いらっしゃいますが、子どもが生まれて仕事で変わられたことなどはありますか?
西尾:やっぱり妻が子どもにつきっきりになるので、仕事の進みとしてはゆっくりになりますね。自分は子育てにはあまり関与できていなくておまかせなんですが、子どもたちとは外へ虫とりに一緒に行ったりしています。
沙織:去年は一緒にカエルを捕まえてきて食べました。ウシガエルを。長男はすごく楽しんでいて。
西尾:夜にカエルを網ですくって、外でさばいて食べるという。そういうこともやっていますね。鶏も解体して食べたりだとか。
――それはすごいですね。西尾さん、沙織さんもそんな風に育ってこられたんですか?
沙織:いや、私は地元が寒河江ですがそういうことはしていなくて。佑ちゃんは比較的都会っ子だけど釣りをしたり、ヘビを振り回したりしてたみたいで。
西尾:生き物が好きでしたね。かなり。でもカエルを獲って食べたのは、去年のそのときが初めてで。小さい頃は飼育という視点だったんですが、大人になって、食べ物とはなんなんだろうということを考えるようになって。最近は狩猟などもやってみたいのですが、いきなりイノシシだとかは無謀なので、素人でもできる魚とかカエルとかならできるかなと。
――カエルでも、話を聞くだけでドキドキしてしまいます
西尾:自分も最初はちょっと抵抗があったんですけど。大丈夫かなあって。
沙織:ほんと?そんなこと思ってたの?みじんも感じませんでしたけど。
――(笑)畑でもお話を伺っていると、西尾さんはどんどん新しいことをやらずにいられないようすなんですが、沙織さんはそれについて行くのにいつもハラハラされたりしませんか?
沙織:もう言っても仕方がないので、諦めですよね。「はいどうぞ」って(笑)でもカエルもだんだん慣れてきました。野菜を食べてくださっている方から、「カエルも魚も一緒だよね」って励ましていただいたり、いろんな方々から助言を受けて。
――西尾さんは、本に書いてあることや人が言うことも、やっぱり自分で確かめたいなという思いが強いですか。
西尾:そうですね、自分で確かめたいというのが小さい頃からいつもありますね。だからまわりからはちょっと変わった人だと思われていて。幼稚園や小学校の頃から、トカゲやヘビを捕まえたり、盆栽をやってみたり。
――盆栽ですか(笑)
沙織:突き詰めたいタイプですよね。職人とまではいかなくとも。
――それが農業と結びついたのはいつからだったんでしょう?
西尾:最初は植木だとかを育てるのが好きで、植物や動物を世話する仕事がいいなと思っていたんですが、中学生くらいの時に、自分はたぶん会社員や公務員は向かないので、自営業の方がいいなってふと思って。実際に農家を目指すことを決めたのは高校卒業のときです。たまたま福岡正信さんの『わら一本の革命』を見つけて読んで、今まで考えていた自分の進路ではなくて、野菜の農家を目指そうと決めました。
――それまで考えていたことが、その本とすっと結びついたのですね。
西尾:そうですね。
指針となった福岡正信さんの
『わら一本の革命』
――それから帰農者、新規就農者を支援する「帰農志塾」で研修生として有機農業を学ばれますが、ここはお二人が出会われた場所でもありますね
沙織:そうなんです。帰農志塾のやり方は、やっぱりベースになっているよね。
西尾:そうですね、基本的には。野菜セットを直接届けるという方法を実践していましたし、なぜ野菜セットなのかというのも教えていただいて。福岡正信さんの『わら一本の革命』を読んで、自然農法の考え方を農業で実践するにはどうしたらいいのかなと考えていたときに、帰農志塾の説明資料の冒頭でまさに福岡さんの本について触れられていたので、ここに行ってみようと。
沙織:一緒に農業をやっていくことを決めたのは、2年くらいが過ぎた研修も最後の頃で。それまではそれぞれの地元で別々にやるつもりでいました。それがまさかこんな雪国に連れて来られるとはね、かわいそうに(笑)
西尾:たしかに愛知県の地元でやるのもいいなあとは思っていたんですが、こういうことになったのなら、未知なる地でやってみようかなと。
――こちらで農家になられた最初の頃に苦労されたのは、どんなことでしたか?
西尾:栽培だとか段取りだとか、頭ではイメージしていてもそれがスムーズにいかなかったり。販売先もいろいろ探して。栽培と販売を両輪で軌道に乗せることが一番難しかったですね。最初の頃はサクランボもあったので、今ほど野菜に時間をかけられなかったり。
――野菜セットのことを知ってもらうために、自分たちからいろんな働きかけをなさって
西尾:そうですね、ほんとに最初の頃は、知らない家にピンポンして、「野菜いかがですか」ってやってみたり。それと同時にマルシェや朝市だとかに出店して、パンフレットを配ったりもして。
沙織:最初の3年くらいは両手におさまるくらいしかお届け先がなかったんですが、山形市で定期開催している「てっぽう町青空市場」に参加したことをきっかけに、20軒、30軒とお届け先が増えて、その方々の紹介が、ずっと今までつながっているんですね。
――私もいろいろな方からお日さま農園さんのことを教えてもらいました。調理した青ナスを初めていただいたときは、口の中でとろける食感が衝撃的でした。
沙織:そうか、青ナス。我が家の人気者はキュウリとニンジンだねって話していたんですけど、青ナスは紫紺色のナスと違って緑色をしていて、加熱するとやわらかくなり、これもおもしろいですよね。
今後の目標のひとつ、
加工品づくり
――今は何軒ぐらい届けていらっしゃるんでしょう?
西尾:多いときには100軒くらいになる週もあります。月曜と金曜に分けて50軒ずつとか。レストランも含めて。
沙織:2週間に1回の方だとか、毎週でない方もいらっしゃるので。
――それだけの軒数へ直接野菜を届けるのは、大変な労力だと思うのですが、それは畑でも伺ったとおり環境問題や地域経済へのアプローチということなんですね。
西尾:そうですね。なるべく届けられる距離で消費者と生産者とが直接結びついて、地域内で完結できるようにしたいということですね。
――そういった視点が、農業を始められたときから西尾さんの頭の中にはおありだったと
西尾:そうですね。
――これから先、さらに目指していること、目標などはありますか?
西尾:野菜を使った加工品なども、すでに切り干し大根など作っていますが、簡単にできて保存のきくようなものから、背伸びをせずに少しずつやっていきたいなと思っています。
沙織:野菜の無駄をできるだけなくしていけたらいいなあと。
西尾:そういう考えもありつつ、加工品のための作付けもありなのかなあと。例えば、加熱用品種のトマトを栽培して、トマトピューレを作るとか。
――その販売は今年からですか?
西尾:加工品販売は保健所への申請などが必要なので、今年はやるとしたら、ピューレ専用トマトとして数キロ単位で販売し、各家庭で作っていただくかたちがいいかなと思っています。
――その他にも長期的に目指されていることなどは
西尾:まずはネギや大根といった冬場の野菜を確実に作って、確実にお届けしていくこと。また最近は契約レストランもかなり増え、発送分も含めると30カ所くらいに届けています。山形市内では5カ所くらい。ですので、レストラン向けの野菜なども少しずつ研究しつつ。
――飲食店の要望は、西尾さんの探求が深まるきっかけにもなるわけですね
西尾:そうですね、探求が深まって。アイスプラントなども育ててみたり。楽しみながらやっています。
志ある就農希望者を
今後も受け入れていきたい
――沙織さんはお子さんといらっしゃるようすを見ると、とても楽しんで子育てされている雰囲気ですね
沙織:楽しいんですけど、いつもオニになってますよ(笑)こんなに怒るのか自分、っていうくらいに。もう一番上の子から下の子まで、なんならこの人(西尾さん)にも怒って。早くお風呂に入れー!とか(笑)
西尾:でも、あまり気にしないので。
――(笑)
沙織:そう、気にしないんですよね(笑)それでまたそのことに腹を立てたりとかして。
――沙織さんは今は時々畑に行かれるかんじですか?
沙織:3番目の子も今は保育所に通っているので、去年からは私も毎日畑に出ています。行けないときはヤキモキしましたよね。この仕事もあるしあの仕事もあるしって。でももう諦めて。そのときはいろんな人が手伝ってくれました。
西尾:今年は比較的作業が順調にいってます。
沙織:そうだね、新しく加わってくれた方がいるので、その力は大きいよね。
――これからも就農希望者の受入れなどをされていく予定ですか
西尾:農業への志をもっていて来たいという人があれば受け入れていきたいですね。農業の後継者を育てるというか、そういうことも長期的な目標のひとつです。
沙織:まわりで有機農業をやる人が増えたらいいなあって思いますね。
西尾:最近は農業をやりたい人に向けたフェアなどが東京で開催されていて、全国から農家が集まり、そこで希望者は実際に農家と話をして、さらに興味があれば実際に研修先として現地に行ってみるという仕組みで。今回来てくれた方も、そういったフェアを通じて出会ったんですね。
――有機農業と一口に言ってもいろいろなやり方があると思うのですが、西尾さんはご自身の農業について、どんなふうに考えていらっしゃいますか?
西尾:あまり有機という枠にはまらずに、柔軟にいきたいなと思っています。自然農法に傾くときもあれば、逆に慣行農法の要素で勉強になる部分も取り入れたり。例えば肥料に関して言えば、窒素肥料などの化学肥料は作物にとってよくないこともあるんですが、ミネラルなどは慣行農法で使われている肥料を参考にして有機に当てはまるものを探してみたり。ミネラルの肥料などは、一つひとつよく見ていくと、イメージされるよりも実際は悪いものではない、むしろいいものもあったりするので。肥料のことや作業の仕方などは、「ああ、こうやれるといいな」と慣行の人たちがやっているのを見たり聞いたりしながらいろいろと試しています。
沙織:肥料によって、作物の生育だとかは全然違うよね。
西尾:味も。
沙織:使ってみて初めてわかりますね。堆肥をあげておけばいいとか、ぼかし肥料をあげておけばいいとか、そういうよくあるイメージの世界と現実とは違うというのは、畑に出てやればやるだけ気付くことで。
西尾:「これさえやれば安心だ」ということはほとんどなくて、いろんな要素を取り入れながら、あの手この手で試行錯誤しながらやっています。
沙織:私たちは有機JAS認証は取得していないので、有機栽培や有機農法という言い方はできませんが、有機農業だと思ってやっています。有機農業にはいろんな有機農業のかたちがあると思うんですね。それぞれの季節を大事にして作付けたりだとか、地域で生産されたものをできるだけ地域で消費してもらおうというのも、帰農志塾で学んだ有機農業のかたちだし、大事な精神性のひとつです。
――有機農業自体に、各自が工夫しながら手法を変化させていくことを許容する素地があるということですね
西尾:そうですね。変化していくものとして。化学肥料を使わないだとか、農薬を使わないだとかは二の次三の次で、自分で野菜を直接届けることだとかに、有機農業の本質的な要素があると思います。
沙織:自分の有機農業とは何かということを考えながら、それぞれの農家が自分のやり方でやっていることが大事かなと思うんですよね。消費者に選択肢があるということも良いことだし、これから有機農業を始める人たちが、自分のやり方を選べるという意味でも。どれがいいか悪いかではなく、自分にはどれが合っているかということが、とても大切ですね。
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