gura クラフトストア・北野由望さん
山形市旅篭町のカルチャー複合施設guraのクラフトストア。山形周辺の職人や作家が手がけるクラフトアイテムとguraのオリジナル製品がバランス良く並び、ギフトやお土産選びに重宝するお店だ。
商品をながめていると、さりげなく声をかけて楽しく商品のストーリーを紹介してくれるのが、guraクラフトストアの北野由望さんだ。
ユーモアがありサービス精神も旺盛で、いつも相手を楽しませようとしてくれる、そんな北野さんの明るさに惹かれ、guraのファンになる人は多いのではないだろうか。
北野さんは2018年の冬に宮城県石巻市から山形市へと移住し、まもなく1年と7ヶ月が過ぎようとしている。北野さんの山形暮らしについて尋ねてみると、いつものような明るいトーンで、これまでのエピソードを聞かせてくれた。
生まれは山形県新庄市、4歳から千葉県船橋市へ引っ越し、都内の大学を卒業。学生時代から映画やエンタメが好きで、コンテンツをつくる仕事がしたいという思いから、映像制作会社に就職した。映像制作の現場を経験する中で、次第にコンテンツをつくった「その先」に興味を持つようになった。映像を流してみんなが楽しんでいる様子や、幸せな空間が生まれたことになによりの喜びを感じる。こうしてイベント制作会社へと転職した。
2011年、石巻在住の叔父と叔母、友人が被災したことをきっかけに、ボランティアで石巻へ通うようになった。映像を通じたイベントやまちづくりなど「ISHINOMAKI2.0」の活動に関わるようになり、2013年の夏に石巻へと移住。それから5年間、楽しさも苦しさも多くの経験を経て、一区切りがついたタイミングで、次の進路について考え始めた。
東京に戻ることも選択肢のひとつにあった。しかし、決められた枠の中で生きるのではなく、自分で考えて行動する楽しさを教えてくれたのは、東京ではなくローカルの現場だった。
次はどこへ向かうのだろうか。考えを巡らせていたところ、東北芸術工科大学出身の従兄弟から「山形でおもしろそうなプロジェクトがあるから受けてみたら?」と連絡を受けた。送られてきたのが、guraの求人情報だった。
旅篭町の新しいまちの拠点づくりという仕事。石巻での経験を生かしながら、ゼロから立ち上げていく仕事は楽しいかもしれない…。
面接をきっかけに初めて山形市のまちを歩いて巡り、クラフトや編集、アート関係など山形で働く20~30代の人たちと交流をした。
「もともとアートやカルチャーが好きだったので、同世代のクリエーターが周りにいる環境に魅力を感じました。『とんがりビル』のお店や展示で、山形独特の土着的な文化が心に響いたことも大きかったです。みんな『好き』『おもしろい』といった純粋な気持ちで制作や文化活動をしている印象がありました。
同年代の友達と遊んだり、おしゃれやカルチャーを楽しみたい思いもあったので、この街だったら、仕事とのバランスを上手く保ちながら自分らしく暮らせるかもしれないと思いました」(北野さん)
こうして2018年1月に山形市へ移住し、guraクラフトストアの仕事を始めた。
最初の半年は新生活に馴染むのに苦戦するなか、「山形ビエンナーレ」は山形に溶け込む大きなきっかけとなった。
guraは公式会場のひとつとなり、地元の人も県外からも連日多くの人が訪れた。ビエンナーレは普段は各々活動している山形の作家やデザイナー、まちのプレーヤーたちが一同に会する機会でもある。そして、みんなおしゃれをして楽しそうに街を歩いていた。
山形のクリエーターや地元の人たちと一気につながることができて、コミュニティの輪が広がっていくのを感じたという。
移動のコツを掴んだこともまた、北野さんの山形暮らしを大きく変えた。
移住した当初の移動手段は、徒歩か自転車のみ。職場の近くに住んでいたので、通勤に不便はないし、少し遠いが歩けばスーパーもある。自転車で行ける範囲で行動し、不自由なく暮らしていた。
とは言っても、山形は広い。知れば知るほど、おもしろい人の拠点やお店は郊外にも分散していることに気がついた。バスや電車はあるけれど、時刻表に合わせて行動するのが難しいときもあるし、車でしか行けない場所でおもしろいイベントが開催されたりもする。仕事でデザイナーさんと打ち合わせをしたり、職人さんに会いに行く機会も増えてきた。
そこで、思いきって自動車免許をとることに。雪が降る前を狙って、11月頃から教習所に通い始めた。通ったのは山形市中心街から自転車で片道15~20分ほど(バスでの送迎もある)の場所にある「マツキドライビングスクール山形校」。集中的に通い、約4ヶ月間で免許を取得した。
現在は週に1回ほど、七日町にあるカーシェアを利用している。自宅からカーシェアの駐車場までは徒歩10分くらい。月額の登録費と使った時間分だけ支払うシステムで、保険にも加入できるし、面倒な書類の手続きもなく、使いたいときだけ気軽に使える。一人暮らしであり、週1の頻度で運転する北野さんにとってカーシェアは、マイカーよりレンタカーより経済的であり、最適な移動手段なのである。
免許取得後は、休日の過ごし方がすっかり変わった。以前はバスで仙台に遊びに行くことが多かったが、いまの気分転換はもっぱらドライブして山形を散策すること。好きな音楽をかけて、自分だけの快適な空間で移動ができる。
「温泉に行って疲れを癒したり、ときどき天童や上山にも足をのばしたり、産直に野菜を買いに行ったり。車で移動するようになって、もっと山形のことが好きになりました」
さかのぼること半年前、北野さんは新たな活動の扉を開けた。
ある日、guraのホールでコンテンポラリーダンス集団「ダンススペース」の公演が開催された。
guraのスタッフとして設営の準備をしていたところ、先生から「踊ってみませんか?」と誘われた。小学校の頃からモダンバレエを習い、演劇舞台やダンスに興味があったので、思い切って挑戦してみることに。日頃から情報や人が行き交うguraのホールならではの出会いではないだろうか。
自発的な表現を導き出してくれるコンテンポラリーダンスは、北野さんにとって素でいられる時間であり、いまでは欠かせない存在になっている。
公演会が定期的に開催され、舞台に立つことは純粋にワクワクする。そして、本来の自分を取り戻せてきた気がすると北野さんは話す。
「山形に来て、20代の頃よりずっと自由になった気がします。コンテンポラリーダンスを始めてから身体の調子がすごくいいんです。身体が元気だから、本来やりたいことがすべてできるような前向きな気持ちになれます」
仕事においては、guraのクラフトストアをメインに、ホールの打ち出し方やイベント企画の提案と実施まで、幅広い範囲の業務を行なっている。日常生活での出会いや人とのつながりが、自然と仕事に反映されていくことも仕事が楽しい理由だという。
「楽しさは自分で掴み取るもの」と話す北野さん。首都圏から石巻、そして山形に移り住み、地方では自分から行動を起こすガッツが必要だと、身をもって感じてきた。
今回のインタビューで見えたのは、明るさの奥にある北野さんの辛抱強さとチャレンジ精神だった。
好きなことや会いたい人、やりたいことについて、焦らずじっくり自分と向き合って考えてみる。そこから思い切って行動したその先に、共感しあえる仲間との繋がりや、自分らしく活動できるフィールドが待っているのかもしれない。
名称 | gura |
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URL | |
住所 | 山形県山形市旅篭町2丁目1−41 |