新顔は「まちの食堂」
5,889人。福岡市東区にあるJR箱崎駅の1日の乗車人数だ*。(*JR九州のホームページより)
博多駅まで電車で5分と中心市街地までアクセスが良好なゆえ、通勤や通学に多くの人が箱崎駅を利用している。
そんな利用者の多い駅前は得てして、無機質な景色になりがちだ。どこかで見たことのあるありふれたものに。
箱崎駅前も一見すると、何の変哲も無いロータリーや建物が立ち並ぶ。
そんな中、駅から徒歩1分というまさに”駅前”の立地に、いかにも昔ながらの食堂がひとつ。
旅と暮らしの融合を目指すゲストハウス「HARE to KE」の1階に佇むのは、その名も「はこざき駅前食堂」だ。
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レトロな雰囲気を持ちながら実は真新しい、という不思議なギャップのあるこのお店。その店主である西山誠泰さんは、柔らかな雰囲気と優しい眼差しが印象的な方だ。
実は西山さんはこれまでに定食以外にもイタリアンや和食など様々な分野を経験されてきた。
月並みな質問ではあるが料理人を目指したきっかけは何だったのだろうか?
「料理の鉄人という料理番組、ご存知ですか?」
あ!聞いたことある!各分野の一流の料理人が限られた時間と食材で腕を競い合うというあの番組。
料理人に憧れるには十分なほどの刺激が詰まっていたのだろう、西山さんの眼が少年のように輝いていた。
では、なぜ様々な経験を経て最終的に食堂というスタイルに行き着いたのだろうか?
「食堂の懐かしくてほっとする感じが好きなんですよ。」
確かに食堂や定食屋は、肩肘張らずに気軽に足を運ぶことができるし、栄養満点でお腹も満たしてくれる。特に一人暮らしの人たちの強い味方だ。
取材前にトンテキ定食をいただいたが、そこには西山さんのこだわりと愛が詰まっていた。
まず特筆すべきは、このトンテキのボリューム。通常のお店なら150g~180gだそうだが、ここでは200gを軽々と超えてくる。
「お腹いっぱいになって、心も体も満たされて帰ってほしい」という西山さんの想いからだ。
味噌汁にも、「定食だけで栄養満点で、健康に優しいものにしたい」という想いが込められている。いつもの普通の具材にプラスオンで季節の具材を加えており、味噌汁だけでも様々な栄養が取れるように工夫されている。
家の近くにあったら絶対通っちゃうなぁ〜。しかも夜はお酒も飲めちゃうなんて。
実際はどんなお客さんが多いのだろうか?
「お昼はご近所に住んでいらっしゃるご年配の方や主婦の方が多いですね。夜は会社帰りのOLやビジネスマンの方々ですね。」
お聞きしてびっくりしたのは、7~8割の方々がリピーターだということ。一回足を運べば、お店の魅力に気づいてしまうのだろう。
時には、鍋を持ってお店に持ってきて「これにちゃんぽん入れてくれない?」と、昔ながらのテイクアウトをお願いしてくるお年寄りの方もいるそうだ。
地域に根ざし、地域に愛されるとはまさにこういうことなのだと感じた。
実は、開店するまで箱崎の町にこれといった地縁はなかったという西山さん。その分、地域に密着したお店にするために工夫を重ねている。
たとえば「はこざき駅前食堂」では、ほとんどの食材を近くにある箱崎商店街から卸している。またそれだけではなく、地域の行事や清掃などに積極的に参加されていて、先日は小学校の運動会に飛び入りで競技に参加されたそうだ。
「自分にできることだけですけどね。」と西山さんはおっしゃるが、そういうことこそ、まちづくりの中で意義が大きいと思う。
インタビューの最後に、これからの「はこざき駅前食堂」について伺うと、
「これからも地域に根を下ろして、長く愛されるお店にしていきたいですね。」と西山さんから答えが返ってきた。
人が集まる場所を作り、人の輪に飛び込み、地域を盛り上げて行く。
そんなまちの食堂に一度、足を運んでみてはいかがだろうか?