リノベーションスクールを振り返って/三浦丈典さん
10月4〜6日の3日間にわたり、第3回リノベーションスクール@山形が開催されました。
今回の舞台は「第一小学校旧校舎(現山形まなび館)」。昭和2年に建てられた、県内初の鉄筋コンクリート造の校舎は、国の登録有形文化財にも登録されています。
2017年に山形市がユネスコの創造都市ネットワークに映画分野で加盟したことで、この第一小学校旧校舎が、創造都市やまがたの拠点として活用されることが決定しました。
2022年の本稼動に向け、現在は「Q1プロジェクト」として、数々の試験的活用が進行中。今回のリノベーションスクールは、Q1プロジェクトと連動した回として実施されました。
リノベーションスクールは、具体的なプロジェクトを始めるための第一歩を踏み出す場。3つのユニットに分かれて、第一小学校旧校舎の活用法や方向性、事業アイデアなどが発表されました。
今回、ユニットAを担当したユニットマスター・三浦丈典さんに、リノベーションスクールを振りかえってコメントをいただきました。
三浦 丈典
スターパイロッツ 代表
1974年東京都生まれ。早稲田大学、ロンドン大学ディプロマコース修了、早稲田大学大学院博士過程満期修了。2001年〜2006年までNASCA勤務。2007年設計事務所スターパイロッツ設立。 大小さまざまな設計活動に関わる傍ら、シェアオフィスや撮影スタジオも経営。最近ではキッズカフェや産後ケア院など新しい建築プログラムの企画にも関わる。「道の駅FARMUS木島平」で2015年グッドデザイン金賞を受賞。著書に「起こらなかった世界についての物語」、「こっそりごっそりまちをかえよう。」など。
──今回の対象物件である、第一小学校旧校舎やQ1 プロジェクトの魅力とはなんでしょうか?
三浦さん:普通は物件を借りるか借りないか、0か100の判断をしなければいけない。だけど、第一小学校の場合は、グラデーションがあって、規模感を自由に決められる。「この場所が好きだ」という価値観さえ共有していれば、事業規模が大きい人も、小さく始めたい人も、空間を共有できる良さがあります。自由度が高い施設だから、ハードルが低くて、実験的にも使えるはず。
このような大きな施設の場合、流行りの店や有名店が最初に決まり、そのキーテナントにつられて他のテナントが決まっていくことが多い。だけど第一小学校の場合は、あくまでもフラットで、世代も予算の規模感も関係なく、ダイバーシティで、個性的な事業や人が集まった空間ができる、またとない機会だと思います。
──今回は対象物件のスケールが大きく、ハードな回だったと思います。全体を振り返ってどうでしたか?
今回はいつものリノベーションスクールとは少し違いましたよね。具体的な事業提案よりも、みんながやりたいことを実現するためのルールづくりに重きを置いた回でした。ここに入居する心構えを、みんなで考えて決めたという感じです。
これだけ大きな物件ですから、全体のルールづくりはすごく大事なことです。これからいろんな人がQ1プロジェクトのウワサを聞きつけて、集まってくると思いますが、そこにしっかりとしたスローガン、つまりQ1が目指すことが明確にあれば、持続可能な空間にしてくことができます。
それはあくまで「縛り」じゃなくて、アイデアと個性を付加していくようなテーマを与えるということ。洋服屋、パン屋、バーなど、みんなそれぞれ違った夢を持っている。ただ単に各々がお店をやるのではなくて、「Q1でやるのだから、これを意識しなくてはいけない」というテーマが、それぞれのお店によりいい個性をもたらしていく。
参加者のみんなに伝えたかったことは、「人間」が中心じゃない空間の作り方。その特殊さが売りになっていくということ。
多数派にはならないかもしれないけど、普段はないような場所をつくること自体が個性になる。多少過激なくらいでもいいのではないでしょうか。強烈で、かつ汎用性のあるテーマが、この建物全体の価値を上げていくと思います。
周辺エリアには、この学校の卒業生のみなさん(現在は40代以降のみなさん)が暮らしていて、直接声を聞くことができたのですが、なかにはいまの母校の姿に対してポジティブなイメージを持っていない人もいました。
だけど、外から来た人や若い人が「第一小学校ってかっこいい!」と褒めれば嬉しくなるし、改めてその価値に気づくことができる。みんな自分のルーツを肯定できたらいいじゃないですか。そんなブーメランのような構図をシステム化できたらいいですね。
今回は3つのユニットが総じて、概念的な提案だったように思います。具体的なビジネスの提案もしましたが、本質としては大きなテーマを問うた3日間。とても知的な回だったと思いました。
撮影:青山京平