Q1という新たな問いのはじまり【その1】/リノベーションスクール受講レポート
2019年10月4日から3日間に渡って開催された、第3回リノベーションスクール@山形に参加してきました。ここでは、今回のスクールで繰り広げられた出来事を、受講者の視点からレポートします。
初日の朝、緊張感とワクワク感が入り混じったような会場に受講生がぞくぞくと集まってきました。OpenA代表で東北芸術工科大学教授の馬場正尊さんが登壇し、「まちに変化をもたらす当事者となろう、まちにダイブしよう!」とリノベーションスクールに臨む約20名の受講者に語りかけ、スクールは幕を開けました。
リノベーションスクールは実際の遊休不動産を対象に、企画、デザイン、プレゼン、事業収支など、リノベーションに必要な知識を横断的に学び、エリアを含めた再生プログラムを作成する実践的なスクールです。
今回対象の物件となったのは会場である山形市立第一小学校旧校舎(現・山形まなび館)。昭和2年に建てられた歴史ある建築物です。
この第一小学校旧校舎は、「創造都市やまがたの拠点として再整備するための活用実験プロジェクト(=Q1プロジェクト)」としてすでに動き出しており、今回のリノベーションスクールもQ1プロジェクトと連動して実施されています。
早速、まずは参加者全員で旧一小の物件を見学しました。現在は使用されていない2階フロア及び3階フロア、そして屋上までもが対象なので、普段は立ち入り禁止となっているそれらのエリアも歩き回ることができました。内装が撤去され、ゴツゴツと剥き出しになったコンクリートは、まるで異世界に入ったような衝撃があります。
「なんてかっこいい空間なんだ!」という感動を覚える一方、「わずか三日間でこの膨大な空間を活かす事業を考えることができるのか?」と不安も湧いてきました。
見学後は、ユニットワークです。
「こんな場所があったら学生は喜びそう」「こんなことをしたら楽しそう」というような、なんとなく良さそうな感じのアイデアは出てくるものの、実際に自分たちが心の底からやりたいと思えるような事業アイデアには至らないまま、あっという間に初日が終了しました。
最初に馬場さんから提示されたリノベーションスクールの心得のひとつに、「まちの当事者になること」という言葉があったことを思い出します。どこかのだれかではない、自分たちこそが本当に欲しいと思えるものを、自分たちがやれるやり方でつくりあげる。その当事者意識が抜け落ちていてはどんな提案もただの絵空事になってしまうのだ、というお話でした。この意識でモノを考えることがとても大事で、しかもとても難しいということを痛感しました。
そして、二日目。
私が参加したユニットCのマスターは東野唯史さん(株式会社ReBuilding Center JAPAN 代表取締役)、サブユニットマスターは大工の荒達宏さんです。
お二人の「スクールに参加している今、まちを見るみんなの視点がいつもとは変わっているはず」という会話をきっかけに、「あの広い物件をどう使うか?」という考えにのみとらわれていたユニットCのメンバーの意識が変わり始めます。
そもそもユニットCのみんなは山形で学生をしていたり、山形出身だったりと、山形のまちに馴染んでしまっているメンバーばかり。いつもなら、まちの景色は生活の一部になっていて、すべてがあたりまえの見慣れた風景でしかなかったはずが、これまでは思いもしなかった新しい疑問や気づきが浮かんでくるのです。
「人はどこに向かって歩いている?」
「解体中の建物や、更地になった土地がこんなにたくさんある!」
「道路の拡幅で、どれくらいの建物がなくなったのだろう?」
実際にまちを歩き、まちのひとに声をかけ、話を聞きいたりもしました。
「子供の頃に通った思い出のお店が無くなってしまった」
「引っ越さなくてはいけないけど、処分に困るものがたくさんある」
そんなふうに、たくさんのまちの人の話を聞いた結果、
「まちの記憶、ストーリーを残すための場所にしよう!」ということになり、これがユニットCの大きな方針になりました。
とはいえ、方針は決まっても、普段違う環境で違うことを考えている人間同士がいきなり顔を合わせて一緒に一つのものをつくるというのは、本当に難しいものです。
時計が二日目の24時を回りいよいよ最終日に突入した時間帯になっても、たくさん出てきたアイデアが一向にまとまっていきません。それでも、ひたすら絵を描く人、プレゼンの資料を進める人、収支計画を作る人…。チームでの自分の役割をひとりひとりが全うし、なんとか少しずつ内容を詰めていきました。
そして公開プレゼンの2時間前、ついに決まった名前とロゴがこれです。
「未来へ紡ぎなおす古物店 tumugite」
まちの建物やモノに詰まった想い、物語を未来へ紡いでいく古物店。それが、ユニットCの提案となりました。「本当にこのまちに必要だ」「自分たちで作りたい」そう思えるような内容になりました。もちろん、三日間という短い時間でなんとかまとめあげた提案なので、どんなチームで事業をするか、実現にはどんな準備が必要かなど、きちんと詰めなくてはいけない課題はたくさんあります。それでも、できることから少しずつアクションを起こして、実現していこう! そう思えるものになりました。
さて、というわけで、濃密なリノベーションスクールが終わりました。そして私にとってはそれがまたひとつのスタートだと思います。
実際に古物店をやる、と言っても、その知識やノウハウを持ち合わせていません。
ということで、早速、スクールから約1ヶ月後となるこの2019年11月、ユニットマスターである東野さんが代表を務める、古材と古道具を販売するReBuilding Center JAPANのサポーターズに参加してきます!
日々の作業を通して、古物の扱い、古物に込められた物語や思いを引き継ぐということをこの身で感じてきたいと思います。
他のユニットでも、実現に向けて少しずつ動きがある様子。スクール後の受講生の動きについては、また機会があればお伝えしたいと思います。
新しい「まちの当事者」が第一小学校旧校舎とその周囲のまちにどんな楽しい変化を巻き起こすのか、ぜひご注目ください!
photo:青山京平