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Renovation school 山形 2019 _ closing message by 馬場正尊 @ Q1プロジェクト

2019.11.15

Renovation school 山形 2019 _ closing message by 馬場正尊 @ Q1プロジェクト

3日間のリノベーションスクール、お疲れさまでした。今日ここでみなさんがプレゼンしたことはどれも「必ず実現できる!」と感じさせるものでした。

この旧一小(=Q1プロジェクト)の建物の大きさに圧倒されて、あるいはこの大きさに発想の自由を奪われて、ぼくらはつい「大きなテナントを入れなきゃいけない、大きな運営をしなきゃいけない」と考えてしまいがちです。

けれどみなさんの提案はどれも、規模は小さいけれどエッジが効いた個の集積によって全体の賑わいを創りだす、という方向性を示していました。何か大きなものをドーンとつくるのではなく、泡のような小さなクリエイティブがブワーッと広がる状況を生み出すことで、たくさんの人が関わることができる場所になるということを、改めて確信しました。

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と同時に「ここ山形でならクリエイティブで勝負できる!」という可能性もまた再認識させられました。東京のような都会だと、収益性というものに最初から強く縛られてどうしても予定調和なものが出来あがりがちです。でも、そうではなく、まずはクリエイティブなアクションを走らせ、面白さを尖らせることによって、収益を後からキャッチアップさせることが、クリエイティブ・シティとして豊かな創造性をもつ山形なら可能じゃないか、と感じました。

以前、『CREATIVE LOCAL』という本を書くため、世界中のエッジの効いた都市が活気づいている様子を見てきましたが、自分の足元にあったこの山形の街に、その可能性が眠ってるんだってことに改めて気づかされました。

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みなさん、自分がこれから先どんな風景のなかで暮らしたいか、ちょっと想像してみてください。大きなナショナルチェーンが立ち並ぶ国道沿いの風景ですか? どこの都市かもわからない均一化されたその風景がぼくらの望む理想の風景でしょうか? むしろ、経済合理性のみを追求してきた資本主義社会の限界を感じませんか。この世界では、地域で集められたお金がバーっと中央に回収され、残ったわずかなお金が地域に再配分されていきます。そうではなく、地域のお金が流出していく循環から脱出し、地域でお金が循環する仕組みへと、それこそクリエイティブのチカラで変えていくべきですよね?

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3.11の震災が起きたとき、呆然としているぼくらに、東北芸術工科大学の当時副学長だった宮島達男さんは「こういうときこそ、これから本当に暮らしていきたい理想の街の風景を描くべき」とおっしゃっいました。それでぼくらはそれを学生たちとディスカッションしながらキャンパスに理想の街の姿を描いていきました。

出来あがったその風景は、自然豊かな山間に広がる田んぼや畑のなかにポツポツと低密度で家が建っている懐かしい集落のような佇まいの、とても素朴なものでした。ぼくらはその絵を「新しいふるさと」と呼んでいます。これこそが自分たちの願う未来の風景だと若いひとたちが思っているのならば、ぼくらはその風景に向かって仕事しなければならないはずです。均一なものが広がる世界ではなく、多様なものの共存する世界。そこに向かう変化の真っ只中にぼくらは生きているんです。

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東北芸術工科大学の学生が描いた「新しいふるさと」(提供:馬場正尊)

さらには、なんのために働くのか、どう働くのかということも変化し、かつてのようにひとりひとつの仕事をやるだけの時代じゃなくなりました。やりたいことが二つあるなら二つともやればいいんです。ある有名な社会学者は「19世紀は仕事を『Labor』と呼び、20世紀は『Work』と呼んだが、これからは『Play』と呼ぶ」と言っています。なるほど、ですよね。パッと思いついたことを楽しんでトライするような仕事の仕方にしか未来はないのではないか、とすら感じます。マスタープランが上から下へと降りていく20世紀のやり方ではなく、ひとりひとりが面白いことをやって連鎖してアメーバみたいに増殖する世界。きっと、Q1プロジェクトもそうだろうと思います。

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今日のみなさんのプレゼンテーションも、誰かが決定を下したり、誰かがテナントを決めたり、というプロセスではなく、むしろ全く逆でしたよね。「自分がここを使いたい」「自分はこれがやりたい」と手を上げて、「まずはこの場所でやってみようぜ」って言ってスタートアップしていくものが集まって、最終的にまちのプロジェクトとしてかたちをなしていく、みたいなことだろうと想像します。『Play』の時代だから仕事の境界線はどんどん曖昧になって、それをどう呼んでいいのか名付けようもないけど、仮に「街の当事者になる」「プロジェクトの当事者になる」と呼ぶとすれば、「当事者になる」ことこそが一番大切だし、それこそが絶対楽しいはずです。

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突き抜けたクリエイティブは、ローカルにこそあります。大事なのは「地域資本主義」という考え方で言うところの「社会資本」、つまり、誰と働きたいかってこと。嫌いなやつとイヤイヤ働くんじゃなくて、一緒にいて楽しいやつと働く。それってお金には換算できないけど、なにものにもかえがたい価値ですから。そしてもうひとつ大事なのは「環境資本」、つまり、どんな街で、どんな場所で働きたいかってこと。殺伐としたところであくせく働くんじゃなく、きもちよく過ごせる場所できもちよく働くことも大切な価値だから。それが実現できるのって、東京ではなく、山形のような場所なんです。

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今回のユニットマスターである三浦丈典さんのお仕事を見て、みなさん、どうでしたか。もはや建築家の仕事の領域をはるかに越えて、それこそ遊ぶように楽しそうに新しい風景をつくってました。大木貴之さんはどうでしたか。山形でぶどう畑を巡り、つくり手たちと会話しながら味わうワインのおいしさや、そこに広がる素敵な風景。山形の日常ってこんなにも素晴らしいのかと、大木さんのワインツーリズムにぼくは感激しました。そして、東野唯史さんのリビセン。いろんなひとが「自分にも手伝わせてくれ」って集まってくるという、環境資本そのもののみたいな事例でした。しかも、「カルチャーをつくろう!」としていて、経済を成り立たせるのはあとの作業なんですよね。

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今回サブマスターを務めてくれたSLOW JAMの神保雅人さんは、2年前のリノベーションスクールの参加者でした。都会で働いて白血病になって、山形に帰って楽しいことをやるしかない、好きな人と好きなものに囲まれて働きたいと覚悟を決めて、自分の店を始めました。

「ゆっくりとしたジャムセッションのようにいろんな人がつながっていく」っていう意味のその店名は、スピード最重視でビジネスを遂行する20世紀型ビジネスとは全く逆のベクトルを向いてますよね。また、同じくサブマスターの片桐賢久さんは、昨年このスクールを受講する側でしたが、今年は教える側になって、自身も事業を始めて、さらには今回のプレゼンをしたメンバーを手伝うと言ってくれています。当事者となっていく動きが、この山形の街で、着実にリレーされています。

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さて、「Q1プロジェクトとは?」改めて、考えてみましょう。

旧一小という、山形で百年にもわたって刻まれてきたこの校舎の記憶や歴史というものを、ぼくらはしっかりと受け止めなければならないのではないでしょうか? そのことは、ここにいるみなさんがしっかりと共有してくれたと感じています。まさに山形の街の魅力、人の魅力、ものの魅力、日常の風景に眠っている魅力みたいなものを、もう一回発見して、それをこの空間にインストールしようっていうような提案をしてくれました。

そして、ぼくらは問い続けなければならないのではないでしょうか? これから自分たちは何をしたいのか、何をすべきなのか、次の未来は何なのか、っていうようなことを、止まることなく、常に、どんなときも問いつづけなければなりません。問い続けることによってこそ、あたらしい地域のクリエイティブ産業を創造することができるだろうし、問い続けることによってこそ新しい地域の姿を描くことができるはずです。まさにそれを感じることができた、今回のスクールだったと思います。

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各々がエッジの効いた事業をスタートさせていくであろうQ1プロジェクトの、今日がひとつのスタートだと思います。Q1プロジェクトは、完全にオープンでフラットななかで進んでいく、山形市みんなのプロジェクトですから、ぜひみなさんがやりたいこと、やりたい仕事を実現させていってください。
(2019.10.6)

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text: 那須ミノル
photo: 青山京平

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