TOP » 南八ヶ岳 » 店 » 古民家の枠組みを再定義する山梨県甲州市のユニークな不動産会社「ABCアドバイザーズ」。

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八ヶ岳の南裾野、甲府の少し先に位置する甲州市塩山は、武将武田信玄の菩薩寺として有名な恵林寺を有する人口約3万人の町。山梨県のほぼ中心に位置し、かねてから関東圏との文化交流も深いこの街に、ちょっとユニークな不動産会社があると聞いて訪ねてみた。

「祖母の介護支援と父親の事業継承のため東京からUターンしました。不動産業も時代に合わせたチューニングが必須であると考え、不動産購入の前後に必ず必要となってくる税とお金に関する顧客サポートも組み合わせる事業として2015年にリニューアル創業しました」。代表の豊岡さんは東京の大学を卒業後税理士事務所と不動産会社（フランチャイザー）をご経験。確かにこの両領域がワンストップで解決できるとしたら顧客はとても満足するに違いない。

さてこの豊岡さん率いるABCアドバイザーズ、これだけではとどまらない。甲府の北東という、東京へのアクセスにも恵まれている甲州市は、近年旅行者に加え移住者も急増している。しかし地域に精通した豊岡さんからすると、まだまだ情報発信が足りないという課題を抱えている。この課題を真っ向から受け止め奮い立ったのが元旅行会社勤務で奥様の翠さん。デイトリップの企画からワークショップ開催まで彼女の活動は多岐にわたり、一見すると不動産業と関係がないように見えるが、「結局地域の魅力を積極的に発信し、その街を好きになってもらわなければ移住も二地域居住も始まりませんよね。だから我々はとにかく来訪者の滞在機会を増やし、この街をもっともっと知って好きになってもらう。そのために過去の経験を再度引っ張り出しでいろいろと企画を行っています。楽しいですよ」人懐こい笑顔で翠さんは話す。

さらに、力を入れているアイテムとして「古民家」の利活用。この地は、東京からわずか1時間ちょっとの距離でありながら、日本の原体験が感じられる古民家が各所に点在している。これら地域の古民家を巡り、住民とのふれあい等も組み込んだ「体験型ツアー」はすでに開催9回となり、毎回定員になるほどの大盛況。「私も自分自身、古民家にから学ぶことが多く、襖で仕切られた続き間など非常に理にかなった設計は都度出会うたびに感動します。またこの活動を行うことで、何より嗜好を共にする友人が増えました」。

一方でご主人の桃太さんは、直面する課題を漏らす。「ここ塩山は不動産物件に関する需要と供給のバランスが良くない、という課題を抱えています。具体的には、古民家を含めた味のある住宅を求めてくるお客様はおかげさまで増えているのですが、それらをご所有されているオーナー様が、その利活用に消極的である、ということです。時代は変われど「家」は使われてナンボ。再生し、再利用することで、人が集まるようになり、家も喜ぶ、人も喜ぶ。我々はこのようなサスティナブルな意識を浸透させ、街の息遣いをもっと増やしたい。その足がかりとして、行政との連携だけでなく、毎月第１日曜日に開催されている「かつぬま朝市」にも出店し地道な草の根活動等も行っています。我々はとても小さな企業ですが、私達の活動がほんの僅かでも地域の課題解決になれば本当に嬉しい」。同社のようなミッションを掲げる企業や店舗は少なくないが、実際にやり遂げられる企業はほんの一握りだ。ただお二人の話を聞く限り、きっと彼らはこの街をより良くするために、今の事業の枠組みを超えた活動をどんどん行っていくんだな、という想像が容易に伝わってきた。「僕は父が作ってくれたこのビジネスをより発展させ、地域の活性化ともに次の世代に受け継ぐために今何ができるかを常に考えています」なんとも心強い３０代夫婦が、近い将来ブレークスルーすることは間違いない。

最後に、当地はどんな人が移住や二地域居住に向いているか、の質問に対し、以下のコメントを頂いた。「まずは仕事の話から。甲州市は生活機能に必要な産業や商店はありますが「付加価値産業」は殆どありません。ちょっと便利なサービスだったり、無駄かもしれないけど思わず欲しくなってしまうモノやコト。大都市圏には普通に存在するものかもしれません。人は「付加価値（つまり遊び）」も必要だし、付加価値がなければ物も売れない時代。なので、付加価値を生業にされているすべての産業の方は、この街で業をはじめられると、ニーズは必ずあります。完全に「ブルーオーシャン」状態です」。
また趣味的な観点でいうと、「自転車ライドが好きな方」。この周辺には大垂水峠を始めサイクリストを唸らせる絶景ポイントが多数あり、週末には多くのサイクリストで賑わっているとのこと。

如何だろうか。今度の週末は、新宿から特急に1時間と少し乗り、ちょいと里山を味わいに店を訪ねてみてはどうだろう。