学生たちのプラットフォームに。私たちがOYASUMIをやる理由
「今月もOYASUMIが開催されるらしい」
近頃そんな噂を耳にするようになってきました。
“週末チルアウトの会”として、毎月一度、山形市内のカフェやバーで音楽を聴きながらゆったりまったり時間を過ごすイベント。ステッカー、ビデオ、クラフト、フードなど月替わりのテーマが設けられ、ゲストが展示をおこなったり、作品やグッズを販売する機能も備わっています。
運営側もゲストも含め、学生たちが自分たちのスキルを持ち寄り、自主的に開催しているイベント。どのようにしてOYASUMIが誕生し、継続しているのか。OYASUMI発起人の東北芸術工科大学・企画構想学科3年生・吉田芽未さんとグラフィックデザイン学科1年生・沖田真実さんにお話をうかがいました。
きっかけは、2019年5月山形県高畠町の採石場跡で開催された「岩壁音楽祭」でした。
大自然がつくりだすステージとエッジの効いたアーティストたちのパフォーマンスが生み出す圧倒的な空間。吉田さんは知り合いの縁から音楽祭の運営を手伝うことになり、プロフェッショナルたちによるイベントづくりの裏側に触れ、音楽をみんなで共有すること、その場をつくる楽しさにすっかり心を打たれてしまったといいます。
一方で自分の周りの環境を考えたとき、芸工大生の多くはまちへ出たり、イベントに行ったりする機会がないことに気がつきました。キャンパス周辺から出ずに、遊ぶといったらほぼ宅飲み。学生たちの多くは遊ぶ場所が少なく、時間を持て余しているのではないか…。
遊ぶきっかけがないなら、自分たちでつくればいいと立ち上がった吉田さん。しかし、ただの音楽イベントをやっても芸工大生が来るとは思えず、親しみやすいカルチャーイベントにしようと考えます。
デザイン、映像、プロダクトなど、それぞれのジャンルで個人的に活動する芸工大生たちを巻き込んでいくことで、集客につなげていく狙いもありました。
こうしてOYASUMIでは、音楽を楽しむことと同時に、ビデオ、クラフト、フードなど月替わりのテーマを設けることに。vol.1のテーマは「ステッカー」とし、吉田さんが人づてにステッカーを製作する学生を発掘し、Instagramで気になる人にはDM(ダイレクトメッセージ)で声をかけ、結果的に学科も学年もバラバラの6人が集まり、イベントでステッカーを販売することになりました。
ところで、やっぱり気になるのは「OYASUMI」というネーミング。かわいらしい響きに、思わず惹きつけられてしまうのですが、どんな思いが込められているのでしょうか。
「私たち学生はクラブとか夜のイベントに行き慣れていないので、イベント名はとにかくやさしい言葉にしようと、キーワードを出していきました。『おんせん』『おふとん』『おはよう』…なんだか『お』がつくとやさしいよね。じゃあ『おやすみ』にしようか、と。
毎月1回のどこかの金曜日にみんなで集まって、チルアウトして過ごす。イベントの最後には『おやすみ〜』といってお開きにしよう、とコンセプトを考えました」(吉田さん)
DJではなくてBGMと呼び、クラブではなくてカフェやバーで開催し、パーティーではなく“チルアウトの会”と題す。そして17時~22時という開催時間まで、学生が気軽に参加できるよう、限りなくハードルを下げることに注力してイベントを構成していきました。
イベントタイトル、コンセプト、場所と日時が決まり、フライヤーをつくるため、グラフィックデザイナーとカメラマンを探すことに。
せっかくの機会なので、同級生や知り合いではない人に頼んでみたいとアンテナを張っていたところ、音楽イベントの予告ポスターの公募で、1年生の沖田さんの存在を知ります。説明的ではない、独自のデザインセンスに光るものを感じ、即スカウト。
写真も同じく、映像学科1年生の柏倉琉生さんが担当しています(本インタビューでも撮影を担当)。柏倉さんがまちなかのイベントの記録写真を撮影していたところ、吉田さんが声をかけました。
沖田さんは入学直後に上級生にまざってポスターの公募にエントリーしていたこと。柏倉さんは、まちに出てイベント撮影に挑戦していたこと。それぞれの前向きな姿勢と行動力がチャンスを手繰り寄せ、沖田さんはアートディレクターに、柏倉さんはカメラマンに、そして発起人でありプロデューサーの吉田さんの3名でOYASUMIクルーが結成されました。みんなで夜な夜な集まり、試行錯誤のうえフライヤーが完成。SNSを通じて告知を広げていきました。
2019年7月に開催したOYASUMI vol.1には50人以上が集まり、盛況のうちに終えることができました。椅子に座わり、音楽を聴きながらまったりおしゃべりしている人が多く、「みんなが何気なく集まれる空間をつくることができた」と吉田さんはvol.1を振り返ります。
そこから毎月テーマを設定しながら次回でvol.6を迎えます。どのようにして継続しているのか、その運営について聞いてみました。
「イベントが根付くよう、プロモーションや情報発信にも工夫しています。イベント終了の数時間後、まだ熱が冷めないうちに、イベントの写真をSNSにアップする。そうすることで余韻が楽しめて、また行きたい気持ちを喚起させていくことが狙いです」(沖田さん)
「活動を続けるためにも、赤字にならないよう資金面を意識しています。イベントとして大きな収益は出せないので、場所代がかからないようお店の営業時間内にイベントを開催させていただき、ドリンクやフードの注文で還元できるようにしています。店主さんが活動を応援してくださるご好意のおかげで成立しています」(吉田さん)
回を重ねるごとに、イベント運営に興味を持つ学生が増え、最初は3人でスタートしたOYASUMIクルーも、いまでは8人に増えてきました。学校の課題も忙しい中、楽しく継続していくために、作業を分散していこうと、仕組みづくりを検討しています。
「私が卒業した後、OYASUMIを誰かに託すのか、続けていけるかはまだわかりません。いつかOYASUMI自体がなくなることは、仕方がないことかもしれません。だけど、終わってゼロに戻るのではなく、新しいイベントがまた生まれていってほしい。
だから、OYASUMIをきっかけに、もっと学生たちがまちに出ることに慣れたり、イベント運営を経験したり、社会に触れるきっかけとして活用してもらえたらいいなと思っています」(吉田さん)
ゲストに呼ばれた工芸、動画、グラフィクやイラストレーションの作家たちにとっては、SNSから飛び出してリアルな場で作品を発表できる場となり、運営サイドも、企画プロデュース、マネージメント、デザイン、編集、PRなど、OYASUMIは学生たちがそれぞれのスキルを持ち寄り、自分の力を試すことができるプラットフォームになっているように感じます。学校で学んだ専門スキルや知識を、実践を通じて自分の中に落とし込んでいく、ひとつのきっかけになっているのかもしれません。
試されるのは専門スキルだけでなく、まちにダイブして自ら社会と関わることで、フットワークの軽さ、ビジネスマナー、人を巻き込む力、コミュニケーション力など、さらなる要素も求められます。
どこまでも前向きで可能性に溢れる彼らの活動に、さらなる展開が生まれています。
「OYASUMIの活動をきっかけに、vol.1のステッカーの回で出展していた櫛田さんが、カフェのオーナーさんからの発注でショップカードをデザインしたり、私もvol.4で出会ったアーティストの方から名刺のデザインを発注いただきました。
仕事でデザインするにあたって、クライアントのニーズをいかに引き出すか、それをどうデザインに落とし込むか。そして一緒に取り組む人たちとどのようにつながっていくのか。このような感覚を早いうちに掴んで、実践できるのは自分にとっても貴重な体験で、社会の役に立てることにもやりがいを感じています」(沖田さん)
「私たちは現場にいたい。そして、実践し続けたいと思っています」そう語るOYASUMIクルーの目は、いきいきと輝いていました。
毎月1回、どこかの金曜日に開催されるOYASUMI。
最新情報は @oyasumi_oysm からチェックしてください。
撮影:柏倉琉生
撮影協力:Day and Books
OYASUMIクルー
プロデューサー:吉田芽未 @yayuyoshidadada
デザイン:沖田真実 @got_up__t /神谷雨音 @amafull__
写真:柏倉琉生 @_kashiwa_/榊原あゆみ @ctqno
スタッフ:渡邉美佑 @_wtmy/齋藤駿希 @humpty_ss/石澤樹 @itsuki_ishizawa