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第3回 クリエイティブ会議「Local Community/Local Creative」レポート/ Q1プロジェクト

2020.02.13

2月のとある週末、山形市立第一小学校旧校舎の一室から不思議な音があふれ出ていました。

森の中に家を建て、自然の中で暮らしながら音を紡ぐOLAIbi(オライビ)さんが奏でる不思議なメロディ。森から採取した音色、電子音、そしてOLAIbiさんの声が溶け合い、神秘的な透明感、すがすがしさ、漆黒の恐ろしさ…いろんなシーンが移り変わり、ドラマチックに展開していく時間。

音は細胞までに染みわたり、そこにいた誰もが別の世界へトリップしていました。仮にその世界が森なのだとしたら、森は物理的なものではなく、現象なのかもしれないと、そんなことをとりとめもなく思いながら。

第3回 クリエイティブ会議「Local Community/Local Creative」レポート/ Q1プロジェクト
OLAIbiさんによるライブ。これも今日のトークテーマのメタファーなのかもしれないと、後になって気が付くのです。

2020年2月8日、山形市立第一小学校旧校舎(現まなび館)にて「Local Community/Local Creative」をテーマに第3回クリエイティブ会議が開催されました。

OLAIbiさんのライブの余韻を味わいながら、ゲストのトークへとシフトしていきます。

今回のゲストはミュージシャンのOLAIbiさん、六本木のオルタナティブスペース「SuperDeluxe」プロデューサーMike Kubeckさん、そして医学博士であり、「山形ビエンナーレ2020」の芸術監督に就任した稲葉俊郎さん。モデレーターは東北芸術工科大学/クリエイティブディレクターの岩井天志教授と建築家の馬場正尊教授です。

第3回 クリエイティブ会議「Local Community/Local Creative」レポート/ Q1プロジェクト
「クリエイティブ会議」は、第一小学校旧校舎を創造都市やまがたの拠点として再整備していく『Q1プロジェクト』のコンテンツのひとつとして、シリーズ開催されています。第3回は、岩井教授によるテーマ設定とゲストコーディネートによって開催されました。

まずは、東京から地方に移り住んだ3名のゲストのこれまでの活動や現在の暮らしについて、プレゼンテーションが行われました。

ミュージシャン OLAIbiさん

震災の翌年、2012年に東京から鳥取県の大山という森の麓に移り住んだミュージシャンのOLAIbiさん。6千坪のジャングルと化した森を家族3人で切り開き、「HUT」というスペースをつくりあげました。ときには青空の下の“リビング”で暮らしながら、セルフビルドで小屋をつくり、ギャラリーや音楽室などスペースを少しづつ拡張させています。森とクリエイティブに共存しながら場をつくり、定期的にイベントを開催することで、自然と人が集まる空間ができあがっていく、その過程を振り返りながら「人体実験をしながら暮らしている感じです」と笑って話すOLAIbiさん。冒頭のライブを思い返すことで、この森の生活が妙にリアルに想像できるという不思議な感覚がありました。

第3回 クリエイティブ会議「Local Community/Local Creative」レポート/ Q1プロジェクト
OLAIbiさん(写真中央)

SuperDeluxeプロデューサー Mike Kubeckさん

1998年、Mike Kubeckさんは仲間たちと共に麻布十番の倉庫を改装して「DELUXE」を立ち上げ、2002年には六本木のビルの地下に拠点を移し、オルタナティブスペース「SuperDeluxe」が誕生しました。「アートが生まれる過程をみんなで共有したいと思った」とMikeさんが振り返るように、アートと音楽の幅を広げながらパフォーマンスを追求する場として、約17年に渡り東京のアートシーンを牽引し続けてきました。

2019年にビルの老朽化のためSuperDeluxeは惜しまれながらクローズしましたが、現在Mikeさんは拠点を千葉の鴨川エリアへと移し、パーマカルチャーをひとつのキーワードに活動中。タイニーハウスをつくったり、牛小屋をイベントスペースに改装したり、地域の人と共に海岸沿いでイベントを行うなどの活動を通じて「海岸暮らしの再構築をしてみたい」とMikeさんは話します。

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Mike Kubeckさん

医学博士 稲葉俊郎さん

医学博士の稲葉俊郎さんは、東京大学医学部循環器内科から軽井沢病院へと移り、信州大学、東京大学 先端科学技術研究センターの2つの組織に所属しながら、今後は医療・芸術・教育を統合したまちづくりとして「軽井沢プロジェクト」に関わるほか、2020年の山形ビエンナーレでは芸術監督としても活動されます。

15分ほどの稲葉さんのプレゼンテーションでは、先端医学、山岳医療、在宅医療を一体化させること、原発と社会の折り合いを考えること、能楽をはじめ日本の伝統文化から学ぶこと、古代ギリシャで西洋医学の原点に触れたこと、“医療2.0”として心と体の健康学を考えていくこと、そこにおいて芸術がひとつのキーワードになっていくことなど、話題のジャンルは多岐にわたりました。

それがナチュラルに稲葉さんという一人の人間の中に共存していることに圧倒されながら、そして惹かれながら、そんな稲葉さんが見つめる山形ビエンナーレ2020に無性にワクワクしてしまう自分がいました。

第3回 クリエイティブ会議「Local Community/Local Creative」レポート/ Q1プロジェクト
稲葉俊郎さん

さて、後半はそんなゲスト3名とモデレーターによるクロストークです。

ゲストのみなさんのお話に共通するのが、ローカル、芸術、音楽、いのち、自然など、とりとめなくいろんな要素がただよう世界であるということ。既存の概念にカテゴライズできない、そこに新しいなにかを感じること。印象的な対話の一部を以下にお送りします。

岩井 稲葉さんはよく「全体性」について話されますよね。ひとつひとつ散りばめられた魅力的な点をつないだり、集めたりする役割や場所がこれから必要になっていく。ゲストのみなさんの活動からも、そういったことを本格的に始めようとしているように感じます。

稲葉 人間の生命というのは、1日というサイクルで完結しているものだと思っています。1日の中に生・老・病・死のすべてが含まれて完結して、その1日ずつが繋がって、ある人は10年生きたりある人は80年生きたりする。そういった本来の生命のあり方が現代ではバラバラになり失われている気がして、全体性を取り戻すことが大切だと考えています。

OLAIbi 森で暮らしてなにを感じていますか?と聞かれることがあるのですが、毎日の中に特別な出来事はないように感じています。大きな土地に引っ越してしまって、生きるとか死ぬとか、すごいとかすごくないとか、物事の大きさとか小ささとか、すべてが一緒くたになってしまった感じなんですよね。

第3回 クリエイティブ会議「Local Community/Local Creative」レポート/ Q1プロジェクト

岩井 今回のトークテーマを考えたとき、わかりやすく「ローカル」という言葉を使ったんだけど、それは不適切だったかもしれないと思っています。そもそも東京があってのローカルという考え方自体に疑問を感じるし、ぼくらはいま自分が暮らしている場所をどう掘っているか、つなげていくかを考えている。MikeもSuperDeluxeをやっていたとき、東京とは関係なくやっていたんじゃないかなって思うんです。

Mike そうかもしれませんね。そもそもSuperDeluxeは、クラフトビールをつくる場所を探していたときに出会ったスペースで、結果的にクラフトビールはつくれなかったけど、広い地下空間に可能性を感じてぼんやり始まったものでした。東京でなにかやりたいから始めたわけではなかったですね。
東京でも千葉でも「ここにいる理由はなんだろう?」と考えることがあります。自分のためにも周りにいる人のためにも、もっといい場所をつくりたいという気持ちがあって、そして1日1日を大切にしたいというシンプルな感じ。千葉で過ごすようになって考える時間が増えたかもしれませんね。

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岩井天志さん

岩井 ぼくも去年に山形に引っ越して、考える時間が増えたように感じます。流されない時間が増えたという感じかな。この場所で次になにができるかを毎日考えています。
今年の山形ビエンナーレでは、この第一小学校旧校舎がひとつの舞台になり、「いのちの学校」というプロジェクトをやろうとしています。ここに来れば元気になるような場所づくり。音楽もアートも身体表現も、医療も、ヨガも、食もいろんなことが混ざり合った、老若男女みんなが楽しく元気になれるような場所をつくりたいと思っています。

馬場 Mikeさんの話を聞いて、いろんなことを思い出していました。DELUXEもSuperDeluxeにも何度も行ったことがあるんだけど、あそこは定義できない場所だった。クラブのような日もあれば、ギャラリーの日もある、ただ飲んでいる日もあった。あそこはSuperDeluxeと言う以外には表現する方法がない。東京の他のどこにもあんな場所はなかったから、そういう意味では“どローカル”だったのかもしれない。だからこそ、ずっとおもしろかったんだろうなと思います。
なにかを定義しようとした瞬間になにかが固定化されて、見えるものが見えなくなる。肩書きとか場所とか、ぼくらは求めすぎていたのかもしれない。稲葉さんの全体性の話もそう。ぼくらは部分を見すぎていたばかりに全体性を見失っていた。これから大切にしたいのは、なにかわからない状態だけど、なにかをつくろうとしている状況が続いている、そんなことなのかもしれない。そういったメッセージをじわっと浴びているような、大きな気づきを得られた会でした。


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Photo: 青山京平
Text: 中島彩

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