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再生可能エネルギーに取組む!/長瀬農園 秋葉慶次さん・前編

2020.02.27

山形で再生可能エネルギー事業に取り組む先駆者たちとの対談を通して、その活動の原点や原動力そして未来のビジョンを探るシリーズ【グリーンエネルギー・フロンティア!】

今回のゲストは、長瀬農園・さくらんぼ共同発電所の秋葉慶次さん。聞き手は、ローカルエネルギーの研究者であり、東北芸術工科大学教授であり、そしてやまがた自然エネルギーネットワーク代表を務める三浦秀一さんです。

再生可能エネルギーに取組む!/長瀬農園 秋葉慶次さん・前編
長瀬農園の秋葉慶次さん(右)と、やまがた自然エネルギーネットワーク三浦秀一さん(左)。2019年8月、お米の収穫前の、秋葉さんの田んぼのソーラーの下で。

 

DIYでつくりあげた
田んぼのソーラーシェアリング

三浦:秋葉さんは、ここ東根市大富・羽入地区で、田んぼのソーラーシェアリングと、ワラビのソーラーシェアリングとをされています。まずは田んぼの方からご案内いただきます。

秋葉:こちらでは約800㎡の田んぼに高さ3mの支柱を立て、その上に約300枚の太陽光パネルを設置しています。下ではお米を育てながらその上で30kwの電力をつくっているというわけです。

三浦:今この瞬間も田んぼの上で電気が生まれている。

秋葉:ええ、今もメーターが回っています。

この田んぼのソーラーシェアリングをスタートしたのが2015年。今年で5年目になります。毎年少しずつ試行錯誤を繰り返しています。例えばこれまでは、支柱と支柱の間の田植えはずっと手で行ってきましたが、今年は機械でやりました。なかなか難しく、作業を奥さんに見てもらいながらケンケンガクガクとやったりしたわけです。

再生可能エネルギーに取組む!/長瀬農園 秋葉慶次さん・前編

三浦:パネル取付けは業者さんが?

秋葉:いえ、業者さんには支柱だけお願いしました。支柱は高さもあるのできれいに立てるのが意外と難しいのです。このあたりの地区はさくらんぼの産地ということもあってビニールハウスの得意な職人さんがいますので、その方にやってもらい、パネルを乗っけたり配線したりというような作業はぜんぶ自分でやりました。

三浦:ほぼDIYだというのがすごいですね。

秋葉:パネルを乗っける作業はそう難しいものでないですよ。中国から来た1パレット300kgほどのパネルを田んぼの端に下ろしてもらい、あとは1枚1枚、果樹用の高所作業車を使ってやっていくという…。

三浦:どのくらいの日数がかかってます?

秋葉:1ヶ月半くらいでしょうか。配線の設計などは実際にやりながら、という感じです。基本的には乾電池の直列の並べ方と同じです。いかに配線を少なくするかがポイントですかね。

三浦:とにかく自分で考えながらなんでもやる。とてもクリエイティブな仕事ですね。自分でやることでコストダウンもできますか?

秋葉:そうでしょうね。ただ同時に弱点もあるのです。例えば、強度計算が非常に甘い、とか。実際ここにある支柱のうちには雪の重みによって曲がってしまったものがいくつかあります。もちろん、そういうことが起きるかも、という想定はしていましたけど。実際にそういうことが起きたら、冬の間だけでも簡易的なジャッキを立てようとか、支柱を自分で取り替えてみようとか、いろいろとまた新しい工夫が生まれたりするわけです。

三浦:これらの支柱は田んぼでの農作業の作業効率に影響しませんか?

秋葉:作業効率が悪くなるというよりも、やっぱりすごく神経を使いますね。ふつうなら田んぼのなかをトラクターで代掻きしているとだんだん眠くなってきますけど、支柱が立っていると寝てはいられませんからね。慣れるまでは緊張感があります。でも、慣れてしまえばスキーの回転と同じで、どれだけポールの近くを回れるかみたいなことを考えますね。

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耕作放棄地をワラビ畑に変えた
もうひとつのソーラーシェアリング

秋葉:田んぼから少し離れたこちらでやっているのが、ワラビのソーラーシェアリングです。

三浦:ここは耕作放棄地になっていた場所ですね。

秋葉:そうです。遊休農地を使ってソーラー発電をやるわけですが、ソーラーパネルの下の土地をふたたび耕してそこで農作物を栽培する、ということです。ここの場合、育てているのはワラビです。1/3は私の土地ですが残り2/3は他人のもので、土地を借りての事業です。太陽光パネルもパワコンも、メーカーや性能は田んぼのものとはまた別のものを使っています。

三浦:放棄地だった土地が、農業と太陽光の両方で有効に活用されるわけですね。

秋葉:そうです。耕作放棄地というのは持ち主にとってはやっかいなもので、維持管理のために草刈りをしなければなりません。でも、私がワラビ畑をやることでそれをせずに済みますから土地を貸してくれたひとは喜んでます。放棄地の草刈りなんてただの手間でしかないですから。太陽光でつくった電気は売電してお金になるし、土地は放棄地にならずに済むし、貸したひとは喜んでいるし。とてもいいですよね。

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ワラビのソーラーシェアリングの畑にて。

 

三浦:なるほど。このワラビ畑のほうが、あちらの田んぼよりは広いですかね。

秋葉:ここは約1500㎡の土地に約700枚の太陽光パネルを設置していまして、出力は68kwです。支柱の高さは同じ3mですが、支柱と支柱の間隔は4mで、これは田んぼよりも1m狭い設定にしてあります。また支柱もジョイントも田んぼのものよりもしっかりしたものを使っています。田んぼのときの教訓がいろいろ活かされているので、こっちには曲がった支柱もないですね。こうした設備投資のお金は政策金融公庫からの借入と自己資金、そしてあとは協賛金を募って集めました。

三浦:パネルの角度も変えられるんですね?

秋葉:手動による可動式でパネルの角度調整が可能です。角度は季節ごとにだいたいの目安があり、8月は15度くらい。でも、そういうときにもあえて5度にして発電量を稼ごうとかいろいろ試します。冬場は60度くらい。しっかり角度をつけないと雪が積もります。わずか10センチでも積もると一切発電しないし、パネルや支柱が歪むので要注意です。

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手動でパネル角度を調節しているところ。

三浦:これだけの量のパネルを腕だけで動かせる。やろうと思えば女性でもできますね。遠目に見れば同じようなソーラーパネルの風景も、その性能や技術は日々更新されているわけですね。

秋葉:そうですね。

農産物が育つその上で電気がつくられ、その電気はここの電柱から流れていきます。このままだと電気は流れていくばかりで貯めて使うことはできませんが、おそらくこれからは自分でつくった電気を貯めたり自分の家で使う「自立型」へと移行していくのではないでしょうか。売電から自家使用へ、地産地消のような方向性ですね。

三浦:これからのチャレンジというのは、まさにそこですよね。売電のときには、買取価格は国が決めるものなので当然それに左右されるわけですけど、自分で使うぶんにはなんら左右されません。そのかわり昼は発電するけど夜は発電しないから、そのバランスを取るのも自分でやらなきゃいけない。それぞれがしっかり自分で考えて、知恵を絞らなきゃいけなくなっていくでしょうね。

(後編につづく)

text : Minoru Nasu  
photo: Isao Negishi

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