再生可能エネルギーに取組む!/加藤総業 加藤聡さん・前編
山形で再生可能エネルギー事業に取り組む先駆者たちとの対談を通して、その活動の原点や原動力そして未来のビジョンを探るシリーズ【グリーンエネルギー・フロンティア!】。
今回のゲストは、加藤総業株式会社・代表取締役社長の加藤聡さん。聞き手は、ローカルエネルギーの研究者であり、東北芸術工科大学教授であり、そしてやまがた自然エネルギーネットワーク代表を務める三浦秀一さんです。
港町・酒田の風で
風力発電に挑戦する地域企業
三浦:酒田市を拠点とする加藤総業さんは創業120周年を迎えられました。大変に長い歴史を刻んでこられた地域の老舗企業ですが、現在は非常に積極的に再生可能エネルギー事業に取り組んでおられるわけですね。
加藤:建設資材卸を事業の柱のひとつとしてきた弊社がここ酒田のまちで風量発電事業に参入したのは2005年のことです。最上川河口で3基の風車の運転を開始したことからはじまりました。事業参入についての検討をはじめたのはさらにそれよりも早く、2002年頃からだったでしょうか。
2000年前後のその頃というのは、私たちの会社は大変な時期を迎えていました。というよりも、世の中全体がとても大変な時期で、バブルがガタガタと崩れ、名だたる企業がどんどん潰れるなどしていました。そんな状況のなかで私たちの会社は一体これからどうしたらいいのか。経営を多角化して居酒屋などの飲食業でもはじめようかなどと本気で考えましたし、それはやっぱり事業の展開として正しくないなと考え直したりもしていました。
三浦:どこかに一歩踏み出さなければとさまざまに模索されていた時期だったわけですね。そこで踏み出した一歩が風力発電という事業だったのはなぜでしょう。
加藤:当時、港町・酒田の風を利用して風力発電をやろうとしている事業者が複数ありまして、「地元パートナーとして一緒にやりませんか」というようなお話をいくつかいただきました。結果からいえば、そのうちのとあるエンジニア会社とメーカーとの間に強い信頼関係を築くことができたこと、そしてそうしたパートナー企業とがっちりと手を組んでチャレンジできたことが、非常に大きかったように思います。
三浦:信頼できるビジネスパートナーに出会えたということですね。風力発電事業に参入したことによって会社にいい影響が生まれましたか。
加藤:会社の収益力が高まりましたよね。これはとても大きな事実です。そしてまた、山形県内の地域企業としてはじめて風力発電事業に参入したことによって、その第一人者として広く知られるようになり、会社の認知度が格段に高まりました。それをきっかけに「取引したい」というお声も多数いただくようになり、ありがたい限りです。
三浦:本業のひとつである建設資材卸というビジネスからの距離感も程よくいいという感じがします。
加藤:おっしゃる通りです。この事業を選んだ理由のひとつに、我々が扱う商材である建設資材を非常にたくさん使う事業であるという側面があったことも事実です。あまりになんの脈絡もノウハウもないところにいきなり飛び込むというのは、リスクだけが先行してしまいますからね。
三浦:そして現在までに事業を拡大し、この庄内地方で数多くの風車を回していらっしゃいます。
加藤:2019年現在、酒田市はじめこの庄内エリアには全部で37基の風車があります。弊社関連によるものはこのうち16基です。内陸地方にはひとつもありませんから、この庄内エリアの37というのがそのまま山形県全体の風車の数になります。これは風車の数の多さとしては全国20番目くらいでしょう。となりの秋田や青森は200基以上立っていますから、それに比べればまだまだ少ないですよね。しかも、風力発電のポテンシャルとして見ると、山形県は全国で7番目にポテンシャルが高いというデータがありますから、これからさらに建てていかければいけないと思いますね。
地域に吹く風で電気をつくり
地域にお金を残すしくみにしたい
三浦:風車の数において、山形県は青森や秋田に負けているということですが、私が注目したいのは地元資本の割合です。
加藤:山形県内37基のうち弊社関連の風車は16基あるわけですから、全体の約45%を占めることになりますね。
三浦:つまりほぼ半分。地元資本の割合の高さで見れば、これは日本一ではないかと思います。つまり、風車の数では他県に負けるとしても、その内容の質の部分ではどこよりも優れていると言っていいのではないでしょうか。
加藤:そうかもしれません。地元事業者というのはふつうなかなかいませんから。
三浦:最初は大手企業から「一緒に風力発電やろう」というお話があって、加藤総業さんはその地元企業パートナーとなった。おそらくそうしたパターンは他のエリアでもありうるだろうと思います。けれど、ここまで強い存在感を地元企業が発揮するに至っている県は他にないだろうと思います。
加藤:確かにそうですね。我々のように100%出資の特別目的会社(SPC)をつくってやっているなんていう例はほとんどないでしょう。自分たちだけでお金を調達することができませんからね。
三浦:資金的な問題が大きいわけですね。
加藤:そうです。やはり初期投資が非常に大きいのです。だからこそ地方で風力発電事業を行っているのは、大きな資金力を持つ大手企業ばかりという状況が生まれるわけです。しかしそのときに大きな問題となるのは、大手企業だけにまかせてしまうと最終的な利益が地域に残らなくなるということです。
三浦:地域資源によって生み出された恩恵がぜんぶ吸収され、持っていかれてしまう。
加藤:そうです。せっかくまちに風力発電所ができたとしても、その発電所の会社の住所が東京であれば固定資産税も法人税も利益もぜんぶ東京に行く。外資ならさらに海外にまで行ってしまいます。もちろん発電所工事のときには地元企業への発注は多少あることでしょう。けれど地元に落ちるのはそれっきりです。
しかし、風はここ酒田で、庄内で吹いています。その風でエネルギーが生まれ、それがお金になっているというのに、酒田にも庄内にも、もしかすると日本にすらお金が落ちないなんてことがあっていいのか。私はそれは絶対おかしいと思います。ですから「地元の風で、地元の事業者で、地元のお金で」というビジネスモデルにしなければならない。私は、そのビジネスモデルをつくるということが自分の仕事だと思っています。
東京の会社なら東京につくってくださればいいんです。原発だって東京につくってくださればいい。安全だというならそうすればいいのです。でも、原発は安全でもなんでもなかったわけですね。それなのに、そんなものをまだ動かそうとしてるわけです。
三浦:多くの人は、再生可能エネルギー事業について、誰がやっているのかとかどれだけの電気をつくれるのかとか、そういったところばかりを見ていて、事業者が地元でないならそれはそれで地元企業がリスクを取らずにすんで楽でいいんじゃないかくらいにしか考えていません。けれども、重要なのはお金がどう回っているのか見極めることだということですね。地元事業者が事業をやることが地域の経済をゆたかにし、結果的には地域の過疎化対策につながっていく。これはつまり、持続可能な地域づくりというSDGsの話だと思います。
地域企業は
地域と同じ船に乗っている
加藤:実際、大手企業というのは儲からないと判断すればすぐに撤退していきます。それは、良い悪いということではなく、そういうコンプライアンスになっているということです。その意味で、大手というのは無責任さが伴うのです。
三浦:ふつうの人は「大手さんだと安心」なんて思いがちですが、状況次第によってはどこかのタイミングでパッと逃げたりいなくなったりするということがあるわけですね。
加藤:そうです。おそらく風車を建てる際にも大手商社さんはきっと最初は「20年間しっかり当地で事業させていただきますのでよろしくお願いします」みたいなことを言うはずなのです。けれども数年経ってみたら「外資に売っちゃいました」ということになる。
三浦:それは単純に、売ったほうが得だからでしょうか?
加藤:そうでしょうね。売る方が得だとか、次の事業がやりたいという理由で売っちゃうわけです。ビジネスですからそれは悪いことではないと思います。でも、地域に生きる我々からすれば「それで良いんでしょうか?」って言いたくもなるというものです。
三浦:大手には「地域」という理屈は存在しないんですね。
加藤:しかし、我々地元の中小企業には逃げ場がありません。だからこそ、地域に対する責任というのは地域の会社でなければ果たせないのではないか、と私は常々思います。
どんな大きなことであっても、少しでも地域の企業や人が絡んでいれば、そういうことをなんとか阻止することができるかもしれません。「いやいや勝手に売らないでよ。俺らだって地域で生きてるんだからそんなことされたら困るよ」と言えるわけですから。だから我々としても、そうやって地域みんなで楔を打つべきじゃないかなと思います。
三浦:地域の責任を果たせるのは地域の人や企業だけじゃないか。地域がなければその企業もやっていけないし、地域の企業が頑張らなければ地域も活性化しないんじゃないか。地域と地域企業は一体だということですね。
加藤:そうです。我々地域企業というのは地域と同じ船に乗っているのです。そして地域の中小企業の集合体が地域を守っていくんだ!という気概が必要なのだと思います。
text : Minoru Nasu
photo: Isao Negishi
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