再生可能エネルギーに取組む!/みつばち発電所 木村成一さん・前編
山形で再生可能エネルギー事業に取り組む先駆者たちとの対談を通して、その活動の原点や原動力そして未来のビジョンを探るシリーズ【グリーンエネルギー・フロンティア!】。
今回のゲストは、みつばち発電所の木村成一さん。聞き手は、ローカルエネルギーの研究者であり、東北芸術工科大学教授であり、そしてやまがた自然エネルギーネットワーク代表を務める三浦秀一さんです。
60歳からの農業を見据え、
酪農から田んぼソーラーへ転換
三浦:もしかしたら1年のうちでもっともお忙しい時期に木村さんを訪ねてしまったでしょうか。
たくさんのソーラーパネルが並んでいるその下で生育されているこの田んぼの稲穂はずいぶんと色づいてきていて、今まさに稲刈りのときを迎えようとしているような感じがします。
木村:そうですね。9月も下旬になりましたから稲の穂はだいぶ実ってきましたが、よく見るとまだ多少青みがかった部分もありますので、あとほんのすこしだけ色づいてきたら刈り頃なのかなという感じです。そのタイミングを見計らっているところです。
三浦:田んぼでは稲が育っておいしいお米になり、その上ではソーラーパネルが電気をつくっている。つまりここは田んぼであると同時にまた発電所にもなっている、というわけですね。
木村:はい。この田んぼのソーラーを「みつばち発電所」と名付けました。天気が良いとたくさんの花の蜜を集めてくるみつばちのように、太陽光をたくさん集めて電気に変える発電所にしよう、ということで。
三浦:植えているお米の品種はなんですか?
木村:雪若丸です。高さ3メートルのパネルの下で育てるわけですから、あまり背丈が高く伸びてしまう品種よりもできるだけ低いものの方がいいだろうと思いました。つや姫なども品種的には背丈が短いという特徴があるのですが、それ以上に短いという理由からこのブランドに決めました。
三浦:木村さんがこうしてお米づくりをしながら太陽光発電も行うという営農型ソーラーシェアリングをやることにしたきっかけはなんだったのでしょう。
木村:我が家は代々農家としてつづいてきた家系です。私はその7代目でして、ちょうど私が生まれた頃からは酪農もやりはじめました。私が30歳を過ぎた頃に経営を任されるようになりまして、酪農の規模を拡大させてきました。牛舎を新築したり、最初はわずか数頭だった牛の数を50頭まで増やしたり、機械化を進めたりということをしてきました。
しかしそれから30年ほども経ちまして、酪農部門で投資してきたそうした設備や機械の老朽化がだんだんと目立つようになりました。加えて私自身も60歳になろうとしていました。ここからさらにあと10年20年と息の長い農業をつづけていきたいと思ったとき、酪農をやめて太陽光発電に取り組もうと決めたのです。
三浦:これから先の農業経営を現実的に考えて、もう一度酪農の設備や機械に投資するよりもソーラーに投資した方がいいだろうと判断されたわけですね。
木村:そうです。
三浦:毎日ミルクを出荷する事業から、毎日電気をつくって売電する事業への転換ということですね。
木村:そういうことになりますね。
ミルクというのは夏場に多少価格が上がる傾向があるものの基本的には価格の安定した商品でした。そして毎日出荷するので毎日の収入になるというところが農家としては非常にありがたいわけです。そしてその意味では、年間を通して日々安定的に電気がつくられそして収入になるというこの太陽光発電事業も感覚的には非常に近い部分があるわけですね。
三浦:なるほど。そのあたりの感じ方というのは、酪農と再エネ事業の両方を経験しているからこそ得られるものでしょうね。そこは一般的なお米だけをつくっている農家さんにはないものかもしれません。
木村:それからもうひとつ、実際に私がこうして太陽光発電の事業に取り組むことができていることの背景には、技術や建築の面からいろいろと協力してくださった高山工務店さんの存在が大きいですね。高山さんはこの置賜地区で太陽光発電に関するノウハウをたくさんお持ちで、この田んぼのソーラーパネルの設置でも大変お世話になりました。
ここの田んぼの面積はおよそ3800㎡で、その上には約700枚のパネルが並んでいます。これを設置するまでには田んぼに重機を入れたり、200本もの支柱を立てたり、さらには滑車とワイヤーを利用してパネルの角度を調整できる可動式の仕組みを取り入れるなどしてきました。こうしたことのほとんどは高山工務店さんのおかげで実現したものです。
特にソーラーパネルの角度を変えられる仕組みというのは重要で、これによって季節や生育状況に応じて稲に当てる陽射しを調整できるようになります。そうしたことが米の収量の安定的確保につながるわけです。
三浦:パネルの角度はかなり頻繁に動かしますか。
木村:いえ、このみつばち発電所でソーラーパネルの角度を変えるのは年にわずか3回ほどです。田植えの時期から7月下旬くらいまではパネルがたくさんの太陽光を浴びられるようにほぼほぼ水平にしておき、7月下旬から9月下旬まではできるだけ稲に光を与えるようにするためにパネルの角度を立てるようにします。その後、穂の実りが安定したらまた水平に戻す、という感じですね。
無農薬・減農薬のお米づくりと
循環型農業と再エネと
木村:ソーラーパネル下で育てているのは雪若丸ですが、そのほかの田んぼには無農薬栽培のつや姫もありますし、直播のはえぬきなどもありますし、いろいろな品種を育てています。また私は「米沢稔りの会」という生産者グループに所属しており、ここでは生産者の仲間たちとともに「日本一おいしいお米を無農薬・減農薬でつくる」ことをめざし、「上杉籍田(せきでん)米」と名付けたブランド米の生産と販売を行っています。
三浦:無農薬・減農薬のお米づくりを主軸とした農業を営まれているわけですね。
木村:ふつうの米以外にも、家畜の餌となる飼料用米も育てていますし、さらにはやはり家畜用の餌となるデントコーンのサイレージもつくって販売しています。そのほか畑では野菜も育てていますし、果樹にも挑戦しています。稲を育てる際には、農薬を使わずに済むようにということから、自然に還る素材を原料とした紙マルチを使用するなどもしています。
三浦:さまざまなチャレンジを、しかも環境への配慮を意識しながらやってらっしゃる。
木村:食料というのは本来は自分の国でまかなえるようになるというのがやはり基本だろうと思うんです。そのうえで農薬や化学肥料に頼ることのない農業をやっていきたいというのが私の理想です。そうしたとき、環境への配慮であるとか、循環型の農業の仕組みをつくっていくことは非常に重要だと考えています。
また、こうしたチャレンジをいろいろと展開してきた理由のひとつは、ほんの少しでもとにかく収入を増やしたかったからでもあります。例えば、稲を刈り取ったあとの藁を田んぼから集めてきてロールにし、それを販売して収入にしたりということもしています。酪農をしていたときにはその藁を牛の餌として食べさせたりもしましたし、藁を使って堆肥をつくり、田んぼや畑の肥料にしたりもしました。ふつうの米農家であれば、稲刈りをしてしまえばあとはお米を売るだけで終わりでしょう。けれども私の場合は、そうやって田んぼの藁を集めて畜産農家へ販売し、さらに近所の農家の藁も集め、その代わりとして堆肥を散布することで土壌を肥沃なものにしていますから、とても喜んでもらっています。これが資源循環の農業です。
三浦:木村さんにはそこにある資源を最大限に利活用するというマインドが強烈にあるわけですね。そしてそれが循環型ということにもなる。
太陽光という自然にある光を利用して収入をつくるのも、まさにそういうことですよね。
木村:そうです。しかもソーラーシェアリングに関して言えば、田んぼの収入よりも売電の収入の方が実際のところずっと魅力的なんですよね。
text : Minoru Nasu
photo: Isao Negishi
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