再生可能エネルギーに取組む!/みつばち発電所 木村成一さん・後編
山形で再生可能エネルギー事業に取り組む先駆者たちとの対談を通して、その活動の原点や原動力そして未来のビジョンを探るシリーズ【グリーンエネルギー・フロンティア!】。
今回のゲストは、みつばち発電所の木村成一さん。聞き手は、ローカルエネルギーの研究者であり、東北芸術工科大学教授であり、そしてやまがた自然エネルギーネットワーク代表を務める三浦秀一さんです。
自然の光による電気づくり
自分の手でやるからこそ面白い
木村:私の場合、太陽光発電というのがもともと大好きなんですね。ふつうにある自然の光を電気に変えるというのが面白いし、それを自分で使うことができるというのもすごく楽しいじゃないですか。
実は田んぼ以外に、車庫の屋根にもソーラーパネルを取り付けています。取り付けしたのは東日本大震災よりも前のことで、出力は10kw。発電した電気は基本的には自宅で使って、その余剰電力は売電しています。この屋根の上の方と下の方とでは設置してあるパネルが違っていて、上はあるメーカーから買ったものですが、下のは自分で探して見つけてきた中古品です。で、屋根の上に登ってこれらを並べて設置するのはぜんぶ自分でやりました。配線だけは業者さんにお願いしてやってもらいましたが。さらに言うと、この車庫はもともと昔からあったものではあるのですが、錆びて老朽化してきて建て替えなければならないタイミングだったので、それならということでソーラーパネルを乗っけることを目的としてより大きなものに建て替えしました。発電にちょうどいい車庫にしよう、と。
三浦:それはすごい。ソーラーのための車庫をつくったようなものですね。そうやってなんでも自分の手でつくるのがまた楽しいわけですか。
木村:それはありますね。機械いじりも大好きですし、自分でいろいろつくってみたくなる性格なんです。そして、とにかく使えそうなものはなんでもできるかぎり有効に使いたいという気もちもありますし。
三浦:震災前からですと、設置から10年くらいにもなりますか。
木村:今年でちょうど10年になります。FITの契約期間も終わりになります。そうなれば電気の買取価格はずいぶん安くなりますね。私はそれでもそのまま売電をつづけるつもりでいます。たとえ安くなってもゼロではないしわずかでもお金になるのなら、高い蓄電池を買って自給をめざすことに新たなお金をかけるよりも、そのまま売る方がいいだろうと思っているところです。
三浦:なるほど。
木村:さらにもうひとつ、ぜひ見ていただきたいソーラーがありまして…。ここはかつて牛を飼っていた牛舎跡地です。酪農をやめてから牛舎を取り壊して、ここに追尾型ソーラーパネルを設置しました。発電所として稼働したのは田んぼのソーラーよりも2年ほど早い、2016年のことです。
三浦:壮観ですね。追尾型というのはつまりソーラーパネルが太陽の動きを自動で追いかけて動くということですね。
木村:そうです。円形に並んだ約200枚のソーラーパネルが、モーターによって自動で動きます。つねに太陽の動きを追いかけるわけなのでパネルの発電効率が良いというのがこの仕組みのメリットです。もちろんそれだけ設備的な費用がかかってきますから、初期投資はふつうの野立てのものより3割増しくらいで高くはなります。お金は全額ローンで借りました。現在のところは、季節を問わず安定的に発電してくれますので毎月の収入も安定的で、売電したそのお金で返済できています。ここはときどき草刈りをするくらいで、メンテナンスの必要もほとんどありません。
三浦:本当に、マルチにいろんなことに取り組んでいらっしゃるのが木村さんの面白いところですよね。有機農業に没頭される方というのはたくさんいますが、同時に再生可能エネルギーに取り組まれているというのは木村さん以外にほとんど知りません。そうした縦割りの垣根を超えて良いものはどんどん取り入れていこうとされている柔軟性がすごいと思います。環境に良い農業を目指している多くのみなさんにも、ぜひ木村さんのように横串を刺すようなかたちで再生可能エネルギーへの取り組みにもチャレンジしていただきたいですね。
木村:まあ私の場合は今にはじまったことでもなく、子どもの頃はこのあたりの川の水で自転車の車輪に羽をつけて回して豆電球のあかりをつけて遊んだり、なんてことをしていましたからね。本当に昔っからそういうことを楽しんでやっていたんでしょうね。
三浦:それもまたすごいですね。
電気をつくる人と使う人が
顔の見える関係になる
三浦:ソーラーシェアリングを実際にやってみてよかったと気づいた点はありますか。
木村:この田んぼの上でつくられたみつばち発電所の電気は、「みんな電力」という新しい電力会社を通して全国のみなさんに買っていただくことができるんです。これはつまり、電力自由化によって電力のつくり手と消費者が自由に繋がることができるようなったおかげです。そうしたなか「顔の見える電気」ということで、電気の生産者としての私の電気をさまざまな選択肢があるなかからわざわざ選んで買ってもらえることができるようになった。それがすごくうれしいですね。
実際、知り合いのなかには「木村さんの電気を買っているよ」と言ってくれた人もいますし、山形の企業さんでも私の電気を選んで買ってくださっているところがあります。
三浦:買う側の人も電気が生まれた場所のことを知ることができたり、生産者のことを応援できたり、そこに関わる人々の志に賛同したりできるのがいいですね。電気のつくり手と使い手の間に新しい関係が生まれている。また、そうやって地元企業さんが木村さんのことを応援してくれていることがわかると、その企業さんのこともまた応援したい気もちになります。
しかし一方で、これだけ収入的なメリットがあり、生産者としての喜びもあるというのに、木村さんのような営農型のソーラーシェアリングがほとんど普及していない現状についてはどのように思われますか。
木村:農家でソーラーシェアリングを実践されている方というのは確かにかなり少数です。ほとんどいないと言ってもいい。それというのもまず、講演会や研修会などに自分から足を運ぶような人でないとその存在にすら気づかないということがあるのではないでしょうか。知る機会がないのですね。
そしてまた、一般的な農家の経営の事情というのもあるように思います。私の場合、経営を任されたのは30代のときで、そのときに親父から渡されたのはマイナス何百万円という通帳で、土地はあったけれども担保はゼロでした。そんな状況からの経営スタートだったものですから、たとえわずかでも収入になるものは収入にしようと自分ひとりで必死に考えそして実践してきました。けれども、ふつうの農家であれば、経営者として任されて経営判断できるというのはだいたい50代や60代になってからのことでしょうし、経営者となってからでも、例えばトラクターやコンバインを買う際でも自分ひとりで決められるかというと必ずしもそうではなく、大きな買い物をするときには家族会議で決めるという農家も多いでしょう。つまり、家族の同意がなければお金を借りることもできませんし、買い物ひとつできないわけです。
そうした状況では、いかに事実としてソーラーシェアリングが魅力的な農業であるとしても、家族にそれを理解してもらうのは非常にむずかしい。むしろ「そんなものに投資して大丈夫なの?」と反対されるのがオチかもしれないのです。
三浦:なるほど。
木村:その点、私の場合、ソーラーシェアリングはこれから先の農業のあり方として自分に合うものだと信じることができし、経営的に見ても非常に合理的なものだと思えたんですね。それを自分ひとりで勝手に決めてしまって、あとは奥さんの事後承諾を取るだけですから、実現することができた、ということだろうと思いますね。
(2019.9)
text : Minoru Nasu
photo: Isao Negishi
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