食彩やまがた12カ月 弥生「ふきのとう」
このコーナーでは今が旬のやまがたの食材にフォーカス。その天の恵みを育んだ風土や歴史、ひとの営みにも手をのばしていきたいと思います。
今月の食材は、ふきのとう。
地表すれすれをはうように伸びる地下茎から、ふきのとうは3つ、4つと同時に芽吹きます。だからでしょうか、この植物の花言葉は「仲間」。
ひとつところに根づき、成長していく姿はコミュニティに生きる仲間そのもの。今回は、そんな話しです。
西村山郡大江町七軒(しちけん)地区は、朝日連峰のふもとにある山里。福島県内に生まれ育った野木桃子さん(28歳)は2015年、この地へ移住してきました。
福島では介護施設で管理栄養士として働いていた桃子さん。高齢者にかこまれた日々の中で、一人ひとりが培ってきた知識や技術は「図書館のようだ」と感じ入ることが少なくなかったそうです。
大江町に移り住んだ桃子さんは、地域のお年寄りを訪ねては話しに耳をかたむける活動をはじめました。
干した餅と大豆を朴の葉に包んだ保存食を田植えの終わりにふるまう習慣。養蚕が行われていたころは大豆とうるち粉で餅をつくり、蚕にささげる…。
山里の恵みは神事に結びついたり、さまざまな保存食として家々に受け継がれていました。
そもそも煮炊きや暖をとるのに必要な炭焼きや薪集めといった山の職人たちがこの地域にはいたのです。
山菜やキノコに木の実。さまざまな山里の恵みのなかでも、ふきのとうは桃子さんの大好きな食材のひとつ。
米のとぎ汁でアクをとる方法。花がのびきったら若草色の茎を伽羅蕗(きゃらぶき)のように煮つけたり。山里に伝わる知恵を桃子さんは受け継いでいきます。
ところで、ふきのとうをはじめとする一部の植物には、苦味の強いものがあります。それは外敵からの捕食をのがれるため、植物がまとう目に見えないヨロイ。野生動物はふきのとうをほとんどクチにしません。苦くておいしくないことを記憶しているからです。
では、なぜヒトは苦いものを好んで食べるのでしょう?
アフリカに誕生した人類のとおい祖先は、恐竜を絶滅に追いやった氷河期を生き延びるのに、世界各地へと移動していきます。その壮大な旅のなかで厳しい食糧事情に適応するために、苦い植物をクチにするようになったのです。
きっかけはサバイバルでも、苦味の克服は飢えをしのぐだけではない進化をもたらしました。
ヒトの舌には酸味や甘味など5つの味を知覚するセンサーがあります。なかでも苦味には、ほかの4味をいきいきと感じさせる効果があるのです。
おいしいものをさらにおいしく感じさせる力が苦味にはあるのです。
いまでは1児の母になった桃子さん。母子ともに七軒地区のコミュニティに欠かせない仲間の一員です。「おばあちゃん見習い」を自分の役目とし、山里の知恵と工夫を、これからは子どもたちの未来のためにも受け継いでいこうとしています。
最後に野木桃子さんのおすすめレシピと当店のレシピを紹介しておきます。(次回は4月上旬の掲載予定)
今月の旬菜メモ
ふきのとう(蕗の薹)
キク科フキ属の多年草。日本原種で北海道から沖縄まで広く分布。近似種のセイヨウフキ「Butterbur」は、バターを包むのに抗菌、抗酸化作用のある葉を使ったことが語源とされている。
野木桃子さんの地域のお年寄りへのヒアリングによると、道ばたで摘んだ桑の実をふきの葉でくるんで絞り、即席桑の実ジュースとして遊びのなかで楽しんだそう。
野木桃子さんのおすすめレシピ
じゃがいも詰めふきのとうのフライ
皮付きのじゃがいもを竹串がすっと入るまで蒸してマッシュポテトをつくり、少量の塩こしょうで味をととのえる。
ふきのとうの花の部分をきれいに取りのぞき、マッシュポテトを詰める。片栗粉など粉をまぶし、ふきのとうの葉がからっとなるまで揚げる。
ニョッキのようなじゃがいものしっとりとした食感とふきのとうの天ぷら、ふたつを同時に味わう楽しさがある。
世界各地を旅し、地域の伝統料理とその背後にある風土や文化を学ぶことをライフワークにしている桃子さん。このレシピは岩手県北上山地をトレッキングした際、山小屋でふるまわれたひと品。
現在桃子さんは大江町七軒地区のお母さんたちが主役のごはん会のサポートや企画、お母さんたちが採取した山菜やきのこなどを桃子さんが調理するケータリングを各地(これまでに東京や山形市など)で行っています。
野木桃子さんの活動の最新情報などは、こちらまで。
https://www.facebook.com/momoko.nogi.1
ワインビストロのレシピ
ふきのとうのバーニャソース
にんにく1かけ分すべてを縦に半割りし、芽をきれいに取りのぞく。ミルクパンなど小鍋ににんにくを並べ、ひたるくらいの牛乳を入れ弱火にかける。ふきこぼれるほどゆであがったら、牛乳をいれかえておなじ工程を3回くりかえす。
下茹でが終わったら、再度牛乳をにんにくが完全に隠れるほど注ぎ、弱火でとろとろ30分ほど煮込む。
煮込み終えたらミキサーに移し、アンチョビ大さじ1、白ワインヴィネガー小さじ1、少量の塩こしょうとエクストラヴァージンオリーブオイルをくわえてまわす。その際の牛乳の量でクリーミーな仕上がりか、グリーンの青みが生き生きしたソースにするか作りわけられる。
写真のようにひと口大にカットした野菜とソースで皿を飾る。