real local 山形旅のはなしvol.6/武田良平さん、登希子さん「ブランドの名前」 - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

旅のはなしvol.6/武田良平さん、登希子さん「ブランドの名前」

地域の連載

2020.07.20

山形で独創して営む人たちに尋ねました。忘れられない旅のこと。歩んできた道のりのこと。そして、今について。ご本人たちの語りで届けるシリーズ「旅のはなし」です。

旅のはなしvol.6/武田良平さん、登希子さん「ブランドの名前」
武田良平さん(本人提供)

良平:いま、月曜日はお店を午後3時からのオープンにしているんですが、以前だったらそういうことも考えられなかったように思いますね。これまではお店は基本的に午前中から夕方まで決まった時間で開けなければという意識でしたが、この1年くらいいろいろ考えていたんです。そのうち、他のお店さんがこうやってるからうちもそうしようといった固定観念のようなものが薄れてきて、営業時間以外にも、販売するものや販売の仕方だとかも、あまり一般論にこだわらなくてもいいんじゃないかなと思うようになって。ここ数年で、考え方がすごく変わった気がします。

旅のはなしvol.6/武田良平さん、登希子さん「ブランドの名前」
武田良平さん、登希子さんのお店「DIMPLE」店内のようす(武田良平さん、登希子さん提供)

今のお店を始める前、僕は東北6県で洋服屋を経営する企業に就職して、山形市内の店舗に勤めていました。メンズとレディース両方を担当してみて、やっぱりファッション業界は女性市場なんだなあってそのときにすごく感じたんですね。なので、今はメンズも扱っていますが、まず自分で店を立ち上げるにあたっては、レディースの服から扱ってみようと。たとえ自分が着る服ではなくても、服を仕入れてそれを紹介すること自体が好きだったんです。

服一点一点を見てみると、もうほとんどのものがある程度以上の品質に達している時代だと思うんですね。真面目に作っていらっしゃる方のものなどは、悪いものって正直ないんです。ならば、その服の先に何が見えるか。選ぶときには、それを大事にしています。作っている人の顔が見えるか、服のあり方に共感できるか、着てみたいな、かっこいいなと思えるか…。

展示会で服そのものに触れて、その作家であるデザイナーさんともお話したりしますが、その前にホームページやSNSで服の情報に触れる際にも、伝わってくるものはたくさんあるんですね。それは、写真に何を映しているかであったり、どんな言葉で表現しているかであったり。そういった、服の見せ方ひとつをとっても、ブランドや企業のあり方において透けて見えるものがある。または、作ったものを自社で販売しているかなど、服に対する実際的な熱量や継続的な仕組みといったところも、やはり大切なところだと思っています。

旅のはなしvol.6/武田良平さん、登希子さん「ブランドの名前」
「DIMPLE」店内のようす(武田良平さん、登希子さん提供)

個人的には、ブランドの名前というものも、とても大事な要素です。何がいい悪いではないんですけど、ブランド名の字面や響きに触れたときに「かっこいいな」と単純に思えるものだけを選びたいなと思っていて。それは服の本質ではないという人もいるかもしれないですが、自分で作って世の中に発信するものの名前にきらめきがなかったら、実際のものも、伝わっていくなかで魅力を欠いてしまうように思います。ただ飽くまで、僕の感覚と合うかどうかということではあるんですが。具体的な何かというより抽象的な広がりがあったり、響きがよくて、印象に残り、その名前を言いたくなったりするような。そういったブランドの名前がすごく好きですね。

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店外の花壇。雨の季節にはアマガエルが葉の隙間から飛び跳ねる(武田良平さん、登希子さん提供)

服と地域性というのは、密接に関係しているなというのはいつも感じています。ある土地ではすごくよく見えるものでも、ある土地では馴染まないというのも当たり前にある。例えば、とあるブランドの服を見て、すごく色が綺麗で涼しげで、僕らの店にはあまり並ばないような雰囲気だったんですけど、こういう新しさを取り入れるのもいいかなと考えたことがありました。しばらく迷ったものの、そのブランドの直営店は関東の海辺の街にあり、そうした潮風の吹くロケーションと穏やかな気候のなかだからこそ一層素敵に見えるのかなって思ったんです。

一方、まわりを山々に囲まれたこの山形でその服を提案して、服のもつよさを引き出すことができるかな、日常的に着る人の気持ちとマッチするかなと想像したときに、少し説得力を欠くように思ってやめました。難しいところではありますが、服そのもののよさとは別に、山形に住んでいる方たちに気持ちを寄せながら服を選んでいるというところは多分にあるように思います。

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霞城公園は、休みの日の二人の定番散歩コース(武田良平さん、登希子さん提供)

その意味でも、自分たちの店に並べる服については、機能性とデザインとが組み合わさったものでないと選ばないですね。冬だったらあったかい、夏だったら涼しいという、その機能的な快適さに特化した服というのも世の中にはたくさんあると思うんですけど、根底にはやっぱりファッションがあったらいいなと思うので。
でも、だからといってファッション特有の緊張感のようなものが張り詰めていないのが、うちの店のおもしろさかなと。来てくださるお客様も幅広くて、すごく服が好きでトレンドに敏感な20代や30代の方もいれば、夏だから着心地のいいTシャツを探してぶらりと来てくださる方もいるし、お孫さんがいるような世代の女性にも通っていただいていたり。いろんなことを試しながらお客さんとやりとりをするなかで、そんなふうに僕たちの店ならではのあり方が見えてきたこともあり、もっとマイペースに、自分たちのやり方でやっていけたらいいのかなって最近思うようになったんですね。

登希子:あとは、一度やってみてうまくいかなくても、何度でもやり直してみればいいかなと最近は思うんですね。何度転んでもいいので、今を一番楽しくしたいなって。この春はいろいろ企画をやりたいなと思ってあれこれ仕込んでいたんです。来てくださるお客さんにも、「来年はこんなことするので楽しみにしていてくださいね」って前々から話したりしていて。でも、コロナの影響で全部だめになっちゃった。次のことを考えたり、話したりすることも大事だけれど、今どうしたいか。先のことより今を充実させたほうがいいんだなあって思ったんです。そうしたら、人にどんなふうに見られるかとか、他人の評価はちょっと置いておこうかなと。将来の自分と比べると今の私は一番若いので、今やりたいなと思うことをまずやることが大事だなって思ったんですね。

旅のはなしvol.6/武田良平さん、登希子さん「ブランドの名前」
最近の登希子さんのお気に入りは、茅乃舎のだしパックと黒米。「白米に黒米を混ぜて炊き、だしパックで味噌汁が美味しくなってからは、朝はすっかりごはん党になりました」と良平さん(写真:武田良平さん、登希子さん提供)

良平:僕ら夫婦に共通していることは、人とあまり会わなくても大丈夫なところかもしれないですね。遠出だったり、人との交流だったり、そういうものから受ける刺激がそんなになくても大丈夫というか。それなのにこのインタビューをお受けしていいのかっていう気持ちなんですが(笑) でも、旅ということで言えば、僕の場合は店の中にいれば旅をしている気持ちなんです。着方ひとつで服の見え方が変わったり、びっくりすることがいっぱいあって。

登希子:お客さんが入ってくると、また全然違うことが起きるよね。お客さんがまとうことで、服の見え方もどんどん変わっていったり。

良平:そう。それに店には常に新しい服が入ってくる。服の買付けを行う展示会は、通常7月から始まって9月頃まで続くんですね。納品は早いところだと1月から始まって5月くらいまで続くので、約1年前にオーダーしているような商品もあります。

新しい服が入荷するときは、やっぱり一番楽しい。店にやってきた服を見ながら、どう紹介しようかな、誰がいいって言ってくれるかなってあれこれ考えるのが一番楽しいんです。お店を始めたのが2008年なので、今年13年目になりますが、なんで10年以上もそれを続けていられるのかは、自分でもわからないですよね。でも、何もないところからかたちを作り出すことはできなくても、そのよさを伝えることはできるかなと思ってやっていて。今が一番、楽しいですね。

旅のはなしvol.6/武田良平さん、登希子さん「ブランドの名前」
写真:武田良平さん、登希子さん提供

<プロフィール>
武田良平、登希子(たけだ・りょうへい、ときこ)
店主の良平さんは、1980年生まれ。山形市出身。山形市内の洋服店に5年間勤め、2008年に独立して登希子さんとともにDIMPLEをオープン。山形市飯田にある店舗では、レディース、メンズの服のほかファッション雑貨も取り揃える。扱う商品やブランドについては、Instagramブログで随時紹介している。https://dim-ple.com/