暮らしの処方箋「ローカルで愉しく生きること」を目指して
「real local名古屋」運営メンバー紹介
10代後半から20代をアメリカで過ごし、グローバル企業を経て、老舗の建築屋を継ぐために愛知に戻った筆者。グローバルとローカル、両極端な暮らしを経験しているからこそ見えてきた「ローカルで愉しく生きること」について語ります。
――このお話に入る前にまずは自己紹介
愛知県丹羽郡大口町生まれ。実家の付近には田んぼが広がり、幼少期を製材場や大工小屋の大鋸屑の香りの中で過ごす。中高は名古屋の学校へ片道1時間半かけて電車通学し、18歳でアントレプレナーシップを学ぶためアメリカの大学へ進学。卒業後、経営コンサルティング会社にて戦略/業務コンサルに従事。30歳の時に、家業を継ぐために愛知に戻る。
――real local名古屋をやりたいと思ったきっかけは?
このプロジェクトが面白いと思っているし、必然だとも思っています。それには、もしかしたら、私の経歴が関係しているのかもしれません。
―グローバルもローカルも経験した10代から30代
高校卒業と同時に渡米し、はじめはテキサス州、その後インディアナ州の大学に在籍していました。ビジネススクール卒業後は、外資系のコンサルティング会社で、東京オフィスをベースに大阪や名古屋、バンコク、ニューデリーやムンバイといった大都市で、グローバル企業を対象とした経営コンサルティング業務に寝食忘れて従事していました。
当時は、大きなスーツケースとノートPCの入った鞄を両手に携えながらホテルを転々として暮らす日々でした。そんな根無し草のように漂う生活をずっと送ってきたのですが、30代を手前に急遽家業を継ぐことになり愛知県に戻りました。
それからというもの、グローバルな生活から一変してローカルな生活になった訳ですが、いざ暮らしてみると、地元だと思っていた名古屋のことを、全く知らないことに気づかされました。さらに家業はというと、明治35年に木材問屋として創業し、その後110年以上の長きにわたって、住宅を中心とした木造建造物の設計施工を行う地場企業です。
特に住宅建築は施主と共に、職人さんと家をつくっていくことであり、遠く離れた場所ではできない、まさにローカルな仕事です。当然なのですが、地元の情報を熟知し、地元の人的つながりを持っていないと稼ぐことが難しい。恥ずかしながら、そんな当たり前なことに、ここ数年でようやく気づきました。
一方で、大多数の人は、ローカルに生まれ、学び、働き、暮らし、そして死んでゆく。それなのに意外とローカルのことを知らないし、むしろ昔の私がそうであったように、グローバルがカッコいいことのように思っているのではないか。
“ローカル”つまり、今自分たちが住んでいるこのエリアにお金が循環しないと自分のまわりは豊かにならない。その筈なのに、殆どの人がそれに気づいていない。お金を自分たちの生活圏外に流出させていることに無自覚なのではないかと思うのです。
今だからこそ、ローカルでお金を回していくことの大事さを身にしみて感じていますし、周りの人にも意識して欲しいと思っています。
――お金を循環させるにはJOYが大事
地元でお金を回すことで大事なのは、ラ・カーサの家づくりの理念でもある“JOYある豊かな暮らし”。このJOYを感じられる「モノ」、「サービス」、「人」を発見して、ローカルにお金を循環させる仕組みをデザインできるといいと思っています。その仕組みの一つがreal localで、ローカルに生きる人々に、このエリアに、こんなにもワクワクするものがあるっていうことを知ってもらえるきっかけにしたいと思っています。
ただし、ここで言うローカルというのは、名古屋だけに限られていないと思っていて、名古屋や愛知よりももう少し広い、東海もしくは中部経済圏のことです。名古屋だけで区切ってしまうこともできるかもしれないですが、そうすると消費者に無理がかかると思うのです。つまり、地元であるという理由だけで、心底欲しくないモノやサービスまでをも消費しなくてはというような、無理やり消費のような循環は、人間の消費の本能からして不健全だと思います。あくまでも、「それいいね!」と思えるモノやサービスをローカルで提供し、楽しく消費する、そんな持続可能な消費の循環が美しい。そうすると、名古屋だけでは提供しきれないので、おのずともう少し広いエリアまでをローカルと捉える必要があると思うのです。あくまで、自分なりに暮らしてみての肌感覚ですが(笑)。
ローカルで経済が循環すれば、自分のまわりが豊かになり、そこには働きがいも見えてくるもの。顔が見えない誰かのためにじゃなくて、もっとリアルな充実感を得られるのではないかと思うのです。
――最後に、ラ・カーサとして
現在、新築注文住宅としては、お陰様で愛知県の尾張地区と三河地区で年間70棟ほどをお手伝いさせて頂いています。住宅は、住まう人の生き方や働き方に呼応した建築であるべきで、同時に、そのエリアならではの風土や価値観も捉えていないといけない。ローカルに生きる人のリアルな価値観を丁寧に汲み上げることは、住宅建築には不可欠だと思います。
だからこそ我々は、「real local名古屋」を通じて、ローカルにおいてクリエイティブに、楽しく働きながら暮らす人々を探り当てていきたいと思っています。その出会いから、上手にローカルと向きあう暮らしのありかたを学び、我々の顧客とも共有していきたい。そうすることが、このエリアならではのJOYある豊かな暮らしと、それが反映された住宅が増えていく方法論なのではないかと思っています。
ローカル経済を軸に、デザインやアートといったクリエイティビティが備わることによって広がる楽しさ、面白さ、ワクワク感、そんなポジティブな感情を生み出したい。「real local 名古屋」でもそこを上手く表現できたらと思っています。