庭師も変化する。ガーデンデザインから施工まで行う庭師集団「庭彩工」
インタビュー
「庭師」と聞いてイメージするのは、脚立の上で松の木を剪定する職人さんのような姿ではないでしょうか。しかし近頃では時代のニーズに合わせて求められる技術も多様化し、仕事の内容、出で立ちさえも様変わりしています。庭木や芝生の手入れはもちろん、お庭全体の設計から施工、アフターケアまで一貫して行う庭師集団「庭彩工(にわざいく)」代表の戸田龍佑さんを取材しました。
――戸田さんは、昔ながらの庭師さんのイメージとは雰囲気がずいぶん違いますね。
そうかもしれませんね(笑)。庭師とは、もちろん日本庭園で庭木をきる職人のことでもありますが、最近はそれだけでは業界が成り立たなくなっています。庭師に求められる能力や技術もどんどん高くなっていて、仕事の幅も広がっています。住宅の敷地全体の中で、家(建物)以外のエリアのすべてを扱うと言ってもいいかもしれません。
――地元・名古屋の大学を卒業した後、造園会社に就職して庭師の仕事を学んだそうですが、最初に東京の会社を選んだのはどうしてですか?
実を言うと東京でなくてもよかったんです。就職先を探すときにもっとも重視したのは「どこで働くか」よりも「何ができるか」ということ。技術者として、お庭についてトータルに提供できるスキルをまず身につけたかったので、その全てが経験できる会社を選んだらそれがたまたま東京だったということなんです。
――そうだったんですね。ところで、そもそも戸田さんが庭づくりの仕事を目指したきっかけは?
ずっと前から漠然と自然や環境に興味を持っていて、建物や土地を扱う分野を志しました。大学では建築を専攻し、そこでの学びの中で、自分が前からやりたかったことは「ランドスケープデザイン」に一番近いかもしれないと気づきました。それがきっかけで、お庭づくりをやろうという目標が明確になりました。
――地元の名古屋に戻って起業された経緯は?
最初に勤めた会社ではお客様への対応、施工、設計など庭づくりの技術の一通りを現場で一から学ばせてもらいました。次のステップとして、技術だけでなく提案力を身につけたいと思い、転職を考えたんです。
当時、関東で常に予約待ちになるくらい人気のある外構(エクステリア)の設計会社を紹介してもらったところ、名古屋にも支店があるということがわかり、支店長と面談したら僕の想いに共感してくださって。それで名古屋支店に勤務が決まりました。
そもそも提案力を身につけたいと思ったのも、いずれは名古屋で独り立ちしたいと考えていたからだったので、ご縁によって名古屋に戻れたのはラッキーでしたね。
名古屋の人って地元志向が強いと言われますが、僕も生まれ育ったこの街が好きなんです。田舎っぽさと都会っぽさの程よいバランスが居心地良いいんですよね。
――独立する際、自分の仕事のスタンスやスタイルにはどんなイメージを描いていましたか?
施工と設計が一体であることです。「自社設計・自社施工」をうたう業者さんや会社はけっこうありますが、それとも少し違って、僕自身が設計者でもあり同時に技術者でもあることが大事。さらに自分だけでなく、そういう職人たちと組み、複数で一緒にやっていきたいと思いました。
業界内の職人不足も深刻な問題で、社会貢献として職人の地位も向上させていけたらいいなと。なにより、お庭を届ける庭師としてたくさんの人に緑や自然の持つパワーを知って欲しいですし、お庭を通じての豊かさや幸せを追求したい。
そんなふうにいくつもの想いをつなぎ合わせたものが、僕の描く理想のイメージです。実際、設計と施工を一貫して引き受けることで、お客様からも安心感があると言っていただくことが多いですね。
――お庭づくりの熱意が伝わってきますね。具体的にはどんなことをしていただけるのですか?
設計から施工まで行っているのは先ほどお伝えしたのですが、それ以外にも、お庭のお手入れ、DIY、セミナーなどを行っています。
お庭のお手入れは、作庭いただいたお客様に施工後1年間無料のサービスをしています。ご希望の方には剪定方法もレクチャーしていますよ。美しい庭を維持して、楽しんでいただきたいですからね。
DIYは、お庭を自分で作ってみたいけど、何からしていいか分からないという方に、私たちや職人と一緒に庭づくりを行っています。庭づくり自体も楽しんでしまおうというものですね。道具はこちらが全て手配し、難しい作業はプロに任せながらも様々なことに挑戦して、自分らしいお庭づくりを全力でサポートいたします。
まだ回数は多くないですが、お庭に関するセミナーも行っています。樹木剪定のレクチャーやきれいな寄せ植えテクニック講座、花壇やウッドデッキ等の作り方、お庭のデザインでのポイントなど、庭を楽しむヒントをプロがお伝えさせていただきます。
その他にも、不要になった庭石や樹木を次の担い手につなげることを行っています。お庭での歴史を刻んできた庭石や樹木は、ほとんどの場合、不要になれば処分されるしかないのが現状です処分するのではなく、次の担い手へ繋いでいくことは、作庭家として私自身が大切にしたいと思っています。
――庭師としていろんなことをされているですね。今後の目標を聞かせてください。
個人邸でも公共空間でも、また時代が移り変わっても、お庭そのもの、つまり暮らしを取り囲む「環境」とか「自然」が持つ価値やパワーの根本は変わらないのではないかと思います。僕が届けたいのはそういう本質の部分。常に人との関わりを大切にし、できることの幅を広げていきたいですし、お庭づくりはずっと続けたい。今後どんなに仕事が増えても涼しい場所で指示だけ出しているより現場で汗を流していたいですね(笑)。
取材/岡田 直也
愛知淑徳大学間宮研究室。2000年愛知県岡崎市生まれ。生粋の愛知っ子。愛知の建築学生。名古屋が大好き。
取材/玉山 真穂
愛知淑徳大学間宮研究室。1999年愛知県大府市生まれ。愛知で建築を学んでいる。名古屋メシの中では台湾ラーメンが好き。小倉トーストも好き。喫茶店や商店街も好き。