名古屋で注目のエリアで話題を呼ぶコーヒースタンド「Pharmacy Coffee Lab」
地域の店
「あのコバタクさんがコーヒーショップを始めたらしい!」 〝コバタク〟こと小林拓一郎さんは地元・名古屋のラジオ局ZIP FMで人気のナビゲーター。人が多く集まる栄や名駅ではなく、あえて「千代田」というエリアで、まったく経験のなかったコーヒーショップを始めました。オープンから一年あまり。現在の心境と、間も無くスタートする、さらに大きなチャレンジに賭ける思いなどについて聞かせてもらいました。
ポートランドへ留学した10代
「10代の頃からバスケットが好きで、本場でバスケをやりたいと夢見てアメリカのオレゴン州に留学していて。当時住んでいたのはポートランドに近い街。ポートランドって、サードプレイスコーヒー発祥の地とも言われるだけあって、街中どこに行ってもおいしいコーヒーが飲めるんです。
しかもどの店もローカルにしっかり根付いていて、若者からおじいちゃんおばあちゃんまで、あらゆる世代の人たちがいつも一緒に楽しそうにくつろいでいる。ときにはカフェ主催のライブやイベントが行われたりして、常に地域のコミュニティのハブのような場になっているんです。そんな光景を見ながら、名古屋にもこういう場所がたくさんあるといいなあと思っていました。」
その後、留学先で出会ったラジオの世界に魅せられ、名古屋に戻りFM局のナビゲーターに。以来、15年以上にわたって活躍を続けながら、ポートランドで見た光景に憧れて仲の良い友人が営むカフェやお気に入りのお店に通い、好きなコーヒーを楽しむ日々を満喫していました。
コーヒーショップの裏にある大きな構想
「まさか自分がコーヒーショップをやるとは思ってもなくて、僕もびっくりでしたね(笑)というのも、この店をやる話が持ち上がる前から、実は僕には他にもっと大きな構想があったんですよ。」
名古屋での活躍が知られるコバタクさんですが、生まれ育ったのは同じ愛知県の豊川市。故郷には、お父さんが長年世話をしてきた広大なぶどう畑があるそうです。ところがお父さんが数年前に他界。ぶどう畑だった土地をコバタクさんが相続することになったのです。
以前から地元・豊川に誰もが自由に使えるバスケットコートがあればという夢を密かに温めていたコバタクさん。壮大な夢をかなえるべく、大きな借金を背負ってこの土地に自費でコートをつくろうと決意。
バスケットコートを実現するために
「でもね、ただコートを造るだけでは有意義に生かしきれないし、そもそも維持ができない。かといって管理人を置くにも人件費が必要でしょう?だったら、そこにカフェを併設すれば維持費の一部でもまかなえるんじゃないか、そういう発想でプロジェクトを立ち上げました。
ところが、まず農地を整備することから始めて他にもいろいろやることがたくさんあるので、オープンまでの準備にけっこう時間がかかるんですよ。
そんな中でこのビルに出会って、2階のこのスペースを自分の事務所にしようかなと思っていたところ、不意に、コバタクさん、いっそのこと1階でコーヒーショップやりませんか?って話を持ちかけられて。最初はまさか自分が?という感じでしたけど、いずれ豊川でカフェをやるなら手始めにここでやってみるのもいいかなと。」
名前からその場所のストーリーを感じる
こうしてオーナーになったコーヒースタンド、名前は『Pharmacy Coffee Lab(ファーマシーコーヒーラボ)』。もともと薬局だった跡地に建てられていることから「大池薬局ビル」と付けられたビルの名前にちなんでいます。
「土地の歴史を大事にする感覚もポートランドの人たちから学んだもの。あちらには名前からその場所のストーリーを感じるようなお店がたくさんあって、そういうのってかっこいいなって思って、この店の名前もそうしました。最後にラボと付けたのは、ここがまさに自分にとっての実験的な場だから。ちなみに、豊川で進めているバスケットコートの名前は『グレープパークコート』。もともとぶどう畑だったからね!」
面白くない名古屋と感じていた過去
多彩で魅力的な友人たちに囲まれ、好きなことを心から楽しむ生き方に憧れるファンも多いコバタクさん。しかしある時、自分の考え方やスタンスに疑問を感じたことが。
「かつての僕は、名古屋って面白くないって不満ばかり感じてて。面白いことはポートランドに行って楽しめばいいやって思ってたんですよ。けど、なんかそれって違うんじゃないかって気づいたんです。
そもそも僕がポートランドになぜ魅力を感じたかといえば、楽しいことはなんでも自分たちの手で作り、今いる場所を心から楽しんでいる姿なんですよね。だから、そこに乗っかってるだけの自分はなんてダサいんだろうって。」
このエリアにいて感じること
自分自身の夢へのステップとして、また街の人たちにとっての「ハブ」のような場所を目指して始めたお店は、名古屋の中心街から少し外れた、運河を取り囲む「千代田」というエリアにあります。オープンから一年を経たいま、コバタクさんが思うこの街の印象や気持ちをうかがってみると・・・。
「この店を持つまで千代田にはほとんど縁がなかったけど、実際に来てみると面白い場所がすごく多くて、新しく参入してくる若い人もどんどん増えてる。その先駆け的な存在が、自転車好きたちが集まる『サークルズ』。
そこから若い人や感度のいい人たちのコミュニティが生まれて次々に広がっていった。評判のカレー屋やバーもできたし、超人気のパン屋さん『スーリープー』も近くにあるし。最初は点と点だった面白い場所とかいいお店が徐々につながって線になり、やがて面としてエリア全体が魅力のある街になっていく、これってまちづくりの基本で理想の形でもあると思うんです。
今後はこの界隈が名古屋でも注目のホットスポットになっていくんじゃないかなって気がしています。ぜひ歩いてまわって楽しんでほしいですね。」
取材/長谷川 未穂
愛知淑徳大学間宮研究室。1998年三重県生まれ。愛知県で建築を学ぶ学生。大葉と餅をこよなく愛する。
取材/加茂 千夏
愛知淑徳大学間宮研究室。1998年神奈川県生まれ。様々な地域を転々とした後、現在は愛知県で建築を学んでいる。犬に似ているとよく言われる。ちなみに犬種はキャバリア。