着物への愛が叶える「僕らのゆめ」
地域の店
名古屋市営地下鉄名城線・矢場町駅からほど近い、若宮大通に面した一角にある「僕らのゆめ」。斬新なデザインが目を引くオリジナル着物の販売や、着物で楽しむユニークなイベントの開催など、幅広い世代から熱烈な支持を集める着物のお店です。自らデザインも手掛ける取締役の高橋健太郎さんとスタッフの近藤恵里香さんにお話をうかがいました。
――高橋さんは、元々呉服屋さんで働かれていたんですか?
高橋:2009年の4月、僕はまだ20代でした。その前は名古屋郊外の小さなまちの呉服屋で従業員として働いていて、当時、せっかく着物を買ってくれたお得意様たちが、実際に着て楽しむ機会が少ないということを知り、すごく残念に思っていたんです。年齢層は60代以上の方がほとんど。
世代的にも着物の良さはちゃんと知っていて、子育てを終え経済的にも余裕があるので、定期的に購入はしてくださるんですが、実際に着る機会があまりないんですよね。
同時に、着物の産地では若い職人がどんどん減っているという現状にも危機感がありました。着る人が減れば当然売れなくなり、給料が少ないから職人を志す若手もいなくなる。その状況を変えることができたら、腕のいい若い職人さんたちも育つのではないかと思ったんです。
――この場所にお店を開いたきっかけは?
高橋:着物の良さを知っているからこそ、僕たちの手でなんとか業界全体を盛り上げたいし、着物を楽しむ人をもっと増やしたいと思いました。着物文化を未来につなげるためには、まずは若い世代の人たちに着物の魅力を伝えていきたいと思い、それならば栄や大須に近い場所がいいだろうということでこの場所に決めました。
――若い世代に着物の魅力を知ってもらうために大切なことは何だと思いますか?
高橋:昔に比べ、和服のお洒落を楽しむ人が減っているのにはそれなりの理由があると思います。まず、なんといっても着物よりも洋服の方が便利なこと。一人でも手軽に着られるし、アイテムや着こなしのバリエーションも多い。着物だと、せいぜい柄や素材、色合わせで楽しむしかないとか、約束事が多くて難しいと感じる方も多いと思います。
でも実際はそんなことはなく、着物って本当はとても合理的だし、もっと自由に楽しめる。難しいしきたりやルールも、歴史の中で後からいろいろ決まり事が増えていったという側面があるんですよ。だから一旦そういうイメージを取り払って、好きなように着てほしい。そんな楽しみ方ができるっていうことをぜひ知ってもらいたいと思います。
――お店が目指す「現代の街並みに溶け込める着物」にも通じますね。
高橋:そうですね。着物を販売する側の姿勢にも課題があると思います。特に若い女性をターゲットとする場合、セールストークとして友人の結婚式に着て行ける訪問着をおすすめすることが多いと思うんですが、フォーマルな着物って、例えば「御所車」や「鶴と亀」のような、いわゆるおめでたいモチーフの「ザ・着物」みたいなものがいまだに主流だったりする。
けど実際、現代の結婚式のスタイルはどんどん多様化していて、会場も格式あるホテルや結婚式場ばかりではありません。カジュアルなレストランや屋外ウェディングなどさまざまな雰囲気の中で行わるようになり、昔ながらの着物よりカラードレスの方が似合うということになってしまう。
だったらそういう場所にも馴染むような着物を自分たちで作ってしまえばいいんじゃないかと。それで僕たちは、販売だけでなく、職人さんたちと一緒にオリジナルデザインのものも作るようになったんです。
近藤:最近の作品では、スタッフのアイデアでできた宇宙飛行士の柄の浴衣が人気で、それに合わせて帯留めまでUFOやロケットの形で作ったんですよ。
――かわいいですね!
近藤:実は裏に紐が通せればどんなのもでも帯留めにできちゃうんですよ。貝殻とかキーホルダーのヘッドとか、大きさがちょうどいいので箸置きを代用している方もいます。季節感も演出できるし話題のきっかけにもなりますしね。うちのお店ではお客様と一緒に帯留め作りのワークショップを開いたりしています。
ーー着物って着るだけじゃなくてこんなこともできるんですね。
高橋:何よりもお客さんが喜ぶことをしよう!これが僕たちのポリシーです。とはいえ、店に一歩入ったらタダでは帰りづらいというお客様の気持ちもわかります。なのでまずは気軽にお茶を飲みに来てくれるだけでもいいという気持ちから、店内にカフェを併設しています。
ここが着物との出会いの場になればいいなと。スタッフも心から楽しんでいます。デザインを学んでいなくても、こんな着物があったらいいねっていう発想や気持ちを大事にしてどんどんアイデアを出して欲しいし、みんなで着物を楽しみたいんです。
――最後に「僕らのゆめ」という店名に込められた思いを聞かせてください。
高橋:興味を引くようなインパクトのある名前にしたかったことと、もう一つ、着物の楽しさや魅力をたくさんの人に伝えたい、ファッションとしての着物で個人の感性を思いっきり好きなように表現できる文化を広げたい。それが僕らの夢だという思いです。
どんな世界でも一人の力では夢は実現できません。「僕の」でなく「僕らの」にしたのは、自分一人じゃなく着物好きな人みんなの思いという意味を込めたかったからなんです。東京などから出店のお誘いもありますが、この人情味のある大好きな名古屋から、だれもが気軽に着物を楽しめる環境を提案していきたいと思っています。
僕らのゆめのイベントやオススメのアイテムが紹介されています。
取材/加茂千夏
愛知淑徳大学間宮研究室。神奈川県生まれ。様々な地域を転々とした後、現在は愛知県で建築を学んでいる。犬に似ているとよく言われる。ちなみに犬種はキャバリア。
取材/長谷川 未穂
愛知淑徳大学間宮研究室。愛知県で建築を学ぶ学生。大葉と餅をこよなく愛する。餅料理の研究・開発をしている。