郁文堂書店再生の妄想からリアルへ / 町にまなび、町にさわる(2)
地域の連載
都市の風景を塗りかえるような取り組みをさまざまに展開している若き起業家・追沼翼さんによるアクティビティ・レポート・シリーズです。(前回のレポートはこちら)
2016年9月。山形ビエンナーレの終わりに「これからも協力してもらえるなら、また店を開けようかね~」と原田伸子さんが語りかけてくれたことを本当に嬉しく感じた僕らは、すぐ「この場所だからこそできることはなんだろうか」「伸子さんのためにできることはなんだろうか」と、郁文堂書店のこれからの姿について考えを巡らせ始めました。
というわけで今回は、郁文堂書店再生構想について、また、その資金を手に入れるためのクラウドファンディングについて書いてみたいと思います。
オーナーのためにしたいことと
町のためにやりたいこととを繋ぐ
2016年10月。山形ビエンナーレも終わり、店内の片付けを開始してから2ヶ月が経っていました。僕らは、郁文堂書店再生をめざしての本格的な企画づくりに向き合い始めました。とはいえ、10年以上も閉ざされていた店を再びただオープンさせてしまえば、現在の伸子さんの生活を変えてしまい、大きな負担にもなってしまう。できればそれは避けたいと思いました。では、どうしたらいいのか。伸子さんのこれまでの生活を守りつつ、暮らしをより楽しくすること。そうしたことを念頭におきながら、クローズした店をうまく再生させ、しかも町にインパクトを与えるものにする。そんな企画にしたい、と思いました。
町を見渡してみると、郁文堂書店のある山形市の中心市街地には「商売をすること」「働くこと」以外の機能があまりない、ということに僕らは気づきました。公園もほとんどないし、気軽に立ち話をする溜まり場もまたほとんど見当たりません。そんな気づきがあったことから、これまで伸子さんが郁文堂書店の営みの中で大切にしてきた「サロン」という文化を継承し、それをこの町の中に新しい機能として開いていったらどうだろう、と考えました。それは、なによりも伸子さん本人が楽しめるものになるはずです。
そんなイメージを持って空間設計に取り組みました。郁文堂の空間は本屋というだけでなく伸子さんの生活の場でもあるので、生活動線を残して、生活の延長としても利用できるリビングのような空間を作ることを考えました。真ん中に大きなフローリングを設置し、あえて中心をつくることで、コミュニケーションが生まれるようにしました。
伸子さんの希望を大切にしつつ、そこに自分たちの提案をすり合わせて行くというやり方をしたことで、最初には想像もしなかった提案に行き着くことができた気がします。単なる妄想ではたどり着くことのできない、確かな手触りを手に入れることができたように思いました。
資金を得るため勇気を出して
クラウドファンディングに挑戦
郁文堂書店再生の構想ができたとはいえ、ではそれをどうやって実現していくか、が次の課題となりました。当然ながら資金のない学生である僕らは、クラウドファンディングでの資金調達に挑戦することにしました。2016年のその頃というのは、山形市内ではまだクラウドファンディングが実施されたという話はほとんどなかったため、話題としては埋もれることはないだろうという確信がありました。それにもし、目標金額が集まらなかった場合は「町の人から求められていない企画だった、と割り切ればいい」という気持ちもありました。
それでいざ、クラウドファンディングを始めてみると、「これはとても体力が必要なものだな」と思いました。というのも当時、その仕組みさえ知られていなかったこともあり、友人たちからは「絶対にうまくいかない」なんていうネガティブな言葉を浴びせられる場面もあったり、期間中はいつも「ちゃんと集まるだろうか」と心配してばかりで苦しさもあったからです。それでも、結果的には、タイムアップまで2日を残して目標金額を達成し、148人という数の人たちから、目標を超える100万円以上のご支援をいただくことができました。
実際にこうしてクラウドファンディングをやってみて、僕らは「自分たちの抱えているリスクを過大評価しすぎているのかも」ということに気づきました。リスクを挙げれば、周りからの批判、支援をお願いする恥ずかしさ、失敗した時の恥ずかしさ、などキリがありませんが、それらはどれも結局自分の見栄でしかありません。それって実は大したリスクではないのです。何かに挑戦しようとするとき、目に見えない何かに怯えて立ち止まってしまうときがありますが、それを明確にすることができれば、僕らはもう少し勇気を持って前に進むことができるのかも、ということを学べた気がします。
自分たちではできないことがありすぎて
人に頼ることを覚え始める
2016年12月25日。クラウドファンディングが終了しました。そして同時に、やるべきことが次々に押し寄せてきました。返礼品の準備・発送、施工図面の作成、見積もり…。どれもこれまでやったことのない、未知のことばかりでした。そんな中で僕たちは「人に迷惑をかけてはいけない。責任を持って自分たちでやり切らなければ!」という焦りやプレッシャーをヒリヒリと感じていました。
そんなとき、卒業生の先輩が「人に頼ることも一つの能力だよ」というアドバイスを与えてくれました。その一言に、僕らはとても救われました。
当初はすべてをセルフリノベーションで、やれるだけのすべてを全部自分たちでやろう、と考えていました。しかし、この言葉をきっかけに考え方が大きく変化しました。「自分たちだけではできないけれど、周りに助けてもらいながら挑戦していこう」そう思えたのです。
つづく