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オルタナティブスペース「HESO」

地域の拠点

2020.11.17

オルタナティブスペース「HESO」

山形市鳥居ヶ丘。中心市街地からまっすぐ延びる国道112号沿いから1本裏側に入ると、趣のある古民家が姿を現す。

ここは今年の秋に始動したばかりのオルタナティブスペース「HESO」。国道の裏とは思えないほどゆったり落ち着いた環境で、夜になれば隠れ家のような雰囲気を醸し出す。

迎えてくれたのは、東北工科芸術大学4年生の斎藤志公さん。芸工大では美術科の陶芸コースを専攻し、翌年春からは同学の大学院へ進学予定。今年の夏から、洋画コースの渡邊涼太さん、日本画コースの正村公宏さんと一緒にHESOの立ち上げと運営を手がけている。

オルタナティブスペース「HESO」
左から斎藤志公さん、渡邊涼太さん、正村公宏さん。3名は芸工大の「T.I.P(TUAD INCUBATIOM PROGRAM)」というアーティスト養成プログラムに選ばれた実力派のメンバー。ただし、この場所はあくまで斎藤さんたちの自主的な取り組みだという。

2020年夏、リアルローカル山形では東京・高円寺にある山形料理店のオーナー・清水幸佑さんを取材した(記事はこちら)。清水さんは山形出身者であり、高円寺から山形の魅力を日々発信している。さらには山形の仲間たちと一緒に山形市内で新しい拠点をつくる準備中だと話していた。先日、その場所が完成したとの連絡を受けて現場へと向かい、斎藤さんと合流したというわけだ。

斎藤さんらの運営チームと清水さん、そして地元の内装業者の方の3者が連携し、資金やスキル、アイディアを持ち寄ってこの場所が生まれた。コロナ禍での心境の変化、物件の発掘と3者の出会いとが交わったことによる偶然の産物だという。

11月上旬には初となるグループ展が行われた。展示の現場を訪ね、この場所が生まれた経緯や空間に込める思い、これからのビジョンについてお話をうかがった。

オルタナティブスペース「HESO」
運営メンバー3名によるグループ展。

始まりは一本の電話からだった。築80年以上の古民家。敷地まで車道が届いていないため立て直しができず、20年以上空き家になっており、活用に困った不動産会社から内装業者さんのもとに相談がきた。

内見をして建物の雰囲気にポテンシャルを感じ、仕事仲間である清水さんと内装屋さんとが「一緒になにかやろう」と、自由に改修できることを条件に賃貸することを決めた。さらに運営するメンバーの募集をかけたところ、複数応募があった中で斎藤さんとウマが合い、そこからはトントン拍子で現在に至る。

オルタナティブスペース「HESO」

この場所の運営に手を挙げ、自分たちでも資金を用意し、学業と並行して新しいチャレンジをする。リスクをとった行動とも言えるが、運営に乗り出した理由について斎藤さんはこう話す。

「コロナになって大学が閉まり、家以外の場所でなにができるかを考えていました。街の中には学生や卒業生がつくったアトリエが転々とあって、各自が活動している状態で、それらをつなぐような多機能な場所があったらいいなと思いました。少しかっこよく言うと、オルタナティブスペースのようなイメージです。

この場所をきっかけに、地元の方々との関わりを増やしていきたかったし、作品がどのようにお金を生み出して、どのように地域に還元されていくのか、社会の構図を身をもって体験したい思いもありました」

オルタナティブスペース「HESO」
渡邊涼太さんの作品「REAL」
オルタナティブスペース「HESO」
正村公宏さんの作品「After Image」

空間の要素としては、主に1階のキッチンとリビングと2階のフリースペース。

昭和初期の木造日本家屋で、昔ながらの意匠やディテールは残したまま、床や壁、水回りなどの基本的な空間のメンテナンスが行われた。

1階は畳をすべて剥がして床を張り、縁側とつながる12畳ほどの大きなリビングに。日中は一面ガラスに取り替えた縁側から日が差込み、あたたかい印象の空間が広がる。

オルタナティブスペース「HESO」
リビングルーム。ミッドセンチュリーやアンティークの家具と古民家の相性がいい。
オルタナティブスペース「HESO」
庭からリビングルームを見る。昔ながらの縁側もそのままに。

床を少し下げて土間をつくり、キッチンを新設。向かいには作り付けの椅子とテーブルで談笑スペースもつくった。2階はこれから少しづつ用途に応じて改修していくという。

繊細なデザインの欄間や漆喰の壁、廊下や柱など古材の風合い、そこに内装屋さんが買い集めていたデザイナーズファニチャーやビンテージの照明器具、ローカルアーティストの作品などが共存し、もはや空間そのものが作品とも言える。

オルタナティブスペース「HESO」
左側が談笑スペース。右側にはカウンターキッチン。

「ここは元居住空間。例えば展示をしようと考えたとき、白い壁の部屋である必要があるのか?など、イレギュラーな発想を試していきたいし、住むためにつくられた空間に少しだけ変化を加えることで、“居住と関係がないようであること”をやっていきたいと思っています。

展示やイベント、ゆくゆくは宿泊もできたらと思いますが、いろんなジャンルの人に集まってもらうためにも、あえて用途は決めないようにしています」

この場所を通じて、作品を作って売るだけではない、芸術家のあり方も探っていきたいという。いまは『モノ』だけではなく、『コト』も作品化する時代。例えばワークショップを行い思想を体験してもらうこともできる。新しいキュレーションのアイディアも実践していく予定だという。

オルタナティブスペース「HESO」
斎藤さんの作品。「出力」「入力」の考え方をベースに、茶道の中に電子機器を取り入れ、茶器にお茶を入れて手で持ち飲むという一連の動作を因数分解する。民藝とは違った角度で陶芸をアートに近づけてみたいと話す。こうしたジャンルを飛び越えた発想は、HESOの概念と通じるものがある。

この場所のもうひとつのテーマが、首都圏と山形を結ぶ場でありたいということだ。

斎藤さんは岩手県の大船渡市出身。正村さんは千葉出身、渡邊さんは埼玉出身と、他県から越してきたメンバーが集まっているのだが、ここ山形にすっかり愛着がわき、ホームのように感じているという。

「山形は過ごしやすく制作もしやすくて、とても落ち着きますね。僕は同じ東北の岩手出身で、どちらものどかな場所なのですが、山形は地酒が豊富で山の恵みがあって食事もおいしいし、地域の人と話していると、ゆったりした気持ちになります。これから大学院に進学予定で卒業後もしばらく山形に残ると思いますが、いずれ他の土地に移っても、山形はいつでも戻ってこられる大切な場所であることに間違いはありません」(斎藤さん)

オルタナティブスペース「HESO」
「山形の食文化といえば、だしが強烈でしたね」と斎藤さん。

暮らしの面でも制作の地としても、身をもって山形の魅力を感じているメンバーだからこそ、他地域から人を呼び、山形の魅力を体験してほしいという思いがある。

例えば、交換留学のように、東京のアーティストが一定期間ここに滞在しながら制作をして、展示をする。数ヶ月前には東京で活動するアーティスト、リヴァ・クリストフさんが2週間ほどここを拠点に山形の飲食店の壁に絵を描いたり、自身の制作に没頭しながら、山形のローカルライフを満喫したそうだ。

東京で飲食店を営む清水さんは、山形の飲食店で働く若手の料理家と、清水さんの店のスタッフとで料理人の交換留学をしたり、いずれは東京のお客さんを集めて山菜採りやフルーツ狩りなど山形を巡るツアーを企画したいと話している。

オルタナティブスペース「HESO」

この場所の名前は「HESO」。頭と足は離れているけど体の一部であり、その真ん中にあるのがへそ。なにかとなにかをつなぐ場所。暮らしとアートをつなぐ、芸工大と地域をつなぐ、山形と東京をつなぐ。へそは胎児が母体とつながる大切な原点でもある。

「ここは“みんなの場所”です。アートに限らず、地域のイベントや趣味の教室でも、どんな用途でもいいので地域の人に使ってもらえたら嬉しいですね。ジャンルレスに人が行き交う場所を目指していきたいです」

正面の庭は日当たりがよく、畑をやろうと計画中。小屋を建てるためのウッドデッキの建設も進んでいる。空間は引き続き使いながら直していくそうだ。運営スタイルも柔軟に変化していくのであろう。この場所の活用アイディアは常時受け付けているという。

新たに生まれた山形の拠点は、地域の人が集まる場となり、県外の人とも交わり、山形の情報を発信する基地ともなる。「この場所に完成形はないんです」と斎藤さんは言う。きっと来るたびに違う表情を見せるのであろう。これからの変化が楽しみだ。

写真:伊藤美香子
取材・文:中島彩

屋号

HESO

住所

山形市鳥居ヶ丘1-5

URL

Instagram:@heso_yamagata

備考

問合せは以下へ。

heso.yamagata[a]gmail.com (@に換えてください)

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