まちづくりで山形に恩返しを / 一ノ瀬絹子さん
移住者の声
山形市の中心市街地で、自分のお店を持ちたい人や新たに事業を始めたい人の相談や悩みごとをサポートすることで、街全体の活性化を目指す「やまがた街なか出店サポートセンター」。今回お話を聞いたのはここで働く一ノ瀬絹子さんです。地元名古屋から上京し、その後の大学進学を機に山形に移り住んだ一ノ瀬さんは、山形に根をおろし、「街に恩返しがしたい」と話します。山形を内と外の視点から見る彼女が抱く、街や人への思いについてお話をうかがいました。
芸工大から始まった山形暮らし
私が山形に来たのは2003年。東北芸術工科大学への進学がきっかけです。その後は大学院へ進み、さらに副手として3年間働きました。その後、「山形まなび館」の運営スタッフとして働き、山形街づくりサポートセンターに携わり、そして今は山形エリアマネジメント協議会の職員として「やまがた街なか出店サポートセンター」の仕事をしてます。美術の人だったのにいつの間にかまちづくりの人になっていた、という感じですね。
今では仕事も所帯もマイホームも、すべてが山形にあるという状態です。これだけお世話になっているので、何かこの土地に恩返ししたいと常々思ってきました。だから、今の仕事を通して山形で頑張ろうとしている人や、地元の大家さん、不動産屋さんと直接関わらせてもらえているのはとてもありがたいですね。
「やまがた街なか出店サポートセンター」では、主に山形市の中心市街地に新規でお店を出したい・事業を始めたいという人に、空き物件や融資・補助制度の情報提供をするなど、創業に向けたさまざまなサポートをしています。山形の街なかには、一見空いているように見えて積極的には貸していない物件や、インターネットでは知り得ない不動産情報がたくさんあるんです。だから、街の状況を詳しく知るためには土地や物件を所有している大家さんや不動産屋さん、商工会議所さんとの連携が欠かせません。
3年前のセンター開設当初は情報を集めるのに苦労しましたが、めげずにコミュニケーションを続けていくうちにすっかり皆さん方と仲良くなり、地元の人だからこそ知る土地や地域の情報を教えてもらえるようになりました。なかにはお菓子持参で「元気~?」って、センターを訪ねてくれる大家さんも。茶飲み友だちみたいな関係ですね(笑)
こういう人と人とのご縁が物事を動かすことが、山形では結構あるんですよね。私が直接交渉してもダメだけど、「この人に言われたらちょっとくらいは貸してもいいかな」みたいなことが起こりうるんです。そもそもまちづくりって、すぐに結果が出たり何かが変わったりするものではないので、こうやって地道に街の方々とのご縁をつむぐことが、いつか新しい創業者さんの役に立ち、結果、街なかににぎわいが生まれるという流れにつながったらいいなと思います。
地元の人と外の人をつなぐ
街の通訳のような存在になりたい
徐々に私たちの事業の存在が広まってきて、20~30代の若い相談者さんの数も増えてきました。中心市街地に若い人が入ってこない街は、絶対に衰退してしまいますよね。だから、山形市の街なかに夢や期待を感じて入ってきてくれる人がいるならそれを全力でサポートしたい。それに、昔ながらのお店と新しいお店、ご年配の方と若い子が入り混じった方が街としておもしろいし、いろんな世代の人が街に入っていきやすいですよね。
同時に、個人的にはそういった個々のお店の魅力は維持しつつ、全国規模の事業者の誘致も山形の商業の活性化の面から見れば必要だとも思っています。でも、実際は地元の人にとって都市部の企業は得体がしれないし、逆に都市部から山形に来るとビジネスのテンポにずれを感じてしまう……というすれ違いでビジネスチャンスを逃すことがあるという話も耳にします。
今後は、そういった県外の企業や事業者さんが山形に入ってくるときに、間を取り持ってビジネスの橋渡しができるようなコーディネート業務ができたらいいなと思っています。山形の街を双方に向けて開く通訳のようなイメージ。一昨年のリノベーションスクールやまちづくりの研修などに参加して、いろんなやり方を学んでいるところです。
信頼できる人柄、
食と自然の豊かさを実感する日々
山形に暮らし始めて16年。自分でもつくづく山形のことが好きだなあと思います。人はいいし、空気はきれいだし、食べ物はおいしいし。私から見た山形の人って、駆け引き下手で、嘘がつけなくて、嫌なものは嫌って言っちゃう。だからビジネスの面では惜しい……というか、「もっと売ったらいいのに! もったいない!」と思うことが多々あります。でもその不器用さがいいんですよね、だからこそ信頼できる。
食べ物も、そういう生真面目さがあるから自然と実直に向き合っておいしいお米や野菜が作れるんだと思います。私の地元では味噌やソースを塗ってなんぼみたいな料理が多かったので(笑) とりつくろわなくても素材そのものがおいしい料理というものに山形で出会って驚きました。山形の食のポテンシャルの高さって、全国的に見てもすごいと思う。県外から来る方々からもそういった声がよく聞こえてきます。でも地元の人にとってはそれがスタンダードだから、あまり前に出ないというか。うーん、やっぱりもったいないなぁ……(笑)
そして、雪の季節も私が好きな山形の魅力です。年に一度リセットするようにピタ! っとあたり一面が静まり返る感じがたまりません。雪が振ることによって人も土も一度休んで、そして雪が溶けたらまたむくむくと芽吹いて動き出す……毎年このサイクルに感動します。これが自然のなかで生きるあるべき姿で、日々田んぼや山が美しいと思える気持ちが何よりも幸せで贅沢だなって。山形の人のなかには都会を選んで出ていく人もいるけれど、きっと最終的には山形に戻ってくるんじゃないかな。私も今のところ、大好きな山形で働き、暮らし続けていく予定です。