越前丹南日常に触れる旅 0 /トライアルツアーレポートはじめます
ローカルツアー
大型観光バスなどでいわゆる有名な観光地に行き、名物を食べ、お土産を買うといった典型的な観光形態は減少傾向にあり、コロナをきっかけにますます顕著になる一方で、マイクロツーリズムやローカルツーリズムといった新たなツーリズムに注目が高まっている。
ここ福井でも、少人数の滞在型ツーリズム、じっくり時間をかける旅が市民権を得るという確信から、JTB福井支店では2018年からスタートした「丹南地域周遊・滞在型観光推進事業」の中でトライアルツアーを実施することにした。
reallocal福井では、これから約半年にわたり、このトライアルツアーに参加し、レポート記事を発信していく。一体どのような内容なのか、観光開発プロデューサーの石原康宏さんに話を聞いた。
福井で暮らす生活者として観光に携わる
2019年、JTBは「観光開発プロデューサー」という新しいポストを47都道府県庁所在地の支店に設けた。石原さんはその中の一人だ。
「地方と企業の関係性の中で、片一方だけが良いとされる仕事は長続きしない。大手企業だということで地域から遠巻きにされるのではなく、まずお互いが同じ目線で地域と向き合う必要がある。地域の人と汗をかいて一緒にやること。地域のツーリズムや誘客を考えるときに、JTBだからという企業名が先にくるのではなく、石原さんだから一緒に仕事をしたいと言われるようになれればいいなと思っています。」
石原さんは名古屋の出身。福井に来る直前も名古屋の部署に勤務していた。様々なエリアで、修学旅行、総務、企画プロモーション、メディア販売など多岐にわたる業務を経験している。福井では教育旅行の抜本的改革を期待され、2014年春に異動した。
「福井も期間限定のつもりだったんですよね。たぶん異動まで3年くらいと思っていたから、その間に福井らしいことをなるべくたくさん経験しようと思って、仕事に関係なく、家族で米作りやへしこづくりを体験したり、雲海の見えるスポットへ行ったりしていた。そんなことをしていたら福井に愛着が湧いちゃったんですよね。出会った人たちにも大きく影響されて。それで家族と話して、福井に腰を据えて暮らそうって決めた。2016年後半くらいから1年ちょっとくらい時間をかけて会社に相談し、福井から転居せずに仕事に専念できるようになったんです。」
福井で暮らす当たり前の日常に「豊かさ」を知ってほしい
ちなみに石原さんとは私個人も5年のつきあいである。自分が結婚して子どもが生まれてからは家族ぐるみで付き合わせてもらっている。その関係性は、まるで福井にできた親戚のような仲だ。
「福井は名古屋のようなイオン文化がないから、日常の買い物とかが画一化されてない。スーパーマーケットは同じ系列店でもその店舗によって仕入れられているモノが違うんですよ。それがすごく面白い。僕は毎日口にするもの、例えば厚揚げとか味噌で自分の好きなブランドができた。だから厚揚げはこのスーパーで、味噌はこの味噌屋さんでって決めて買っているんです。」
かくいう私も、自分だったらお豆腐はここだなと話を聞いていて頭に浮かんできた。個人商店や地域に根付いた企業が多いからこそ、商品と共にその作り手の顔まで見えてくることもしばしばだ。だから商品ひとつひとつに物語を感じることができる。これは、このコミュニティに属している特権のひとつだ。
「全国どこでも品質が同じものが、福井では一か所で一気に買えるということはない。面倒に思う人もいるかもしれないけれど、ここでしか買えないものがあちこちにあるっていうのがいいんです。福井に当たり前に暮らしていて、気づいていない人も多いと思うけど、これってとても豊かなことだと思うんですよね。」
観光という外から物を観る視点に立つプロフェッショナルの石原さん。そして、外から来た者だからこそ、福井らしい個性や豊かさに気づけたのかもしれない。
観光地化されていないという価値を発掘する
では、石原さんは丹南地域でのトライアルツアーを具体的にどんなものにしようとしているのだろうか。
「そこに暮らす人の営みがよく見える内容にしようと思っています。その場所の日常に入っていくようなイメージですね。工場で鉄の焼ける匂いや油の匂い、自然のままに土で汚れている作業場など、ありのままのリアルな日常をみてもらいたいですね。観光地化されていないという価値がここにあると思ってます。」
丹南とは、福井県の真ん中のエリア名で2市3町(鯖江市、越前市、池田町、越前町、南越前町)のことを指す。メガネや漆器、和紙、焼き物など、伝統工芸品や産業に特化したエリアが多くを占める。
「福井は産地という役割を担う地域が多い。まず、その産地に一般的な観光客が必要なのか?と考えた時、その地域にぐっと刺さる相性の良いお客さんが必要だと思っています。買い手や働き手、あとは『住む人』や、より『リアルを知りたい人』と相性がよいと思うんです。だから、滞在型のコンテンツの方が向いている。食べ物、景色だけではなく、人と人が出会った時ににじみ出るものを伝えたいんですよね。そう思って活動していたら、おのずとじっくり滞在時間をかけたコンテンツが多くなっていました。」
石原さん自身が、実際に暮らしてみて福井の日常の魅力に気づいたからこそ、それを来てくれる人に伝えたいのだ。
「あとはそこに暮らす人や仕事をする人たちが、自分たちの暮らし方働き方をいいなと思ってくれると嬉しいですね。手をとめて話しした分、自分のファンになって商品を買ったり、また来てくれたらうれしいじゃないですか。そんなお客さんと関係性をつくることができたら本望ですね」
石原さんが目指す、丹南エリアのツーリズムの姿は行ってみないとわからない。だからこそ、私たちもこのトライアルツアーで未だ見ぬこのエリアの価値を拾えるよう、実際に参加しながらアンテナを張ってレポートしていきたい。