越前丹南日常に触れる旅 1 / 自転車でインバウンド!越前焼と里山の風景
ローカルツアー
伝統工芸が盛んな丹南地域に訪日観光客を呼ぶためのトライアルツアーを開催―11月27日にwebアップした「越前丹南日常に触れる旅 0 /トライアルツアーレポートはじめます」で紹介した具体的な取り組みの、第1弾を取材してきました!
参加者は福井県内の小中学校でALT(外国語指導助手)として働いているイーラムさん、メーガンさん、リアさん、キャサリンさんの4名。コロナ禍の現在、訪日外国人旅行客は激減しており、今後数年は回復が見込めないものの、「ホンモノ」がひしめくここ、丹南地域はそれを求める外国人には魅力的なエリア。機運が戻ったときに受入れ万端にしておくため、彼女たちを「外国人旅行客」に見立てて可能性を探ります。
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4名はそれぞれ3年以上福井に住んでいますが、日本語は日常会話が少しできる程度。身振り手振り多めで自己紹介をするところからスタートしました。
地域の案内人はソーシャルベンチャーEx SATOYAMAの山内さん。なんとこのツアーを4年越しに実現したのだそうで、JTB福井支店の担当・石原さんと共に気合が入っています。
スタートとなる越前町に根付く越前焼は、中世から現在まで続く代表的な6つの窯元「六古窯(ろっこよう)」の1つに数えられる、歴史ある技法を今に受けついでいます。
とは言いながら、実は私自身も越前焼についてほとんど何も知りません。お土産屋さんで買った渋い色合いの一輪挿しを持っているだけです。実際はどんな焼き物で、どんな人がつくっているのでしょうか?
ということで、自分自身も参加者とともに、2日間に渡るツアーを体験してきます。まずは越前焼のことを知るべく「越前古窯博物館」へ。
1.越前焼ってどんな焼き物?
うわ~、一口に越前焼と言っても、大きさや形など色々あるんですね。ここは作品だけでなく、その歴史や技法も詳しく展示されています。また、現代の作家さんがつくった作品が多いことも特徴。中には福井に縁がある漫画家さんがつくった作品など、ユニークな展示も。
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博物館を出たところに用意されていたのは、何と電動自転車!この自転車で越前焼職人の工房や、かつて越前焼の焼成に使われていた「登り窯」の跡地など、越前焼が生まれてきた、そして今も作られている場所を次々と巡ります。
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2.越前焼ってどんな人がつくっているんだろう?
最初に向かった先は越前焼の職人、司辻さんの工房。越前焼の粘土のつくり方や、お皿をつくる技法などを教えてくれます。
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色々なお話をうかがいましたが、特に粘土のことを話すときの司辻さんが熱い!外人さんに通じるかな~と前置きしながらも、「粘土はコシが大事で、男土(おとこつち)、女土(おんなつち)って言って選別するんだけど・・・」と、語りだしたら止まりません。専門的なお話ですが、「要するに丸い棒でうどんを伸ばすみたいに、こうやってやるんだよ」とジェスチャーとユーモアを交じえて話してくださいました。
司辻さんの工房を後にして、越前焼をつくるために移住してきた土本夫妻の工房に、次にお邪魔しました。
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渋い作品のイメージが強かったのですが、今回訪ねた2つの工房にはカラフルな作品やモダンな形の作品もたくさんあって、「これも越前焼なんだ!」という発見がありました。
3.里山と共に在る越前焼
工房を訪ねたあとは、越前古窯博物館で模型を見た「登り窯」の跡地へ。急な斜面を転ばないようにゆっくり登っていくと、美しい木々の隙間から登り窯跡が顔を出します。
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越前焼は地域の産業というだけでなく、里山の風景や生活にも深く関わっていることが段々と実感されてきました。自分の住んでいる県の足元に、普段は全く意識していない豊かな文化が根付いていることに、改めて驚きました。
4.囲炉裏とともに過ごす夜
電動自転車で一日中駆けまわって、さすがにお腹が空いてきたな~。ということで、お待ちかねの夜ごはんは古民家「一心庵」にて。ここは同じ丹南地域である鯖江市・河和田から移築されてきた古民家で、今後の活用方法を模索している場所です。
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初めて会った同士でもちろん国籍も違うのですが、囲炉裏を囲み、お腹いっぱい食べて大笑いしているうちに、どこか親戚の集まりのような雰囲気に。楽しい夜が更けていきました。
5.里山の生活を味わう
次の日に訪れたのは越前市・安養寺集落とその中にある浄土真宗のお寺「専應寺」。普段の生活の様子や里山の風景を楽しみます。地域の方々が案内してくれて、「この柿を干してる家は〇〇さんのお家」「この地面の穴はイノシシが掘じくった跡やな」など、実に色んなお話をしてくださいます。
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昼食は専應寺に戻って精進料理をいただきます。浄土真宗では11月に報恩講(ほうおんこう)という法要があり、福井では「ほんこさん」と呼ばれて親しまれています。ほんこさんの時に地元のお母さん方がいつもつくっている精進料理を、特別に振る舞ってくださいました。
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まるで自分も外国人で、たまたま行った土地で親切にしてもらっているような気分になりました。
参加者の皆さんも「みんなが本当に親切で、愛を感じた」「言葉が分からなくても、一生懸命伝えようとしてくれてるのが分かって嬉しかった」「越前焼がほしくなった」など、大満足の様子。
今回のツアーには派手な観光名所はありません。ですが、地元の方が普段営んでいる仕事や生活を丁寧に見せてくれ、その豊かな暮らしを自分たちの言葉で語ってくれる、私たちにとっては感動的な「非日常」が、そこにはありました。
人の手が入ることで美しい里山が保たれるのと同じように、この場所に訪れる人が増えることで、地域の日常や産業、風景を保っていける。そんな循環がつくられていくことを予感させるトライアルツアーでした。
(テキスト/黒川照太、写真/牛久保星子、山内孝紀)