納豆餅 LONG TALK 1
ローカルフード
郷土色の強い、山形の隠れた名物「納豆餅」。
しかしこれまで、納豆餅がもつ味わいの素晴らしさやその存在の価値の高さというものは、きちんと語られてきたと言えるでしょうか。そんな疑問と反省から、餅の星野屋店主・星野輝彦さんとリアルローカル山形のライター那須ミノルの対話が始まりました。
納豆餅について本気で語り合うという至福(?)の時間の模様を、全6回にわたって(!)お届けします。
シンプルだけど奥が深い。
納豆、ネギ、醤油の世界。
那須:やっぱり納豆餅は、出来たてがいいですか?
星野:そう、出来たてがいいです。お店ではすぐに食べていただく前提でお出ししていますが、テイクアウトの方には「30分以内に食べてください」ってお声がけします。時間が経つとどうしても冷めて固くなっちゃいますので。
那須:納豆に加え、かなり薄切りされたネギが入ってますね。他にはなにが?
星野:なにも。納豆、ネギ、醤油、それだけです。ちなみに醤油は水で伸ばしています。
那須:水で伸ばす?
星野:そう。生醤油そのものだとしょっぱすぎるんです。もちろん、納豆と絡んだときにおいしくなるように、ややしょっぱめの仕上がりをめざすのですが、あんまりしょっぱすぎないくらいの絶妙さが大事なんですね。
那須:ネギは相当薄いですが、食感が強すぎないように?
星野:そう、ネギが好きじゃないお子さんって結構いるんです。だから、子どもが意識しないで食べられるくらいの薄さにしていて。子どもってそのネギのしゃりしゃりした歯触りと、辛いのが嫌なんでしょうね。だからそこらへんの要素を和らげてあげて、ネギの存在感をかなり薄くして、お子さんにも食べてもらえるようにしているわけです。
那須:ネギは食感より味が大事、というわけですね。
星野:お客様から「ネギ抜いて」って注文されることがあるのですが、実は言われるたびにドキッとするんです。ネギを抜くと味が変わっちゃうんですよ。実際「ネギなし」をつくるときは、醤油の量をほぼ半分にしています。ネギありのときと同じ量の醤油にしてしまうとしょっぱすぎるんです。ネギは塩分を緩和してくれたり、調和してくれたりしているんですね。その意味では、納豆餅って、しょっぱさの塩梅にすごく気を使うし、難しいんですよ。
那須:単純そうでありながら、奥が深い。
星野:若いひとなら多少しょっぱくても良いのかなって思いますけど、やっぱり年配のひととか健康に配慮しているひととか、日頃減塩の食事をしてるひとだとちょっと濃いかな~とか、そういうことも考えますしね。
納豆餅の王道とは?
よくあるオプションとは?
那須:そうすると、納豆とネギと醤油。それがやっぱり納豆餅の王道であり、完璧な姿ということですね?
星野:でしょうね。
那須:それ以上のオプションはない。
星野:薬味として、一味や七味、柚子っていうのはあるでしょうね。でも、何かの具をそこに足すっていうのはないと思いますね。あとは、大根おろしもあるかな。あ、あと、酢を入れるというひとがいますね。
那須:酢?
星野:酢。お客様でお酢かけるっていうひと、けっこういるんですよ。
那須:注文のときに、「お酢ください」って言われる?
星野:そう、だからお酢の用意してますよ。「どうぞ~」ってお出しします。おそらく、さっぱりと食ベるためなんでしょうね。ちなみに私自身は、納豆にお酢を入れるということはしません。でも「そうやって食べたい」っていうお客様が実際にいるし、一人だけでもないんですよ。何人もいらっしゃるので。
那須:何人も?
星野:何人も、です。面白いでしょ?