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第6回 クリエイティブ会議「あそびとまなびが地域の未来をつくる」レポート 2021.1.20/Q1プロジェクト

レポート

2021.02.17

「クリエイティブ会議」とは、第一小学校旧校舎を創造都市やまがたの拠点として再整備していく「Q1プロジェクト」にまつわるシリーズ。

2021年1月、オンラインにて第6回クリエイティブ会議が開催されました。テーマは「あそびとまなびが地域の未来をつくる。─『ただのあそび場』から生まれるクリエイティブと地域経済─」。

ゲストは秋田県五城目町にて「ただのあそび場」を運営する丑田俊輔さん。モデレーターはアイハラケンジ 東北芸術工科大学准教授と、馬場正尊 東北芸術工科大学教授です。

第6回 クリエイティブ会議「あそびとまなびが地域の未来をつくる」レポート 2021.1.20/Q1プロジェクト

「ただのあそび場」とは、秋田県五城目町の空き物件をリノベーションしてつくられたスペース。子どもたちだけでなく、大人も自然に集まる地域のコミュニティスペースとなり、この場所から小さな経済が生まれ、五城目町にはさらに新たな動きが生まれ始めています。

今回は丑田さんからこの場所が生まれた経緯やその運営方法、そして地域に起きた変化や現在進行形の取り組みについてお話をうかがいました。

山形市やQ1プロジェクトに多くの気づきをもたらした1時間半。前半の丑田さんによる五城目町のプレゼンテーションと、後半のクロストークのそれぞれをダイジェストでお届けします。

第6回 クリエイティブ会議「あそびとまなびが地域の未来をつくる」レポート 2021.1.20/Q1プロジェクト
丑田俊輔(うしだ・しゅんすけ)さん。ハバタク株式会社代表取締役・シェアビレッジ株式会社代表取締役・プラットフォームサービス株式会社取締役

子どもから大人まで。
遊び、学び続ける地域社会を目指して

秋田県の中山間地域に位置する五城目町。人口は約8,300人で、古くからの朝市が残る味わい深い営みがある町です。会津若松市に生まれ東京の下町で育ち、のちにさまざまな教育事業を展開してきた丑田さんは、2014年から五城目町で暮らし始めました。

しばらくして築138年の茅葺きの古民家と出会い、2015年には「シェアビレッジ」を開始。古民家を守り活用していくシェアコミュニティをつくり、「村民」という名のメンバーで「年貢」という名の年会費を納めたり、「寄合」という名の集いをしたり。都会と田舎の二項対立を超えて、学びと遊び、地域経済が混ざり合っていく活動です。

まちで活動する中で、中心市街地にも変化が起きはじめました。520年以上続く朝市が年々高齢化し出店数が減る中で、地域の女性たちが動き出し、日曜日の朝市開催日を「ごじょうめ朝市plus+」と名付け、新たな挑戦の場に。若い人々も出店者となり、野菜や山菜だけでなくお菓子や雑貨などさまざまなものを売ってみたり、表現する場となり、子どもたちも商売体験をしたり、通りにいけば友達と出会えたりと、子どもから大人までの“地域の遊び場”にもなっていきました。

第6回 クリエイティブ会議「あそびとまなびが地域の未来をつくる」レポート 2021.1.20/Q1プロジェクト
「朝市プラス」の風景。五城目町の中心地を貫く通りで開催されている。

この経験を通じて、丑田さんは「このような遊ぶ環境が日常にあればいいのに」と思い始めます。というのも、学校の統廃合によってスクールバス登校が増えたり、車社会化や社会情勢の影響も相まって、放課後の町には子どもがあまりいない状況。商店街や野山で子どもたちが育つ風景を思い描いていたところ、朝市通りに元スポーツ用品店の空き物件を発見しました。

地域の人が集まり即興で大工さんたちとDIYして、2017年には「ただのあそび場 ゴジョーメ(以降:遊び場)」が誕生。豪華な遊具や設備はありません。そして無料。「ただで遊べる、ただの空間」だといいます。

完成後も家具や雲梯(うんてい)など、子どもたちや地元の職人さんなどにより、空間が造作されていきました。運営はボランティアで地域の方や親御さんが見てくれていたり、丑田さんや社員が仕事しながら見守り、怪我がないよう最低限の注意を払いつつも、基本的にはノールール。自由に遊び学び合う寛容性を大事にしています。次第に子ども同士で安全策を考えたり掃除したり、自分たちで自治していく風潮が見られていったそうです。

遊び場ができた翌年には、1階にカフェがオープン。こうした動きも相まって、ここ数年には、新たなお店や工房、酒蔵の交流拠点など、遊び場の徒歩圏内が徐々に活性化しています。

第6回 クリエイティブ会議「あそびとまなびが地域の未来をつくる」レポート 2021.1.20/Q1プロジェクト
「ただのあそび場」。現在(2021年2月時点)はコロナ渦により、町民限定で鍵をレンタルして使用中。

その翌年からは、小学校の建て替えを機に、町民参加型で未来の学校をデザインする取り組みが進んできました。テーマは「越える学校」。子どもと町民が偶発的に出会えるように、小学校の図書室と地域の図書室を融合したエリアが学校の真ん中に置かれています。

さらにシェアビレッジでも新たな動きが進行中。「村3.0」として、村のようなコミュニティを通じて、公でも私でもない「共(コモン)」の領域を暮らしの中に増やすのがポイントです。みんなでスキルや資源を持ち寄り、古民家や山、食堂や住宅など様々なコモンズ(共有資源)を共同管理して、シェアしていこうというもの。遊び場もまさにその一つの形です。

それを後押しするのがテクノロジーの力。「村テック」と丑田さんは名付け、村民が自治するためのアプリやウェブサービスを開発しています。

第6回 クリエイティブ会議「あそびとまなびが地域の未来をつくる」レポート 2021.1.20/Q1プロジェクト
2020年12月からプラットフォーム「Share Village」β版が開設された。 https://sharevillage.co/

最後に丑田さんは「プレイフル」というキーワードを示してくれました。

「プレイフルな気持ちを原動力に遊び仲間が集い、新たな価値やコミュニティが生まれていきます。それがほかのコミュニティと繋がり大きな生態系となっていく。そしてすべての人がプレーヤー(Player)となっていく。これからは、そんな遊びからはじまる経済が育まれていくんじゃないかなと思います」(丑田さん)

第6回 クリエイティブ会議「あそびとまなびが地域の未来をつくる」レポート 2021.1.20/Q1プロジェクト
モデレーターの馬場正尊さん(左)とアイハラケンジさん(右)。ともにQ1プロジェクトのボードメンバー。後半は3名でのクロストークへ。

人を動かす、素直なコピーライティング

馬場 いやぁ、すごかった。人口は約8,300人の五城目町に未来を見ましたね。Q1プロジェクトではアフタースクール事業や教育事業も計画しています。そのヒントを求めて、ここからは丑田さんにさらに話を聞いていきたいと思います。

アイハラ まずはプレゼンを受けての感想になりますが、丑田さんは名コピーライターですね。言葉をつくって社会をドライブさせていく。言葉に余白があって、自分なりにいろんな意味付けができるし、実に人を動かすコピーライティングだと思いました。

馬場 子どもでもすぐわかる言葉で、本質をついていますよね。コツはあるのでしょうか?

丑田 最近おやじギャグなのではないかと危機感があるのですが(笑)。以前は東京でコンサルをしていて横文字に脳を支配されていた時期もありました。いまは身体や地域の暮らしの中から言葉が生まれている気がします。

馬場 五城目だから生まれる素直なフレーズなんですね。

アイハラ Q1でガチガチに考えすぎちゃうことを、引き戻してくれた気がします。

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馬場 計画しようとすると、つい余白を埋めたくなってしまうのですが、五城目町には適度な余白がありますよね。どのようなさじ加減なのでしょうか。計画的な無計画なのですか?

丑田 計画的な無計画ですね。「その場がどうありたいか」という意思は大切だと思います。ときには計画的なプログラムも大事だし、自然発生的なストリートでの学びも大切。いろんな場があったほうが町にとっていいことだと思っています。

アイハラ 全体としてエコシステムや生態系をどうつくるかが考えられていますね。贈与経済か貨幣経済か2択にならずバランスをとっている。そこに鍵がある気がします。

丑田 暮らす場所や学ぶ場所、貨幣や贈与など経済圏を自分で選択できたり、ハイブリット化できるのは、インターネットをはじめとしたテクノロジーが進化しているからこそ生まれてきた領域だと思います。

「ただのあそび場」から生まれる小さな経済

馬場 きっと誰もが興味を持つポイントなので聞いてみたいのですが、「ただのあそび場」は経済的にはどんな仕組みで動いているのでしょうか。

丑田 初動は自社投資とクラウドファンディングと新規事業開発の補助で合計300~400万。あとは地域からの物資やスキル提供で育っていきました。最初はR&D(研究開発)をかねて社員を置いて経過観察していましたが、それ以降は人件費などの固定費は出ていません。

わずかな家賃負担がありますが、田舎町の遊休不動産ならではの圧倒的な安さを前提としつつ、地域からの募金や、有料イベントでの使用費、そのほかコンサルのご依頼を受けてたまに貨幣が発生することもあります。遊び場の収益は大体とんとんですが、稼ぐことが最優先ではなく、町にあり続けることが重要だと思っています。

馬場 会社としてR&Dを兼ねたり、地域に遊び場を提供したりといろんな効果がある。ここだけで経済を完結させようとしていないのですね。

丑田 これは一例ですが、どこかの商店街で商店主たちがみんなでお金を持ち寄って子どもたちが遊べる場所をつくったとして、たとえそこ単体で収益が上がらなくても、通りを歩いて楽しむ人が増え、お迎えに来た親御さんや子どもたちが商店街で買い物していけばOKなわけです。地方では山も空き家も土地も値段が下落しているので、様々な遊びを生み出せる優位性があると思います。

第6回 クリエイティブ会議「あそびとまなびが地域の未来をつくる」レポート 2021.1.20/Q1プロジェクト

いろいろな人が関われる余白

アイハラ 「越える学校」についてもお聞きしたいです。偶発的な出会いをつくっていくことがすごく心にささって、Q1でもそれをつくれるといいなと思いました。

丑田 秋田県には「教育留学」という仕組みがあります。移住や転校しなくても、数ヶ月間だけ秋田に住み、地域の学校に通えるというもの。これから多拠点居住に伴う多拠点教育が増えると思うので、この学校もそれを受け入れる土壌になっていくはずです。シェアビレッジも同じですが、適度に“外来種”が混ざることで、揺らぎを与えることが大事だと思っています。

馬場 遠くから人を呼ぶには求心力が必要だと思います。五城目町がこんなに人を惹きつけているポイントはどんなところにあるのでしょうか。プロジェクトをやる上でどんなことを意識していますか?

丑田 いろんな人が関わって、誰が中心かわからないくらいがちょうどいいのだと思います。最初に火付け役がいるのはいいと思うので、徐々に周りの人がそれぞれ自由に振る舞い関わっていけることが大切。朝市では女性4人が火付け役になってくれたのですが、いまでは出店者も増え、誰が仕掛けているのかわからないような状態で、カオスな雰囲気になっています。

馬場 丑田さんのプロジェクトに対するスタンスは一切”オラオラ感”がないですよね。一人のカリスマで進めている感じではない。リスクはとっていても、少し引いているのが一貫した質感で、それが現代という感じがしますね。

第6回 クリエイティブ会議「あそびとまなびが地域の未来をつくる」レポート 2021.1.20/Q1プロジェクト

コミュニティとデジタルの関係

アイハラ 「シェアビレッジ」についてもう少し詳しく聞かせてください。

丑田 2015年頃から村民を増やしてみんなで古民家をシェアし、全国いろんな場所に田舎が持てる仕組みができればと考えていたのですが、人数が増えていくほどコミュニティの手触り感は薄れ、1000人超にもなってくるとサービスとする側と受ける側が分かれてしまうことがわかってきました。

なので、一つのコミュニティを際限なく拡大させていくのではなく、リアルとバーチャルが融合しながら小さな共同体が組成されて、それぞれが思い描く暮らしをつくれたらいいなと思いました。小さな村的なコミュニティが自律的につくられていくイメージです。

それを後押しするためのインフラをつくろうと、いまエンジニアのチームと一緒にシステムを開発しています。サブスクリプションで年貢プランをつくれたり、コミュニティ独自のコインを発行したり。

馬場 お互いの顔が見える適度なサイズのコミュニティを形成することをサポートするシステムというわけですね。貨幣と贈与が混ざり合うシステムであり、拡大し続けるのではなく、ある程度のサイズで止まることを目指している。これはすごい発明ですね。

丑田 プラットフォーマーが中央集権的に展開する構図ではなく、「プラットフォームコーポラティブ」という概念を取り入れてみました。ユーザーもプラットフォームに共同所有者として議決権を持てるような、新しい組織設計にトライしています。

馬場 古民家や遊び場などリアルな空間で得た実感値をアプリやデジタルに取り込んで仕組み化しているように感じます。だから、肌感覚があり説得力もありますよね。

アイハラ 実際に五城目町に見に行きたくなりました。具体的に参考にしたいです。Q1の舞台である旧第一小学校の隣には現役の小学校があるので、大人も子どもたちと一緒に楽しめる場になりそうです。

馬場 今日は本当にたくさんのヒントをもらいました。丑田さんの話には一貫して遊びと学びが軸にあり、物事の組み立て方や空間のつくり方も圧倒的に今までの理論とは違うものでした。Q1チームみんなで五城目町にお邪魔したいと思います。今日はありがとうございました!

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テキスト:中島彩