福井駅前浪漫飛行3「母から受け継ぐ心とお店」ビューティオリヂナル 水島一恵さん
福井の連載
福井駅前は、2024年の新幹線開通に向けて大きく姿を変えようとしています。連載「福井駅前浪漫飛行」では、福井駅前で日々を過ごし、店を営んできた人たちや、関わりを持つ人たちにお話しを伺いながら、このメタモルフォーゼを追いかけていきます。
今、まさに再開発工事が始まった路面電車が走る「電車通り」の北側は、洋菓子屋や携帯電話のショップ、宝石屋などの小さな店が軒を連ねていた。その立ち並ぶ店の看板の中に「オリヂナル美容室」と掲げられた赤地に白い文字は、高校生だった私にはむしろ新鮮で、強く印象に残っている。
「オリジナル」ではなく「オリ『ヂ』ナル」。
そんな話を、店主の水島一恵(みずしま ひとえ)さんにしたところ、「あぁ嬉しい、オリヂナルの『ヂ』はね、この店を始めた時の旧字体のままなの。変えたくなかったのだけど、時代遅れなのかなって思ってたから」
美容室「ビューティオリヂナル」は、昭和23年3月の創業。「ひげ線」と呼ばれた電車通りに面したこの場所に、お母さんと叔母さんが開業し、水島さんで2代目となる。しかし、その年の6月に福井震災に被災し、1階散髪、2階美容室、3階住居に建て直して1ヶ月後に再開した。
元々は「オリヂナル美粧院」という名前でスタート。足羽山にあるお不動さんにお参りをした際、ご住職から名付けてもらったという。
当時、駅前には美容室が少なく、昭和37年頃には現在の放送会館の地下に散髪とパーマの2号店も出すほどの繁盛ぶりだった。「お正月なんて本当に人出がすごくて、押すな押すなの騒ぎだった。昔は朝の仕事前と仕事終わりに来る人もいたから早朝から夜8時過ぎまでやっていました」
福井で激動の時代を過ごした水島さんは、生まれは東京だったと言う。「父が東京で大学を出て、水戸の学校で先生をしていたんだけど、戦争に招集されて、そのまま戦死してしまったの。母が私たち子ども3人を連れて福井へ帰ってきて、このままだと学校にも行かせられないからって、それで美容を習ってお店をひらきました」
母と叔母の子どもを守りながら前を向いて働く姿を、水島さんは毎日見届けていたのだろう。事務仕事を手伝っていた彼女も、美容技術を学び、現場に立つようになった。ユアーズホテルの隣に店があったため、当時流行したホテルでのウェディングに合わせて、ユアーズホテルの専属婚礼スタッフのように朝から晩まで走り回ったそう。「着付けから化粧から全てやりました。当時は福井の派手な婚礼の時代でしたから。早い時は夜中の3時ごろに起きて、県内はもちろん県外にも出向きました」
婚礼の他にも、成人式などのお客さんの人生の「ハレ」の節目に立ち会ってきた水島さん。今年は特に大変だったと言う。「孫も成人式だったんだけど、コロナがあるから2週間前くらいに帰ってきていたわね。それに当日は大雪。無理だと思ったのにスタッフが頑張って店まで来てくれ、嬉しくて泣いちゃった。みんなで乗り切った今年の成人式の人たちはコロナと大雪で色んな困難を乗り切っていけるんじゃないのかな」
そして、今回のユアーズホテルの2度目の建て替え。今度は大規模な工事となることで、ビューティオリヂナルの建物も立ち退きとなった。今は一旦近くのビルに間借りし、新しい建物に戻って再開を考えているという。「なんでここで続けているかっていうと長いこと来てくださっているお客様がいるから。『やめんといて』っておっしゃってくださるので、私も最後までやろうと思って」と笑う水島さんの笑顔は、常連客に強く支えられているようだ。「母が頑張ってくれた店と家庭を守るのは当たり前。今あるのはお客様とスタッフとご先祖様のおかげだと思っています」
水島さんが人生を過ごした福井駅前。どんな風になってほしいかを聞いてみると、「まず住民が増えて、住みやすい街になってほしい。そして欲張りかもしれないけれど、おしゃれして出かけたい場所になったらいいと思います。駅前にも木がたくさんあって散策できる癒しの空間があったらいいですね」日々を謙虚に、したたかに努力を忘れずに向き合ってきた水島さん。建物が新しくなっても、彼女の姿勢や誠実さは変わらずに街に刻まれていく。
名称 | ビューティオリヂナル |
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業種 | 美容全般 ※カバーメイクも承ります |
住所 | 福井県福井市中央1丁目16−8 マルヒラビル 2F |
TEL | 0776-21-0505 |
営業時間 | 8:30〜18:00 ※時間外予約承ります |
定休日 | 月曜日 |