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福井駅前浪漫飛行4「5分あれば本屋さんへ」HOSHIDO/勝木書店本店

福井の連載

2021.03.26

福井駅前は、2024年の新幹線開通に向けて大きく姿を変えようとしています。連載「福井駅前浪漫飛行」では、福井駅前で日々を過ごし、店を営んできた人たちや、関わりを持つ人たちにお話しを伺いながら、このメタモルフォーゼを追いかけていきます。

福井駅前浪漫飛行4「5分あれば本屋さんへ」HOSHIDO/勝木書店本店
三角地帯の一番西側にあった勝木書店ビル。高校生たちの自転車がいつもたくさんとまっていた。(写真/佐藤弘基)

福井駅前の電車通りにあった「勝木書店本店」は、私(佐藤)にとっての「当たり前」の空間だった。

バスターミナルが西口広場ではなく、まだ電車通りの反対の「中央通り」沿いに並んでいた頃、高校へバスで登校していた私は、自分が乗る路線のバス停が目の前にあったことを良い理由に、時刻表とにらめっこして5分余裕があれば勝木書店本店のガラス扉を開けて中へ入った。

福井駅前浪漫飛行4「5分あれば本屋さんへ」HOSHIDO/勝木書店本店
私がいつも開けていたバス停側の扉。文具売り場に直結している。(写真/佐藤弘基)

目の前に本屋があるんだから、入るのは当たり前。ほとんど無意識に近い状態で、晴れの日も雨の日も風の日も雪の日も、その扉を開けて中へと入っていった。本店は当時、1階が雑誌・文芸書・児童書・文具、2階が福祉・医療・工学・科学などの専門書、3階が学参・コミックという並び。時間に応じてサッと雑誌を立ち読みしたり、専門書のところで読んだこともない本を手に取って開いてみたり、ぶらぶらと「散策」した。

高校を卒業し、大学のために福井を出て、社会人となって福井に戻ってきた私は、また本店の扉を契約社員という形で開くことになった。本店の4階にある「店舗統轄部」へと配属され、各支店とのやり取りや出版社との取引などを担当した。

その時に初めて、本の「受け手」から「渡し手」に初めて立場が変わり、同時に「作り手」にも距離が近くなった瞬間だった。勝木書店本店は福井駅から徒歩5分とかからない場所にあったから、東京や県外から来られる出版社の営業さんや作家さんが立ち寄る旗艦店になっていたのだ。

その仕事を3年間経験した私は「作り手」に強く興味を覚え、気がつけばデザイン事務所に入り、独立し、小さな本屋「HOSHIDO」を開き、そして自分で一冊本を作った。

福井駅前浪漫飛行4「5分あれば本屋さんへ」HOSHIDO/勝木書店本店
HOSHIDOの店内。暗くて狭い店は決して本には良い環境とは言えないけれど、一人、また一人と訪れてくれる。

思い返せば、私にとって勝木書店との蜜月は、今ある私の場所を形作る基礎になっていたのだと感じる。駅前という場所を選んだことも、出版社や作家を感じる場所にしたいと思ったことも、本を選びすぎないようにと棚を作ったことも、一つ一つの積み重ねが勝木書店という場所で培ったものだということを今になって知らされる。

そんな勝木書店本店は、2020年8月に閉店した。

私が店舗統轄部で働いていた頃、共に汗水流した同僚の樋口麻衣さんは、そのシャッターが降りる最後の瞬間まで本店にいた。新二の宮店に異動となった彼女に、本店での時間をどんなふうに過ごしたのか聞いてみることにした。

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新二の宮店という新天地で文庫担当として奔走する樋口さん。ほんわかとした彼女の雰囲気とは裏腹に、本にかけられる情熱はとびきり熱い。

「ずーーーーっと、楽しかったです」

ちょっと思い出しながら、はにかんで彼女は言う。仕事のことを、そう言い切れる人がどれだけいるだろうか?

「勝木書店は70年以上駅前にあったので、私の前にも従業員さんがいて書棚を作ってきたんですよね。それは街の人の思いや時間も反映されているわけで、本が入れ替わり立ち替わり、今の棚を作り上げているんだなと思うと感無量でした」

いつも穏やかで、お客さんとのやりとりを大切にして棚を作り、この本は!と決めたら真っ直ぐに勧めていく。常にやることリストを書いたメモ紙を握りしめて店内を走る彼女の姿は、今も変わらない。

「シニア層の常連の方が多い店でしたけど、体調を気遣うぐらいの距離で、店員と客ではなく人と人としてコミュニケーションできたことは本当に楽しかったですね。本店勤務の間に仲良くなった方とは今でもやり取りありますよ」

福井駅前浪漫飛行4「5分あれば本屋さんへ」HOSHIDO/勝木書店本店
本店勤務の間に使っていたネームホルダーは、今でも樋口さんのお守りのような存在になっている。

勝木書店の中堅社員として走り回る忙しい日々の中で、どんな書店がやってみたい?という質問を投げてみた。

「『話して』売る本屋がしたいですね。一対一でお客さんとお話をして、こんな本はどうですか?と売るようなことをやってみたいなぁと思ってました」

そんな言葉をもらい、いつか福井駅前に「樋口の部屋」みたいな本屋さんができたらいいのになぁと、私は妄想を広げる。そこへ、私のような高校生のお客さんがぶらぶらと現れて、次の未来につながる本棚を作ってくれたらいいのにと、願うばかりだ。

 

「福井駅前浪漫飛行」アーカイブはこちらから。

名称

HOSHIDO

業種

書店・編集室

URL

http://hoshido.me/

住所

福井市中央1丁目22-7 ニシワキビル1階

営業時間

金 13:00-17:00、19:30-22:00
土 13:00-17:00
日(隔週)13:00-17:00
*詳細はHPのカレンダーをご参照ください。

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