北九州の建築をめぐるvol.2/個性派建築のミクスチャーな風景
北九州の連載
九州の玄関口である北九州市は、古くから交通の要衝として栄え、貿易港として重要な役割を果たし、やがて工業都市へと発展しました。そうした歴史を背景に、このまちの根底には、さまざまな人や文化をおおらかに受け入れる懐の深さがあります。
歴史ある建物とデザインされた近代建築、最新のスタジアムとレトロ建築。
個性を持った建築が、時代や文化を超えて混ざり合っているのが北九州の風景です。どんな建築もまちと融合し、調和する。これが北九州の魅力であり、まちの面白さでもあります。
北九州の建築をめぐるシリーズ2回目では、そんなミクスチャーな北九州の風景を紹介します。
個性派建築のはしり!?唐造りの小倉城
福岡県下で唯一、天守閣のあるお城「小倉城」。1602年(慶長7年)に細川忠興(ただおき)により築城され、その後、小笠原家が入国。九州各地に通じる街道の起点として城下町も賑わいました。
建築としての小倉城の特徴といえば、まず「唐(から)造りの天守」です。黒塗りの階が、下の階よりも大きく張り出しているこの造りは南蛮造りとも呼ばれ、築城当時も珍しいものでした。この時代から、新しいもの、個性的なものを受け入れる文化が根付いていたのかもしれませんね。
もうひとつの特徴が「野面(のづら)積みの石垣」です。市街からも望める足立山から運んだ自然石を積み上げた小倉城の石垣は、切り石の石垣とは違い素朴で豪快。今も当時のままの石垣を見ることができます。
現在の天守閣は1959年(昭和34年)に再築されたもの。2019年には天守閣内を全面リニューアルし、エンタメ・城ミュージアムとして見ごたえある展示が楽しめる観光スポットでもあります。
こんなのあり⁉︎なユニークな建築いろいろ
北九州市の中心部である小倉北区には、1990年ごろから、そのフォルムに驚かされるような建築が増えてきます。
まちの中で圧倒的な存在感を放つのが「北九州メディアドーム」です。流線型でどこか近未来的な印象。銀色のドームが太陽に照らされていると、まるでUFOが降り立ったかのような迫力です。内部は競輪場とイベントなどができる多目的スペースで構成されています。
市内を流れる紫川のほとり、小倉城の隣に建つ「リバーウォーク北九州」は、ジョン・ジャーディによる商業棟とマイケル・グレイブスによる大学棟からなっています。
かたちの違うブロックを組み合わせたような斬新な形状とカラフルな色使いに目を奪われますが、その形は工業都市の原風景を、色は「漆」や「稲穂」などの日本の伝統色をイメージしたもの。
独創的なのに隣接する小倉城、勝山公園、紫川の風景に不思議となじむのは、北九州の歴史や文化を反映させて造られたからなのかもしれません。
TOTOならではの展示が無料で楽しめる博物館「TOTOミュージアム」。眩しいほどに白く艶やかで、滑らかな曲線で描かれる建物は、トイレメーカーらしさが表された個性的な建築です。
1階はショールーム、2階はTOTOの歴史や初代〜最新のトイレ、日本初※のユニットバスルームなど、約1,000点を展示するミュージアム。私たちの生活に欠かせない水まわりの文化と歴史に触れることができユニークな博物館として知られています。お土産にも最適な、クスッと笑える商品がそろったミュージアムショップも人気です。
※JIS規格による
近年の大型建築の代表が「ミクニワールドスタジアム北九州」。Jリーグの地元サッカークラブ・ギラヴァンツ北九州のホームスタジアムとして市民にも親しまれています。
観客席の最前列からタッチライン・ゴールラインまでの距離が8mと近く、さらにピッチと同じ高さで観戦できる「ゼロタッチ」スタンドが採用された日本初のスタジアムです。
さらに特徴的なのが、メインスタンドからの景色です。上段の席から見ると、鮮やかなグリーンのピッチの向こうに関門海峡と山々が広がります。ほかでは味わえないこの風景は、海に面したバックスタンドにだけ3階席と屋根を造らなかったことで実現されています。
明治〜昭和初期のレトロ建築の宝庫、門司港
神戸、横浜とともに日本三大港に数えられ、国の特別輸出港にも指定されていた門司港。明治から昭和初期にかけての栄華を物語る建築が建ち並び、「門司港レトロ」として整備されています。
1914年(大正3年)の創建当時の姿に復元された「門司港駅」、木造建築にレンガ調のタイルを貼った大正期の建築「旧大阪商船」、イギリス積みのレンガの壁が美しい「旧門司税関」、アインシュタインが宿泊した部屋も残る「旧門司三井倶楽部」などなど、海沿いのレトロ建築だけでも見応え十分。
少し山手に入ると、出光佐三や高浜虚子なども通った料亭「三宜楼(さんきろう)」。木造3階建で現存する九州最大級の建屋です。「百畳間」と呼ばれる大広間や格天井、下地窓など、意匠を凝らした店内を見学すれば、気分は当時にタイムスリップ。
時代ごとの特徴ある建築がこれほどまでに揃っているのは、北九州というまちのカラーであり、歴史でもあります。その混在ぶりを楽しみながら、北九州の建築めぐりをしてみるのも面白いのではないでしょうか。
(文:岩井紀子)
89か所にも及ぶ建築と景観を紹介する冊子「ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜」。そこで紹介されている北九州の建築を5回にわたって紹介します。
「北九州の建築をめぐる」連載
名称 | ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜 |
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