愛知県常滑市の新しい魅力発信の拠点に 地域の誇り「瀧田家」
インタビュー
瀬戸、越前、信楽、丹波、備前と並ぶ日本六古窯のひとつ、常滑。やきもののまちとして知られていますが、江戸から明治期にかけては廻船の要衝としても栄えました。その時代の常滑を代表する廻船問屋のひとつが今回紹介する「瀧田家」です。居宅であった建物は市の指定有形文化財として一般公開されています。常滑の歴史を物語る貴重な建物に再び息を吹き込み、有効活用するアイデアを生かして地域の魅力を発信する新たな拠点にしようと力を注ぐ人たちがいます。
土管坂などの見どころが集まり、多くの観光客らが行き交う「やきもの散歩道」の一角に建つ「瀧田家」。広い敷地の中に主屋、土蔵、離れが整備・復元されています。建てられたのは1850年代。廻船問屋として栄華を誇った往時の様子が色濃く残されています。
この建物を観光資源として活用しようと、運営を請け負う一般社団法人「ボンド」がプロジェクトを立ち上げ、地元の話題となっています。
この「ボンド」代表で建築家の市原正人さんと、地域の人たちとのパイプ役として尽力す「TOKONAME STORE」代表の鯉江優次さんにうかがいました。
――歴史的にも価値のある建物として、「瀧田家」に多くの観光客らが立ち寄って見学をされていますね。
市原:「やきもの散歩道」のほぼ中心ということもあり、散策のついでに立ち寄ってくださるんですね。しかし現在は基本的には見学のみ。今後はさらに有効に利活用をしていけたらと思っています。
――建築家でもある市原さん。最初にこの建物を見たときはどんな印象でしたか?
市原:かなり立派なものだと思いましたね。整備される前はずいぶん荒れてしまっていたようですが、あの状態からここまで復元できているのがすごい。地域のみなさんにとっても観光で訪れる人にとっても意義のある使い方ができる可能性を感じました。
――具体的にはどのように使っていこうと考えていらっしゃいますか?
市原:文化財の活用にはさまざまなハードルがあるものの、「離れ」を宿泊施設にすることなどもひとつのアイデアとして考えています。
主屋では食事ができるようにし、休憩所では物販を。地下スペースではミニ酒蔵のような形で地域の食や地酒が楽しめるようにできればと思っています。企画をするにあたり、トライアルで実際に地域の方を招いて食事会をしたんですが、外国のお客様には実際に宿泊もしていただきました。
みなさん口を揃えて「いいね!」とおっしゃるんですよ。ここに泊まれるの?って驚かれたり、感激してくださって。
しかしご覧の通り昔ながらの日本家屋ですから真冬や真夏は厳しいんじゃない?と心配される方もいて。でも僕はこのままでいいと思っているんです。
暑さや寒さも含めた昔の日本の生活や文化を味わってみたい、そこに価値を求めるお客様はきっといらっしゃるんじゃないかと。
――不便ささえも味わいのひとつ。そこにも地域のことを肌で知る楽しさがありそうですね。ところで物販ではどんなものを扱う予定ですか?
市原:地域で人気の商品や常滑の特産品、海苔などの海産物ですね。木曽三川が伊勢湾に流れ込む関係で常滑の海は栄養が高いと言われていて、質の良い海産物がとれるんです。
またイチジクなどのフルーツにお米、卵などの農産物も豊富です。
農水省が打ち出す「農泊」の考え方を汲み、一次産業を観光に結びつけることで後継者問題の解決などにもつながれば地域にも貢献できるのではないかと思っています。
――歴史的に貴重な建物が常滑の魅力を存分に楽しめる拠点に。観光で訪れる人はもちろん、地元の方達にとってもメリットの大きい素晴らしいアイデアですね。
市原:「ボンド」は地域の宝を活用してまちのために貢献できる取り組みを進めるために作った組織です。
常滑に限らず、全国的に地方の財政が厳しくなっていくなかで、地域資源である建物や古民家などをまちの振興に使おうという流れがありますが、それは僕たちの考え方とも共通しています。
瀧田家の運営に関わったのは、以前からお付き合いのある方からたまたま声をかけていただいたのがきっかけですが、常滑の歴史や産業などその魅力を深く知るほどに、それらを生かしてまちの盛り上げにつなげられたらという思いが強くなっていきました。
――そのためには地元のみなさんとの連携も大事ですね。
市原:そうですね。運営を始めた3年ほど前、このまちにどのような方々がいらっしゃるのかさえ詳しくわかっていなかった。そんな状態で無理に何かを推し進めてもうまくいくわけがない。そこに鯉江さんのような方が力を貸してくださったことはとてもありがたかったですね。
――鯉江さんはどんな思いで関わられてこられたのですか?
鯉江:地元には、生まれ育った僕でさえ入りづらい地域コミュニティ特有のルールのようなものがあるのを感じていました。一方で丁寧に関係性を築き、いいものだと理解できればちゃんと受け入れてくれるということも知っています。
地域資源がうまく活用されていないのはもったいないとも思っていましたし、僕自身、一度外に出たことがあるのでわかるんですが、外から入ってくる人は新鮮で素晴らしいアイデアを持っている。
市原さんたちと出会ってそこに期待する気持ちが大きかったですね。地元出身の自分が間に入っていい形でつなぐことができたらと思いました。
市原:価値ある地域資源や優れた産業を守り続けてきたわけですから、地域のみなさんがそこに大きな誇りを持つのは当然で、逆の立場から見ればそれだけの魅力があるからこそ憧れの存在になるんです。
地元の方々にはずっとプライドを持ち続けていて欲しいですし、我々もそこへの敬意を持って進めていきたいと思っています。
鯉江:丁寧に関係性を作ってこられたことで、いまでは市原さんたちの目指すものへの理解は深まり、期待や注目も生まれてきていますよ。
――「瀧田家」の新しい使い方が始まるのはいつ頃になりそうですか?
市原:コロナの状況もありますが、休憩場での物販を来年度の始めにはスタートさせたいですね。お話ししたこと以外にも、まだいろいろな計画や夢があります。私たちのプロジェクトに興味を感じ、力を貸してれる仲間が増えれば嬉しいですね。
「ボンド」のスタッフとしてはもちろん、さまざまな形でサポートをしてくださる人も歓迎です。