北九州の建築をめぐるvol.3/レトロ×ポストモダンの魅力
北九州の連載
建築は「時代を写す鏡」ともいわれます。
北九州市の建築を時代ごとに分けてみると、明治〜大正〜昭和初期にかけての近代と、高度経済成長期後の1970年代以降に、代表的な建築がぎゅっと集まっていることがわかります。
明治〜昭和初期のレトロ建築は、欧米の影響を受けたクラシックな雰囲気が魅力。それに対して1970年以降の建築は思い切ったデザインのものが多く、独特な雰囲気を漂わせています。
ふたつの時代の建築をたどって、それぞれの時代の北九州を旅してみましょう。
今もなお、魅力的。日本の近代化を支えた時代のレトロ建築
明治以降の北九州は、産業と貿易にわいた時代でした。その中心は1901年に官営製鐵所が操業した八幡エリアと石炭輸出港として賑わった若松エリア、そして国の特別輸出港として大陸との玄関口だった門司エリアです。
これらのエリアに今も残る当時の建築群は、時代を経て、レトロな佇まいの建物として人気があります。(門司港駅周辺に集まるレトロ建築は、vol.2をご覧ください)
製鐵所のお膝元である“鉄のまち”八幡。最盛期には国内の鉄の1/4を生産していたといわれ、人もまちも活気に溢れていました。
日銀本店や東京駅などを手掛けた近代建築の先駆者・辰野金吾による「旧百三十銀行八幡支店」(1915年)は、八幡駅の近くにあります。赤レンガ造りのようにも見えるこの建物は、当時としては新技術の鉄筋コンクリート造り。タイルとモルタルの洗い出しの外観は、まさに“大正レトロ”な雰囲気です。
今はギャラリーとして使用されているので、中までじっくり見ることができます。
一方、若松駅近く、若松南海岸通り周辺は、「若松バンド」と呼ばれる大正期の建築が帯状に集まるエリアです。戸畑から若戸渡船で洞海湾を渡っての若松レトロ散策、がおすすめルートです。
日本の主要な石炭の産地だった筑豊で採掘された石炭の多くは、若松から国内外へと積み出されていました。明治初期に石炭の採掘が自由にできるようになり、石炭関連事業を始める人が急増したために作られたのが石炭問屋組合。その事務所となったのが「石炭会館」(1905年)です。
現在は1階に天然酵母で作るクロワッサンの専門店「三日月屋」が入っており、人気スポットのひとつになっています。木造2階建てで、モルタル塗りの外装に1階は目地を入れ、石張り風に仕上げています。バルコニー付きの玄関を中心に、シンメトリーで風格のある佇まい。玄関を入ると美しく優雅な階段が出迎えてくれます。
「上野ビル」(1913年)は、石炭産業に関わっていた旧三菱合資会社若松支店として建てられたもの。その無骨な外見からは想像がつかないほど繊細な内観となっていて、その対比がおもしろい建物です。
印象的なのが建物の中央の2階から3階の中央に造られた吹き抜けの空間。天井にはステンドグラスのあかり窓が広がります。美しいデザインの手すりがめぐらされた板張りの回廊に立てば、写真を撮らずにはいられないはず。映画やドラマのロケ地にもなるレトロなビルです。 3階にある海の見えるカフェ「アサカフェ」も人気ですよ。
磯崎新が目指した、北九州の新たなランドスケープ
1963年に5つの市が合併して北九州市が生まれると、にぎわいの中心は次第に小倉へと移っていきます。関門海峡へと流れ込む紫川が中心部を流れ、山々に囲まれるというロケーション。こうした環境は、小倉の市街地に新たな建築を建てる際にも、大きな影響を与えていたのではないでしょうか。
1974年以降、小倉エリアを中心に、ポストモダンを牽引した建築家・磯崎新氏による建築がたて続けに登場します。(ポストモダン建築とは、機能や合理性を追求したモダニズム建築に対し、装飾や象徴性を回復した建築と言われています。)今ではすっかり小倉のまちに馴染んだ斬新な磯崎建築からは、新しい時代の新しいまちへと向かう強い意思が感じられるような気がします。
紫川のほとりに広がる勝山公園内に建つ「北九州市立中央図書館・文学館」(1974年)は、磯崎氏の代表建築のひとつ。なだらかに傾斜した地形に沿った2本のヴォールト屋根の建物で構成されています。館内は階段状になった書架とそれに沿ったスロープを持つ図書館とカフェテリア、もう1本の建物にはステンドグラスも美しい文学館が入っています。
グリーンのアーチを描くこの建物は外から見ても美しいですが、内部に入ると曲線を造形するコンクリートのリブが力強さと繊細さを感じさせ、また違った印象。見応えがあります。
小倉駅北側の臨海部に行くと、ふたつの磯崎建築が隣り合わせています。「西日本総合展示場」(1977年)は建物に沿ってケーブルタワーが立ち並び、まるで帆船のマストのよう。吊り屋根構造によって造られた柱のない巨大空間は、さまざまなイベントの会場として活用されています。
「北九州国際会議場」(1990年)もやはり、海をイメージしてデザインされた磯崎建築です。 ひときわ目を引くアンバランスでカラフルなタワーは、船のブリッジをイメージし、建物の屋根は大きな波を表しています。海側はすべてガラス張りで、目の前に広がる風景も取り入れた開放的な空間となっています。
レトロ建築から見えた繁栄の時代、ポストモダン建築が取り入れられた成熟の時代。建築はハコとしての機能だけでなく、歴史や文化を伝える役割も担っていることを改めて感じました。
時代とともにまちを支える産業が移り変わり、にぎわうエリアも変化してきた北九州市。 訪れた際には、それぞれの時代の特色が息づいた建築めぐりも楽しんでみてください。
(文:岩井紀子)
89か所にも及ぶ建築と景観を紹介する冊子「ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜」。そこで紹介されている北九州の建築を5回にわたって紹介します。
「北九州の建築をめぐる」連載
名称 | ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜 |
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