北九州の建築をめぐるvol.4/マニア必見!名橋の造形美
北九州の連載
わたしたちのくらしの中にある橋。
それは、こちら側とあちら側を文字通り“橋渡し”する、機能的な構造物としてつくられたもの。ですが、その存在がまちのシンボルになったり、欠かせない風景の一部になったりする、不思議な魅力を持っています。
デザインや素材、構造といった目に見える部分だけでなく、架けられた時代や造られた背景まで楽しめたら、もうあなたも橋マニアのなかま入りです。
北九州の建築をめぐるシリーズ4回目は、北九州市内の橋にスポットをあてます。
温もりを感じる、レンガ・石造りのアーチ橋
赤レンガ造りのアーチ橋「九州鉄道茶屋町橋梁」(1891年)は、八幡東区茶屋町に架かる旧九州鉄道大蔵線の遺構です。
槻田川(つきたがわ)が板櫃川(いたびつがわ)へと合流する少し手前にあり、穏やかなせせらぎの周辺には花壇やベンチも。のんびりと橋を眺めるのにもってこいです。
橋の壁面はレンガの長手と小口を交互に積んだイギリス積。アーチ部分はレンガの小口を五段積みにして美しいカーブを形成しています。アーチのバランスを両端で支える役割をもつ迫元(せりもと)と上流側の隅石には、硬い花崗岩が使われています。
上流側の壁面(写真)はフラットな造りですが、反対側の壁面は、アーチとその周辺のレンガが一段ごとに凹凸に組み合わされています。“ゲタ歯構造”と呼ばれるこの部分は、装飾という見方がある一方、単線だった大蔵線の複線化に備え、レンガを噛ませて橋を増設できるように造られたとも言われています。
今は静かな住宅街で、九州最初の鉄道がガタンゴトンと走った時代を感じることができる貴重なアーチ橋です。
紫川の上流、小倉南区春吉にある「春吉の眼鏡橋」(1919年)の建設には、ある物語が残されています。
その昔、この地区には板を渡しただけの簡単な橋しかなく、そこで子守の少女が転落死するという事故が起こりました。それを悲しんだ地域の人々が、寄付を出し合って建設したのがこの橋です。
使われている石材は紫川の川石。建築の由来を知ると、積み上げられた石ひとつひとつに、人々の思いや願いが込められているように感じられます。
河原に降りる階段もあるので、100年の歴史ある石橋をいろんなアングルから楽しむことができます。
歴史的価値を持つ、美しいフォルムに魅せられて
八幡東区河内(かわち)に造られた人工のダム、河内貯水池。官営八幡製鐵所の工業用水を確保するために1927年に完成したこのダム湖には、5つの橋が架かっています。
なかでもひときわ目を引くのが「南河内橋」(1926年)。 緑の山々と水面に映えるこの橋はその横顔から“めがね橋”とも呼ばれ、どこか愛嬌があります。 鋼材を凸レンズ型に組み合わせていることから“レンズトラス橋(レンティキュラー・トラス橋)”といわれる構造で、それが2連続くことで、まさにめがねのような形になっています。
この形式の橋梁は、国内では1920年代に3つ造られたとされていますが、現存するのは南河内橋のみ。橋梁技術史上、高い価値を持っている貴重な橋です。
橋長132.97m、径間66m、幅員3.6m。現在は遊歩道・サイクリングロードとして通行できます。
湖畔にある「河内サイクリングセンター」で自転車を借りて周辺をめぐるのもおすすめ。南河内橋はもちろん、石造りのアーチ橋である「中河内橋」や「猿渡橋」、ヨーロッパの城砦を思わせる「河内堰堤」(えんてい)など、見どころ満載です。
まるでサンフランシスコ!?存在感抜群の赤い吊橋
日本初の長大吊橋として洞海湾をまたぐ「若戸大橋」(1962年)。「東洋一の夢の吊橋」とうたわれたその姿は、工業地帯が広がるこのエリアでひときわ鮮やかに写ります。
この橋の建設は、当時の金額で51億円をかけたビッグプロジェクト。それまで若松区と戸畑区の両岸を行き来する交通手段が渡船しかなかった市民にとって、橋の完成は悲願であり、誇りでもありました。
全長2.1kmのうち吊橋部は627m。高さ84mの主塔2本で支えられる橋は、洞海湾に出入りする大型貨物船に備え、満潮時に桁下40mを確保した造り。工事は両岸から橋桁を伸ばして進められました。真ん中でつながった際には36台のトラックを載せ、たわみや振動の試験も行われたそうです。
「日本新三大夜景都市」に認定されている北九州市は、夜景観光への取り組みの一環として橋の全面ライトアップをスタート。闇夜に浮かび上がる真紅の橋は幻想的です。
両岸の橋のたもとには若戸渡船の渡船場があり、洞海湾を渡ることができます。船に揺られながら見上げる橋の姿はダイナミック! 約3分の船旅を楽しんでみませんか?(片道大人100円)
十橋十色のシンボリックな橋に彩られる紫川
小倉のまちを流れる紫川には、10の個性的な橋がかかっています。「紫川マイタウン・マイリバー整備事業」の一環として架けられたさまざまなテーマを持った橋を、河口から順に紹介しましょう。
① 最も河口に近い「海の橋(紫川大橋)」。船のマストをモチーフにした街路灯や海にせり出す歩道が特徴です。上流に向かって、②ガス灯を備えた「火の橋(室町大橋)」、③長崎街道の起点である「木の橋(常磐橋)」、④「石の橋(勝山橋)」、⑤小倉城を正面に望む「水鳥の橋(鷗外橋)」、⑥支流神嶽川に架かる「月の橋(紫川1号管理橋)」、⑦ひまわりを描いた歩道にマカロニのような頭を持つオブジェが並ぶ「太陽の橋(中の橋)」、⑧重厚な「鉄の橋(紫川橋)」、⑨風を受けて動く巨大モニュメントが目印の「風の橋(中島橋)」、最後が⑩「音の橋(豊後橋)」です。
個性豊かな橋たちは、小倉っ子にとって馴染み深い紫川を彩るシンボルとなっています。
北九州の橋の数々、いかがでしたか? “渡る”という機能だけでなく、時代を超えて人々に愛される橋の魅力を、ぜひその目で確かめてみてください。
(文:岩井紀子)
89か所にも及ぶ建築と景観を紹介する冊子「ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜」。そこで紹介されている北九州の建築を5回にわたって紹介します。
「北九州の建築をめぐる」連載
名称 | ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜 |
---|---|
URL | |
備考 | [企画・編集] |