コロナ禍に聴く音楽1
山形の連載
山形に縁のあるアーティストとアルバムを紹介するreal local Yamagata 連載コラム「穏やかな休日のための音楽」の執筆者・石郷岡学さん(山形ブラジル音楽協会)によるスピンオフシリーズです。
常々思っていました。厳密に分けることはできないのですが、音楽ファンには大別して二つのタイプがあって、一つは過去の音楽を掘っていくタイプであり、もう一つは逆に常に新しい音楽にアンテナを張って行くタイプで、僕自身はどちらかというと後者だと思っていました。そして個人的には、自分が過去の音楽ばかりを追いかけ始めたら、自分の頭が固くなってきた証左なのだ、と思っていたわけです。ところがその見解をあっさり覆したのは、この忌まわしいしいコロナ禍なのでした。家に籠る時間が多くなり、音楽を聴く時間が増えたこともあって、過去の音源をもう一度振り返る時間もそれに従って増えたというわけです。
過去の音源を色々と振り返ってみると、いろいろな視点から音楽が見えてきて、少しまとめておきたいなと思い、「コロナ禍に聴く音楽」として紹介することにしました。
第一回目は、ボサノヴァが終焉を迎えた1960代中盤から-1970年台のブラジル音楽やブラジル音楽に影響を受けたアルバムを10枚選びました。この時代の音楽は、淡い色彩感に溢れて、切なくてどこか儚くて、心地よく陶酔できて、洒脱で、でも懐かしい、そんな愛すべき音楽です。もちろんこれらの音楽は僕もリアルタイムに聴いたものではなく、せいぜいブラジル音楽を聴き始めた頃に聴いたもので、数多のアルバムの中で何故か殊更に僕の中に残っているものです。ぜひ聴いてみてください。コロナ禍をむしろ楽しみに。
Os Gatos / Aquele Som Dos Gatos (1966)
ドゥルヴァル・フェヘイラ、デオダートを中心とするユニット「Os Gatos」の1966年の作品です。ドゥルヴァルとトム・ジョビンの曲をデオダートの、色彩が溢れ出るような編曲で綴る作品。私的にもっとも好きな作曲家ドゥルヴァル・フェヘイラの自演による名曲”E NADA MAIS”が最高に切ない。
*試聴
Diane Denoir y Eduardo Mateo / ST (1966-68)
故エドゥアルド・マテオはウルグアイの音楽界でもっとも敬愛されているアーティスト。本作ではボサノヴァの名曲とマテオのオリジナルを、女性歌手ディアネ・デノイールとともに収録した作品です。ボサノヴァも良いけれど、当時のモンテビデオの空気を感じさせるマテオのオリジナル曲が秀逸です。
*試聴
Bobby Hackett, Billy Butterfield / Bobby/Billy/Brasil (1967-68)
ボサノヴァは米国にもこの時期多大な影響を与えました。多くのジャズマンがボサノヴァを好んで演奏したのです。本作はボビー・ハケットのコルネットとビリー・バターフィールドのトランペットの優しい音色で、ブラジルやジャズの名曲を奏でています。ブラジルからルイス・エンリケが参加していて、素晴らしいサポートを見せています。
*試聴
Gary McFarland / Today (1969)
渡辺貞夫さんとのコラボでも知られる故ゲイリー・マクファーランドの傑作。ジャズとボサノヴァとポップスとを、ロン・カーター、ヒューバート・ロウズ、アイアート・モレイラなどの名手をサポートに、軽やかで浮遊感のあるサウンドの中に結実させた早すぎた名盤。今の耳にも最高に心地良いアルバム。
*試聴
Os tres brasileiros (1969)
オス・トレス・ブラジレイロスは、モライス三兄弟によるヴォーカル・ユニットで、ブラジル本国ではトレス・モライスと言います。爽やかなボサノヴァのリズムの上に、軽やかなハモンド・オルガン、そして3人によるエレガントで洒脱なコーラスとスキャットが素晴らしい。
*動画
Aldemaro Romero / And His Onda Nueva (1972)
アルデマロ・ロメロはヴェネズエラの作曲家/指揮者。彼と混成コーラス・グループのオンダ・ヌエヴァが米国で録音したもの。オンダ・ヌエヴァとは彼の創作したリズムの名前でもあるそうですが、ボサノヴァの影響が強いですね。すでにこの時代、音楽はジャンルを超えてミクスチャーされています。(動画はヴェネズエラ盤ジャケット)
*動画
Eduardo Gudin / ST (1973
エドゥアルド・グヂンはサン・パウロを代表するギタリストで作曲家。本作は1973年のデビュー盤。ボサノヴァの影響というよりは、サンバを白人的に追求した知的で洗練された音楽です。ご本人は歌も歌いますが、正直あまり上手くありません。まあ、「味」ということで。私にとってオールタイム・ベストの一つ。
*試聴
Bebeto / ST (1975)
「タンバ・トリオ」の、ベベート・カスティーリョが1975年にリリースしたソロ作品。個人的にはこのベベートの声、フルートの音色、コーラス、ルイス・エサのエレピ。もうどうしようもないくらい儚くて、私的にはど真ん中。ブラジルの音楽の持つ郷愁を体現したような作品です。これもオールタイム・ベスト。
*動画
Cortex / Troupeau Blue (1975)
コルテックスはフランスのユニットです。本作はフレンチ・ブラジリアンの極北と言われ人気盤。基本的にちょっとファンキーで、ブラシル音楽を意識したジャズ/フュージョン系の音の上に、ミレイユ・ダルブレイの柔らかな歌という、とても透明感のある、おしゃれなアルバムです。
*試聴
Mario Castro Neves / Stop, Look & Listen (1975)
創成期からボサノヴァに関わった、カストロ・ネヴィス三兄弟のひとり、マリオが1975年カナダのトロントで残した音源です。“Feelings”や、スティービー・ワンダーの“Summersoft”などのベタなB級感良いのですが、やはりマリオのオリジナルが抜群です。ボサノヴァから派生したポップでグルーヴィーな名盤です。
*動画