山形県村山市「Link MURAYAMA」廃校が生まれ変わる。地域のにぎわいをつくる複合施設へ
廃校活用
2016年3月に閉校となった山形県立楯岡高等学校(以降:楯岡高校)が、2022年春頃、新たににぎわい創造活性化施設『Link MURAYAMA(リンクむらやま)』として生まれ変わります。
地域から長年愛されてきた楯岡高校。閉校してから数年にわたり、村山市ではその跡地の利活用について議論を重ね、2020年5月には跡地が県から市へ譲渡されて市有財産となりました。
市民会議などを通じて市民の声を集めながら基本構想がつくられ、「多様な利用者が集い、にぎわいの創出と経済効果を生む拠点」というビジョンが生まれました。これを実現すべく、コミュニティ、コワーキング、オフィス、ゲストハウス、フィットネス、子どもの遊び場・スポーツという6つの機能が施設に導入されていきます。それぞれを順に見ていきましょう。
コミュニティ
Link MURAYAMAの顔となるのが、管理棟1階の元職員室の空間。幅広い世代の人が集える「リビング」として、市内外の人が気軽に立ち寄って交流できたり、企業や地域のイベントが行われたり、コミュニティを醸成する場として幅広く活用されていきます。
正面入り口から入ると総合受付があり、その奥に設置される売店やカフェでは、市が独自に開発したバラのアイスなどが販売される予定とのこと。
コワーキング
リビングの横のスペースと、その上の2階の一部がコワーキングスペース。個人事業主の仕事場や会社員のテレワークの拠点として、 さらには異業種との交流で新しいビジネスチャンスが生まれる可能性も秘める場所です。
オフィス
2〜3階には15室ほど個室のテナントスペースがあります。首都圏に本社を持つ企業のサテライトオフィスや、IT事業者、デザイン事務所などあらゆる業種の需要を見込んだ空間。1〜2階のコワーキングスペースで事業を立ち上げて成長させた後、事務所として個室に入居できるように、といった思いも込められています。
ゲストハウス
元特別教室棟の3階部分は、ゲストハウスを予定しています。元特別教室棟の1階には飲食店が入居予定で、宿泊者は飲食店で食べるも良し、隣の元保健室にはシェアキッチンを設置する予定なので、朝ごはんは自分でつくってみるも良し。
シェアキッチンは地元の人も自由に活用できるので、旅行者と地元の方との交流の場ともなりそうです。
フィットネス
北側の管理棟にある元図書館と元音楽室は、フィットネスルームに生まれ変わります。ここは「メディカルフィットネス」として健康促進を目的とした場所。市医師会と民間3社が協力して、最新技術を用いたフィットネス施設が整備される予定です。
利用者の健康状態や運動量などの情報をもとに医師が効果的な運動法を示し、健康増進に役立てることができるというもの。お年寄りをはじめ、幅広い世代の人がここで運動して交流して帰っていける。そんな使い方がイメージされています。
子どもの遊び場・スポーツ
地域の子どもや、子連れのファミリーも気軽に立ち寄れるような計画もあります。コリドー(廊下)で繋がれる体育館の下のピロティ部分には、スケートボードで遊べる空間や、中庭や室内にも子どもが自由に遊べるスペースを検討中とのこと。
コリドーで建物をつなぎ、中心に人が集まる設計
2020年10月から、耐震化されていない教室棟や講堂などの解体工事が行われました。敷地の北側にある管理棟や、そこから繋がる特別教室棟などをリノベーションして活用していきます。
今回のリノベーションのポイントのひとつが、リビングやコワーキングスペースなどがある管理棟と体育館を屋根付きのコリドーでつなぐこと。シェアキッチンとリビングもコリドーで繋がれます。
建物同士を繋げることで、Link MURAYAMAの中心となる管理棟に自然と人が集まるようにと設計されました。
また、管理棟の外観や校舎の一部はそのまま残されるほか、教壇や床材は再利用されて新たにテーブルや椅子が製作されます。空間のあらゆる場所に思い出のピースが散りばめられ、新しいけど懐かしい、そんな空間になりそうです。
楯岡高校への思いが詰まったTシャツプロジェクト
解体工事に入る直前の2020年9月には「旧楯岡高校お別れイベント」が行われました。イベントを記念して、地域おこし協力隊の成毛清和子さんが楯岡高校記念Tシャツを限定100着製作したところ、すぐ売り切れに。
その後も好評で卒業生を中心に問い合わせが相次ぎ、追加販売されることになりました。現在はJR村山駅東口1階の市観光物産協会で販売中。売り上げの一部は同校の利活用事業に寄付されます。
Uターンした卒業生がLink MURAYAMAのスタッフに
コミュニティ、コワーキング、オフィス、ゲストハウス、フィットネス、子どもの遊び場・スポーツという多様な機能を包括するLink MURAYAMA。老若男女、市内外からさまざまな人がやってくるはず。そんな多様な来館者を案内したり、入居者同士を繋ぐ役割をするのが、小関恵子さんです。
小関さんは東根市出身で、楯岡高校の卒業生。2021年1月に東京から山形へUターンし、2021年2月にLink MURAYAMAの利活用をミッションとする地域おこし協力隊に着任しました。
ご実家がさくらんぼ農家である小関さん。東京で20年以上暮らしながら、ご実家の農園を通じて、少しづつ山形の魅力を感じるようになったといいます。
「あるとき、実家から届いたさくらんぼを社交ダンスの生徒のみなさんに振る舞うと、すごく喜ばれて驚きました。自分にとってはあまりに日常的なものだったので。
その後も、実家の農園のSNSを運用して情報発信していると大きな反響を受けました。自分や地元の人にとっては“当たり前”のものに実は大きな価値があるのではと気がつき、こんなに求めてもらえるなら、もっと山形の魅力を発信していきたいと思うようになりました。
そんなとき偶然に地域おこし協力隊の募集と出会い、『地元の役に立てるならばやってみよう』と、思い切ってUターンを決めました」
地域に新しい風景をつくっていく
小関さんは、本施設のオープンについてこのように話します。
「母校が新しい使われ方で蘇る(よみがえる)ことが、純粋にすごく嬉しいです。私の役割は、Link MURAYAMAを盛り上げていくこと。入居者同士、地元の人と旅行者など、幅広い世代のさまざまな人たちが繋がって、にぎわいや経済効果を生み出していく。それを少しでも促進させられるよう動いていきたいと思います。
村山駅(旧楯岡駅)から楯岡高校までは徒歩6〜7分ほど。その一本道は村山市中心街のメインストリートです。かつては通学する生徒や保護者、関係者など、人が歩き賑わう風景がありました。来年の春からまたここを中心に人が集まり、周辺のエリアにもいい影響が波及していくような場所にしていけたらと思います」
2021年夏からは改修工事に着手。2022年春頃のオープンに向けて、今日も着々と準備が進んでいます。
『Link MURAYAMA』という施設名には、多様な世代や事業者がリンクするように、各機能がリンクして相乗効果を生むように、との願いが込められているといいます。
地域から愛されてきたこの学び舎が、未来にどのような新しい風景をもたらすのか。Link MURAYAMAの完成が今から楽しみです。
取材・文:中島彩
撮影:伊藤美香子