北九州の建築をめぐるvol.5/美しき木造建築の世界
北九州の連載
北九州の建築をめぐるシリーズも、いよいよ今回が最後となりました。
ラストを飾るのは、日本人にもっとも馴染み深い、木造建築です。
宮大工の高度な技術と技法に目をみはる社寺建築から、北九州市を代表する企業家の旧邸宅まで。長い年月のあいだ失われることなく、歴史を重ねてきた姿は風格に満ちています。
北九州を訪れたら見ておくべき、価値ある木造建築の数々、お楽しみください。
みどり美しい静かな山麓に、どっしりとたたずむ禅寺
小倉のまちを見下ろす足立山麓に建つ「広寿山福聚寺(こうじゅさんふくじゅじ)」(1665 年)。一般的なお寺とは、どこか違う趣があることにお気づきでしょうか?
ここは日本三禅宗のひとつ、黄檗宗(おうばくしゅう)の名刹。中国禅を起源とする禅宗なので、建築様式も中国式なのが特徴です。
卍模様の手すり、魔よけとされる桃の実の飾り、側壁にしつらえられた円形の窓など、他の宗派のお寺では見かけないデザインが多く見られます。
仏殿右手には、朱色に塗られた木製の巨大魚がつるされています。木魚の原型といわれるこの法具は、打ち鳴らして時刻を知らせるためのものだそう。また、仏殿が瓦敷きの土間づくりなのも中国風です。
小倉藩小笠原初代藩主であった小笠原忠真(ただざね)が菩提寺として建立した福聚寺。屋根瓦には小笠原の家紋・三階菱(さんがいびし)が見えます。
仏殿のほか、不二門(ふにもん)、鐘堂が、幕末の長州征討の戦火を逃れ、昔のままの姿で残っています。
静かな境内は、「森林浴の森日本100選」にも選ばれた「足立公園」に隣接。散歩がてら訪れてみてはいかがでしょうか。
小倉南区蒲生(がもう)、鷲峰山のふもとに建つ「大興善寺」(1671 年)。
鎌倉時代に建立されたのちに荒廃していた寺を憂い、小笠原忠真夫人の永貞院が中心となって再興、禅宗・曹洞宗の寺院となりました。
現在も残る山門と舎利殿は、この時に造られたもの。
三間一戸(さんけんいっこ)の入母屋造りの山門の両脇には、みごとな金剛力士像が安置されています。
力強くシャープな形相、引き締まった筋肉、流れるような着物のひだなど、見応え十分です。
現地では格子越しにしか見ることができませんが、八幡東区の「いのちのたび博物館」の歴史ゾーンに、金剛力士像のレプリカが展示されています。ぐるりと全身くまなく見ることができますよ。
繊細な彫刻の美しさに見入ってしまう、江戸末期の神社
楠の大木に囲まれた鎮守の森に建つ「廣旗八幡宮」(本殿1842年、拝殿1848年)。
拝殿の背後に幣殿、渡殿、本殿が連なり、とても保存状態がよいことから、江戸時代末期の神社建築の歴史を知ることができる貴重な建築です。
よく見ると柱が丸いことに気づきます。拝殿や本殿に丸柱が使われており、これは神社としては珍しいそうです。
お参りを済ませたら、本殿へとまわってみましょう。三間社流造(さんげんしゃながれづくり)という建築様式で造られた約4m四方の大きさを持つどっしりとした本殿は迫力満点です。
いくつものパーツを組み合わせて社殿の重さを分散させる「腰組(こしぐみ)」の構造美もさることながら、目を引くのは屋根の下を彩る彫刻「妻飾(つまかざり)」の数々。雲や波を思わせるうねりのなかに、躍動感あふれる龍のような動物の姿も描かれています。
また、柱から突き出した梁の先端「木鼻(きばな)」にほどこされた彫刻など、各所に散りばめられたダイナミックで繊細な飾りがすばらしく、一見の価値ある神社です。
北九州の将来を話し合った歴史を持つ邸宅
夜宮公園の一角に建つ「旧安川邸」(1912 年移築)は、工業都市北九州の基礎を築いた安川財閥の創始者・安川敬一郎によって建てられ、以後三代にわたって一族が暮らしたお屋敷です。大座敷、蔵、洋館、本館棟で構成されています。
美しい庭園を持つ「大座敷」は、1912年に現在の場所に移築される前は若松区に建っていました。その時代、この座敷に地元有志たちが集まり、官営製鐵所を八幡に誘致するための作戦会議が開かれたそう。また、移築の翌年には中国辛亥革命の父・孫文が訪れ、宿泊した記録が残っています。
2021年度は季節ごとに一般公開される予定です。(事前予約が必要)
公開日程などは市のホームページをご覧ください。
旧安川邸を訪れた際は、となりに建つ「西日本工業倶楽部 洋館(旧松本家住宅)」もぜひご覧ください。
建築家・辰野金吾が手掛けたアール・ヌーヴォー様式の洋館は優雅そのもの。
父・安川敬一郎とともに石炭業で成功し、明治専門学校(現在の九州工業大学)の創立者のひとりである松本健次郎の自宅兼、学校の迎賓館として建てられたものです。
こちらは年1回程度、特別公開されています。(2021年度の春の公開は中止、秋以降の開催は決まり次第市のホームページで発表予定。見学は事前予約が必要です)
これまで5回にわたり、北九州市の建築・景観を紹介してきました。時代ごとにさまざまな特色を持つ建築。“目に見える魅力”はもちろんのこと、北九州の歴史という“目に見えない魅力”も味わいに、北九州市に足を運んでみませんか。
(文:岩井紀子)
89か所にも及ぶ建築と景観を紹介する冊子「ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜」。そこで紹介されている北九州の建築を5回にわたって紹介します。
「北九州の建築をめぐる」連載
名称 | ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜 |
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