第7回 クリエイティブ会議「アートとテクノロジーの《あそび場》」レポート 2021.2.27/Q1プロジェクト
山形の連載
「クリエイティブ会議」とは、第一小学校旧校舎を創造都市やまがたの拠点として再整備していく「Q1プロジェクト」にまつわるシリーズ。
2021年2月、オンラインにて第7回クリエイティブ会議が開催されました。
今回のテーマは「アートとテクノロジーの《あそび場》」。ゲストはアーティストユニット「TOCHKA」(トーチカ)のお二人で、モデレーターは、東北芸術工科大学のアイハラケンジ准教授です。TOCHKAの展覧会「Playground 2.0」が開催中の「東根市公益文化施設 まなびあテラス」からライブ配信で行われました。
TOCHKAの代表作といえば「PiKAPiKA」(ピカピカ)。空中にペンライトの光で絵を描くことでアニメーションをつくるというもの。作品動画を見ていると、大人も子どもも言語の壁を超えて遊ぶ、そんな心温まる風景があります。
これまでTOCHKAがつくり上げてきた、アートとテクノロジーの遊び場、そして開催中の展覧会も参照しながら、Q1がどのような「あそび場」(=Playground)となっていくのかを議論したトークを振り返っていきます。
TOCHKA(トーチカ)
京都を拠点に活動する映像作家・アニメーション作家。1998年より「トーチカ」としての活動を開始。2004年より長時間露光写真とストップモーションアニメーションの手法を組み合わせ、ライトを使って空中に線を描くことでアニメーション制作を続けている。近年は、実験的なインタラクティブ映像の開発による、鑑賞者と映像のかかわり方についての研究なども行っている。
世界共通のコミュニケーションツール 「ピカピカ」
大学の同級生で、1992年から20年ほど活動を続けるTOCHKAのお二人。映像と絵画の可能性を出発点に活動を開始し、立体物のインスタレーションをつくっていました。そこから光で絵を描くことにシフトし、徐々にいろんな人に参加してもらい場づくりをすることや、参加型アートという文脈を取り入れていったといいます。
「ピカピカ」は2005年に誕生した作風です。その代表的なムービーがこちら。
イラストレーターやアニメーターなどのクリエーターが集まり、みんなでライトを持って動き回り生まれた作品。制作に疲れた人もいる中で「制作の楽しさの原点に戻ろう!」との思いからスタートしたといいます。
「常に『実験』がベースにありました。うまくいかなくてもいい。『遊び』や『ふざけること』にフォーカスした結果、『つくることって楽しい!』と思い起こすようなプロジェクトになりました」(モンノさん)
その後「ピカピカ」は世界から注目を浴び、日本全国、世界各地、万博や映画祭、小学校の授業に組み込まれるなど、世界中を飛び回り、子どもたちと一緒にワークショップやプログラムを行ってきました。
2019年11月末から3ヶ月間は、アムステルダムで開催されたライトフェスティバルに参加しました。運河に大型インスタレーションを設置するというイベントです。
その一環で、アムステルダム市と協働して市内の小学校で約900人の子どもたちを対象にワークショップを開催。テーマは「Neighbors(隣人)」。子どもたちに「隣の人とどんな対話をするか、絵で表現してください」とお題を出し、フレームに子どもたちがライトペインティングで描いていきました。
「アムステルダムには多民族が暮らし、ダイバーシティであることに敏感な街。言語を使わずにどのように隣の人と会話するか、プロジェクトを通じて子どもたちと一緒に考えていきました」(モンノさん)
身近な素材で遊ぶ
TOCHKAはライトペインティングの絵筆となるライトペンの開発も行っています。その作り方は小中高の技術や図工の教科書にも載っています。
「できるだけオープンソース化して、マニュアルを見れば誰でもつくれることが理想です」とナガタさん。100円均一で買えるUSBでつながる電球型ライトを流用して、他の部分を3Dプリンタのパーツや基盤付きのキットと組み合わせてひとつのライトをつくるという試み。独自のマニュアルで120個のライトペンをつくり、それを使ってワークショップを行いました。
ライトや虫眼鏡を使って作品をつくる。まるで裏技のように、意図しない使い方をされたときに『遊び』の感覚が出てくるのかもしれません。
今となっては気軽に動画を撮影できる時代ですが、15年以上前から、高額なセットや機材に頼ることなく、身近にあるものを使って動画作品をつくり、配信しているのも『遊び』の要素と言えるのでしょう。
TOCHKA Playground 2.0 ー見えざるものと王子さまの旅ー
2017年に東根市まなびあテラスで開催された個展「Playground」を引き継ぎ、同館にて「TOCHKA Playground 2.0 ー見えざるものと王子さまの旅ー」(会期:2021年1月9日~2月28日)が開催されました。
会場内でスマートフォンやタブレット端末を利用して、Instagramのアプリ越しに作品を鑑賞し、AR(拡張現実)技術を使った作品などインタラクティブな作品で構成されています。
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリによる『星の王子さま』(内藤濯訳、岩波書店刊)を原作とした物語をTOCHKAが、新たな視点で展開するプロジェクト。「王子さま」という名の自走型遠隔操作ロボットが展示の見方を説明したり、来客者をナビゲートしてくれます。
「コロナでステイホームが長かったので、親子で楽しめる新しい読書体験が提供できれば、そして新しい絵本の読み聞かせのかたちを提案したいことが、このプロジェクトの出発点でした」(モンノさん)
「『見えざるもの』が今回の展覧会のテーマです。星の王子さまの物語にも出てくる言葉ですが、見えるものだけがすべてではありません。その先を想像する、違う見方をしてみる、隠れている意味について考えてみる。そんなことに触れてみてほしいという思いを込めています」(ナガタさん)
Q1における「アートとテクノロジーのあそび場」
最後にトークテーマはQ1へ。これまで子どもたちと一緒にプロジェクトを行ってきたTOCHKAのお二人と、アイハラケンジさんと3名でQ1の未来について議論していきました。
アイハラ Q1という場所を舞台に、子どもたちとどんな遊びができるのかを考えていきたいと思います。子どもたちだけでなく、もちろん大人たちや高齢者たちも行き交う場になればと思っているのですが。
モンノ 全員が楽しめたらいいですよね。「子育て」という言葉の響きが、重荷に聞こえるときがあります。子どもたちが遊んでいるけど、大人たちも遊んでいるような空間がつくれたら、きっといい場所になりますよね。
例えば、子どもが遊んでいる横で、大人がワインを飲みながらそれを眺める。子どもたちが触っても暴れても、それをほったらかしでもOK。誰でも自由に見られる展示会場をつくるとかおもしろそうです。
ナガタ 高齢者の方も来られるイメージなのですね。
アイハラ 山形市において第一小学校は歴史ある小学校。そこに通っていたり関わってきた方々も巻き込んでいけたらと思っています。子ども、大人、高齢者の方と3世代がなにか一緒につくったり、コミュニケーションすることができないかな?と考えています。
ナガタ ゲートボールをアップデートして、子どもも一緒に遊べるゲートボールを考えるとかどうですか?公園で毎日のように高齢者の方がゲートボールをやっている景色を見ていると、きっとおもしろいんだろうなと思うんですよね。
モンノ 子どもも一緒にみんなでやればいいのに、って思いますよね。
アイハラ 今回の展覧会であれば、子どもと大人の共通のコンテンツとして「星の王子さま」がありますよね。Q1の共通のコンテンツとしてゲートボール。
ナガタ 例えば、ドッジボールとゲートボールゲートボールの間をつくるなど、ルールを変えるだけでいろんなワークショップができますよね。
アイハラ お二人の話でおもしろかったのが、活動のすべてが身長や運動神経などの身体性を問わないこと。年齢も問わず、みんな一緒に遊べますよね。
モンノ もしかしたら、前提条件として年齢を分け過ぎなのでは?と思うんですよね。盆踊りみたいに、いろんな世代の方が一緒に踊れるようなものをみんなでつくり上げる。年齢もジェンダーも関係なし。どこかで区切るから溝が生まれるし、一緒に取り組めたほうが楽しいんじゃないかなと思います。
アイハラ 最後に、トーチカの今後の展開について教えてください
ナガタ 二人それぞれに進んでいるのですが、僕は映像のアップデートを考えていて、来年にはライトペインティングの発展形をお披露目したいと思っています。
モンノ 私は毛糸で絨毯をつくってそれでアニメーションをする「アニメーション絨毯」をつくりたいと思っています。山形県はニットの生産が盛んですよね。不要になった毛糸をこの期間中に集めさせていただいていて、それを使って大きな絨毯をつくろうと計画中です。“ストップモーションアニメーション絨毯”として、一枚づつ撮影するとアニメーションになるアプリと絨毯を準備しています。
アイハラ どちらも楽しみですね。Q1ができたらぜひワークショップを開催いただいたり、子どもたちと遊んでいただきたいです。
モンノ ぜひその絨毯を置かせてください!
ナガタ 遊びに行けるのを楽しみにしています。
アイハラ 今日はありがとうございました。
これまでのクリエイティブ会議のアーカイブはこちら。
テキスト:中島彩