名古屋金山から発信。ネットでは体験できない、 本屋という居場所。「TOUTEN BOOKSTORE」
ローカル気になる人
1日1軒以上の本屋が廃業しているという中、あえて本屋を開いた若き女性がいます。金山駅から徒歩7分ほどの沢上商店街で見つけた空き家を改装し、子どもやお年寄りまでふらりと立ち寄れる、どこか懐かしい雰囲気のある本屋。地域とともに、そこに暮らす人たちとともに、ずっとずっと続いていく本屋をめざす古賀さんに話を聞いてきました。
本屋という居場所をつくりたい
出版の中でも、本の流通に関わる仕事をしていた古賀さん。毎日のように本屋へ通い、それぞれの店にある個性や魅力に気づくうち、本屋という居場所に興味を持つようになったのだとか。
「仕事ではあっても、私自身が本屋に行くことで救われることも少なくなかったんです。
本屋で新しい情報に触れることが思った以上の息抜きになったり、自分の興味が向くまま手にとった本にワクワクしたり、これまで気にも留めていなかったことを知る機会になったり。一般的にネットでは自分が興味ある情報にしかアクセスしませんが、その興味の枠を超えたところにあるものと出会える、本屋という場所に可能性を感じました。」
一方で、街の本屋はなくなっていくばかり。どうにかならないかと考えるうちに、自分でやってみようと思い始めるようになったそうです。
つぶれない本屋はどうあるべきか。まずは経営のノウハウを学ぶため、25歳で東京にある本屋の企画・運営をする会社に転職。本屋の立ち上げやイベントを行う部署で、古賀さんは本屋をプロデュースする立場となりました。
まずは本屋に行きたくなるフリーマガジンを発行
本屋の立ち上げやイベントに関わっていくほど、本屋の魅力と本屋を続けることの大変さを知った古賀さん。
開店資金の集め方や運転資金のやりくり、あまり本を読まない人にも来てもらえるイベント企画、地域での本屋のあり方など、インプットしたあふれるほどの情報や自分の考えを、いったんまとめる場が欲しいと思うようになりました。
雑誌をつくるという経験もしたかったし、本屋に行くきっかけとなるようなものをカタチにしたかったといいます。
そして会社員を続けながら、2019年には本屋に行きたくなるフリーマガジン「読点magazine、」を発行。ちょうどその頃、28歳での結婚を機に再び名古屋へ戻ることになりました。
金山で理想の物件に出会って一気に前進
名古屋に戻って、とりあえずは書店で働こうかと思っていた矢先に出会ったのが、この物件でした。
不動産のマッチングサイトに本屋をやりたいという思いを書いて登録していたところ、すぐに大家さんから連絡があったのだとか。物件が見つかったことで本屋を開くという夢が具体的に動き出しました。
早速、公庫の融資を取り付け、結婚資金も投入して、それでも足りない部分の支援とマーケティングやPRを兼ねてクラウドファンディングに参加。地域住民の方や名古屋に住む人たちが支援者となって応援してくれていることが本当に嬉しくて、自分が没頭できるこの仕事をしたいと、強く思ったのだと言います。
「築50年の建物を見て俄然やる気が出ました。かつては賑わっていたこの商店街も、現在は数店舗を残すばかりで住宅も多く立ち並ぶエリアとなりました。“ここで本屋を開きたい”それも“この街と人をつなぐ本屋にしたい”と思いました。設計デザインは知人にお願いして、店づくりでは路面店の入りやすさを重視。手前にカウンターを配置して、コーヒーやクッキーを買えたり、クラフトビールも飲めます(笑)。」
珈琲は浅煎りでさっぱりと飲みやすいものを、焼き菓子は身体と環境に良いものをと思い、小麦や卵を使わない米粉のヴィーガンクッキーなどを特注。
朝、コーヒーだけ買って出勤する人もいれば、ドリンクを片手に本を探したり、買った本を読みながら飲んだりする姿も見られるようになりました。そうやって毎日でも立ち寄れるような本屋が理想だそうです。
暮らしに溶け込む本屋であるために
1階に並ぶのは、古賀さんが選書した約3000冊の本や雑誌。入り口には雑誌や料理、旅の本などがあり、その先へ進むと哲学や文芸の本に出会えます。
一番奥のゆったりとした空間に並ぶのは絵本や児童書。近所には小学校があることから、親子で待ち合わせをしていることもあるのだとか。
古賀さんが個人的に好きだというコミックは、一人の世界に入り込めるよう少し奥まったところにコーナーが作られていました。ゾーニングが決まると、棚ごとにテーマを決め、起点となる本に関連本を加えながらバランスよく選書。やはり選書している時が一番楽しかったと言います。
「売り場に親近感を持ってもらって、幅広い人に来てもらいたいと思いながら選書しています。新刊情報は日常的にチェックしていますが、キリがないほど次々と出てきます。
世の中は情報に溢れていて、出版物もそうです。毎日200点を超える新刊が出てきていて、だから日々少しずつでも売り場に変化があります。例えば、洋服屋さんよりも頻繁に変わるものだと思います。そんな環境だからこそ、そのタイミングで手にした本はある意味運命的だし、一方で本を読むタイミングも人それぞれ。
その人が人生の中で必要とする時にちゃんと出会える場でありたいと思っています。そのためにも、暮らしに溶け込む本屋でなければならないなと。前向きな気持ちの時も、気分を切り替えたい時も、リラックスしたい時も、ただ一人でいたい時も、日常のあらゆる場面で「本屋に行ってみる」ということを選択肢に加えてもらえるように。」
街と人をつなぐ本屋であるために
この沢上商店街には、商売をやっていた人たちが今も多く住まれています。一方で、最近では若い世代の方たちが越してきて、新しい風も感じるエリア。皆さん、本屋ができることを気にかけてくれ、温かい雰囲気で迎えてくれたといいます。
「自転車でふらりと来られる方や、お子さんと一緒に家族で来られる方、コーヒーを飲みに来るおじいちゃんやおばあちゃんもいます。一人で来てもずっとのんびりできたり、本屋だからといって静かでなくてもよくて、おしゃべりをしたり、散歩や買い物の途中に立ち寄ったり、待ち合わせをしたり。そうやって日常づかいしてもらえるのが嬉しいです。」
暮らしに溶け込む本屋として、今後は2階スペースを活用していく予定。読書会や著者のトークイベントをはじめ、ヨガや書道などのカルチャースクールができるようにもしていきたいのだとか。
近所の人や本屋のお馴染みさんたちが安心して利用できる街の公民館だったり、いろんな趣味や年代の人たちが安全につながれるハブだったり。「街と人とをつないでいける本屋になるんだ!」と、どこまでも楽しそうに、そして軽快に話してくれました。
ー近日開催予定のイベントー
絵本と子どもについて話す会<0歳〜未就園児編>
子どもとの絵本のたのしみかたを深掘りするためのトークイベント。
早稲田大学教育学部英語英文学科卒業。JPIC読書アドバイザー・司書。
現在名古屋市内の公共図書館に勤務。
場 所:TOUTEN BOOKSTORE 1階
※事前予約制
①お名前
②電話番号
③事前に質問があれば大橋さんへの質問も。