越前丹南、日常に触れる旅4/マイ包丁をつくろう!木工と打刃物の里縦断ツアー
ローカルを体験
日常に触れる旅と題して、福井県丹南地域のローカルトライアルツアー第4弾を紹介します。アーカイブはこちらからどうぞご覧下さい。
ウッドラボいけだは「森の町、池田町」の発信拠点!
こんにちは!reallocal福井ライター、牛久保です。
すっかりおなじみになってまいりましたローカルトライアルツアー。今回レポートするのは、1日かけてマイ包丁をつくるツアーです。包丁の柄の部分を池田町の木工体験施設でつくり、越前市の鍛冶屋さんで包丁にするという、市町を横断してのものづくり体験。包丁をまるまる1本つくるということで体験型の中でもかなり上級者向け!どんな旅になるでしょうか~。
まず最初に訪れたのは池田町のウッドラボいけだ。2020年10月に移転してリニューアルオープンしたばかりの池田町木活・木育振興施設です。
池田町は面積の約9割を森林が占める町。かつては林業が盛んにおこなわれ、北陸の多湿の雪にも耐える杉の品種改良などもされていました。現在、その歴史と地域資源の見直しが行われ、「森の町」として、町をあげて町産材を活用した木製品の開発や木工業の振興に取り組みが始まっています。今回訪れたウッドラボいけだはその中核施設。町や関わる人の意気込みを感じられる場所です。
※池田町の詳しい取り組みはこちらをどうぞ。
施設内の黒板にはウッドラボいけだの想いが描かれています。
参加者のみなさんはここで包丁の柄の部分を作ります。指導・サポートして下さるのは内藤了一さんと谷口素子さんです。内藤さんは池田町で長年木の加工に関わって関わっています。通称「工場長」。「柄を作って、持っていくのは初めてのことだから。ドキドキするね」おー!初めての試みなんだ!これは胸が高鳴ります。
まずは木材選びから。今回用意されたのはケヤキ、ナラ、タモ、サクラの4種類。「色も香りも木目も重さもそれぞれ違いますよ」と内藤さん。
あ~、香りが違う!匂いを嗅いで真剣に材料を選びます。
マイ柄を作ろう!パターンは差し込み式とはめ込み式
今回の柄の制作パターンは大きく2つ。差し込み式とはめ込み式から選びます。差し込み式は1つの木材を、はめ込み式は2枚の木材を選びます。
切り出した木材から柄を1から作る!まだ全然完成図が想像できません。
こちらは、はめ込み式!2枚を同じ木で統一した人もいれば、違う木をあわせた人も。
できた包丁で何をまず切りたいか作りたいか聞いたところ、「トマトを切ってみたい」「人参の千切りをしたい」「唐揚げを作りたい」などなど、様々な回答が。さて、どんな包丁に仕上がるのでしょうか!
差し込み式は、電動ドリルで木材に包丁を差し込む穴を開けるところからスタート!
熱で煙が出て、木の香りが強く立ちます。集中、集中。
じゃーん!穴が開きました!ここから鉋(かんな)を使って角を削っていきます。
トントントン。内藤さんが鉋を調整します。随所でサポートをしてくれるので安心して作業ができます。
最初は「難しい~」と声が聞こえてきましたが、だんだんと無心になるのか最後はシャッシャッという音だけ聞こえるようになりました。
こちらは、はめ込み式。機械で木材に包丁を留める穴を開け、糸鋸(いとのこ)を使って、形を切り出します。自動の紙やすりで側面は滑らかに!
細かい部分は彫刻刀を使って。糸鋸とか彫刻刀って中学校の技術の授業以来なんじゃないだろうか。みんな真剣なまなざしです。時間がオーバーするほど夢中になっていきました。
ウッドラボいけだには沢山の木材と、それを加工する道具があります。そして何よりも優しいサポートがあります!この場所をきっかけにDIYや、森林活用に興味を持ってくれる人が増えたらいいな。初心者から、本格的な木工制作まで相談に乗ってくださるのでどうぞ足を運んでみてください。
700年の越前打刃物の叡智を受け継ぐ「龍泉刃物」
柄の作成を終えた私たちが次に向かったのは、越前市の龍泉刃物。1948年に創業した包丁やステーキナイフなどのカトラリーを製造販売する会社です。
越前市で700年の歴史を誇る伝統工芸「越前打刃物」。京都の刀鍛冶、千代鶴国安が刀づくりに良い水を求めてこの地に移住し、刀づくりの傍ら、農民のために鎌を作成したのが越前打刃物の始まりとされています。
龍泉刃物は、越前打刃物の技法である古来からの火づくり鍛造(たんぞう)技術と手仕事を受け継ぎながらも、未来を見据えて革新的な製品を生み出しています。国際料理コンクールで使われたステーキナイフが話題になるなど、越前打刃物という伝統工芸を新しいカタチで国境すら越えて発信し続けています。か、かっこよすぎる。。
包丁を研ぐことから始めよう
ここでいよいよ刃と柄の仕上げを行い、包丁を完成させます。打刃物の職人さんがサポートしてくださいます!心強いぞ!
まずは、刃を研いで仕上げるとことから始めます。用意された砥石は2種類。番手(ばんて)と呼ばれる番号が大きくなるほどきめ細かい砥石になるとのこと。今回は800番の中砥石で研いで整えてから、2000番の仕上砥石で切れ味を良く仕上げます。2000番で研ぐと産毛が剃れるくらいになるんですって。
10円玉が3枚くらい入る角度で前後に削ります。角度を一定に、包丁は指で押さえる程度、力を入れすぎず滑らせます。ひー、難しい!!
途中、社長の増谷浩司さんも忙しい合間に覗きに来てくださいました。「道具は愛着がわくと10年20年使おうって思えますよね。研ぎを覚えて大事に使ってもらえたら嬉しいです」
社長の増谷さんはじめ、職人のみなさんはさすがの手つきです。真剣な面持ちでアドバイスに聞き入ります。しばらく研ぐと、カエリという金属の膜のような部分が出てきました。指で触って確認します。そのカエリを革砥(かわと)と呼ばれる革の研磨道具を使って取り、仕上げの研磨を行うと。。
サッと包丁で新聞紙が切れるほどの切れ味に仕上がりました!!一同、歓声が上がります。
家でも研いだ方が良いのか聞いたところ、市販のシャープナーは応急処置用なので切れ味が落ちたなと思ったら砥石で研ぐのがベストとのこと。
越前市では越前打刃物協同組合やタケフナイフビレッジなどでも研ぎ直しなどのメンテナンスサービスをしているので、困ったらプロに相談するのもよいと思います。産地が近くにあるって本当に頼もしいですよね。
ラストスパート!柄の仕上げ
刃も仕上がり、いよいよ最後の工程、柄を付けて完成です。
差し込み式の人たちは、穴の調整から。熱した金属の棒で穴を拡げます。この調整に時間がかかりました。
柄を仕上げて、出来上がり!!
差し込み式の人たちは和包丁に仕上がりました!!
こちらははめ込み式。鋲(びょう)で柄をとめます。
ずれないように細心の注意を払って穴をあけます。ドキドキ。
最後の微調整。柄を色々な機械を使って仕上げていきます。
完成!こちらはステンレス製の包丁です。「ちょっと不格好なところもあるけれど、自分が作ったので愛着がすごい!」と大満足です。
今回は龍泉刃物の職人さんに沢山サポートをいただきました。みなさん、とにかく優しい。。そして職人さん同士のやり取りもアットホームで、職場の雰囲気が良いのだなというのがにじみ出ていました。
「こういうのが作りたい!という希望があれば僕たちはできる限りお手伝いしたいんです」という言葉に仕事への誇りと自分たちの商品への愛が伝わります。
その後の使い心地を参加者の方に聞いてみました。「柄も握りやすくて、しっかりした刀身なので重さと切れ味でどんなものでも切れます!柄をあと2㎜ほど薄くしてもよかったかな。1週間に一度、オリーブオイルを柄に塗って手入れしています」
自分の手で作ったという実感と、サポート頂いた方たちの想いや工程を感じるからこそ、大切に使おうと思えるのかもしれませんね。
ものづくりのトライアルツアーいかがでしたでしょうか。産地や工場、受け継がれる生きた伝統工芸があるからこそ企画ができました。実際に同行して、どんどんモノづくりに引き込まれている自分がいました。よーし、私も今度は包丁作るぞー!
(テキスト/牛久保星子、写真/黒川照太)