山形移住者インタビュー イラストで山形の魅力を発信/竹永絵里さん
移住者の声
#山形移住者インタビュー のシリーズ。今回のゲストはイラストレーターの竹永絵里さんです。
福岡生まれ東京育ち。多摩美術大学情報デザイン学科を卒業後、デザインコンサルティング会社を経て2011年にフリーランスに転身。2020年2月から山形へ移住して、現在は山形暮らしを楽しみながらイラストレーターとして活躍されています。
ゆったりと流れる時間
夫のUターンをきっかけに山形に来ました。両親ともに九州出身で、生まれは福岡、父が転勤族で愛知や千葉など引っ越して最終的に東京が実家になりました。東京で夫と出会い、夫が家業を継ぐため、2020年2月に山形市に越してきました。
山形にはほとんど行ったことがなく少し不安でしたが、いまはだいぶ慣れて時間的にも心にも余裕ができたように思います。季節の移ろいを感じて、よく食べてよく寝る。東京では常に時間に追われていて、たくさんの人に会って、物を買ったり外食したりと消費が激しい生活だったように思います。
山形では急かされることがありません。人がみんな優しくて、怒っている人を見かけたことがないくらい。レジに並んで会計で手間取っても「ゆっくりでいいよ」と言ってもらえます。ちょうど先日は桜がきれいで、雪がかぶった月山と桜を同時に見ることができました。こんな環境だからこそ、きっと自分自身の心構えも変わって、心がゆったりしているのだと思います。
豊かな自然を楽しむ暮らし
山形は自然が豊かなところもいいですね。産直で初めて見る野菜や山菜と出会ったり、季節ごとに旬のものをいただけることがすごく新鮮で楽しいです。田んぼで稲が実っているのを見て、そろそろ稲刈りだなぁと思っているとスーパーや産直に新米が続々と出てきたりして、見ている景色と自分の生活が連動している感覚があります。
夫婦共にアウトドアが好きで、30分くらい車を走らせて気軽に蔵王に行ったり、自然の近くに出かけています。
昨年から今年は山形百名山の本を見て、山登りに挑戦しました。月山などの高山のほか、盃(さかずき)山や富神(とがみ)山、千歳山といった低山にも登っています。ハードな山だと1日かかってしまいますが、低山であれば往復2時間ほどで気軽に行けるのが嬉しいです。
朝起きて天気が良ければ「行っちゃおうか!」と、午前中にサクッと登って帰りに百目鬼温泉に寄って帰ったりしています。山形を拠点に、岩手や福島など東北の山にも行ってみたいです。
いつか山形で個展を
移住してきて、美術展やカルチャーに触れる機会が減ったことが唯一さびしいことかもしれません。私の場合は、作品に出会って感動することが創作意欲につながっていくので…。山形の若手の作家をはじめ、県外や海外の作家を含めて、山形でもいろんな展示を見られる機会があるといいなと思います。
良くも悪くも、山形には外にいてパッと目に入ってくる広告が少ないです。その分、空が広くて、田んぼの稲穂が実っていたり、りんごが色付いていたり、蕎麦畑で一面真っ白に花が咲いていたり、東京では出会えなかった景色があります。
この景色が今後の作風や色使いに影響していくかもしれないし、山形で出会ったものを描いてみたいとも思っています。そしていつか山形で自分の展示を開催することも、目標のひとつにしています。
コロナ以降の地方移住と働き方
現在は家で仕事をしています。東京にいるときから在宅ワークだったので、移住後も働き方に大きな変化はありませんでした。それもコロナが影響していると思います。コロナによって東京との距離感が縮まりました。以前は対面の打ち合わせが当たり前でしたが、いまではオンラインの打ち合わせがほとんどです。
山形に行ったら仕事が減るかもしれないと覚悟していましたが、いまのところ山形在住のデメリットはほとんど感じていません。むしろ地方に移住したことで、興味を持ってお仕事をいただけることがあるくらい。
いまでもクライアントのほとんどは東京ですが、既存のつながりやSNSを見て依頼をいただくことが多いです。私の場合、仕事に関しては東京にいる意味が少なくなったのかもしれませんね。
山形の魅力を発信する仕事
移住してから1年の間に、山形で新規でお仕事をさせていただく機会がありました。七日町でイベントを主催している方と私の間にたまたま共通の知り合いがいて、七日町スタンプラリーのイベントで、マップのイラストを描かせていただきました。
そのイベントでオリジナルグッズを展示していたら、果樹園の方に見つけていただき、そこからロゴを発注いただくというように、ご縁で仕事が繋がっています。
また、“山形在住のイラストレーター”としてご依頼をいただくこともありました。『東北食べる通信』という雑誌で鶴岡の漁師さんが特集され、同じく山形在住のイラストレーターを探していたとのこと。マフグの価値を高めていこうと尽力されている漁師さんのページに、挿絵として貢献できました。
東京では少なかった、一次産業の方々に携われるお仕事で嬉しかったです。これからも山形の企業案内やパッケージ、ロゴなど山形の方や企業とお仕事できたらと思っています。
移住者の新鮮な目線を生かして
移住してから、山形の地域の問題が自分事に感じるようになりました。人口がどんどん減り県の活力が落ちていくことに、少し焦りを感じています。私はイラストしか描けないのですが、自分なりの方法で山形を盛り上げていけたらと思っています。
山形で暮らしていると、新鮮に感じることがたくさんあります。昨年6月にじゅんさい採りに行ったところ、コロナの影響もあってか参加者は私ひとりのみ。きれいな景色に感激し、透き通る水の上から無心でじゅんさいを採りました。
じゅんさいはきれいな水でしか採れないそうで、かなり貴重な経験だったと思います。こうしたアクティビティもすごい価値だと思うんです。地元の人にとっては当たり前のものでも、東京から来たばかりの自分にはすごく魅力に感じる。そんなモノや体験を集めて情報発信し、観光に来てもらい、最終的に移住に繋がればいいなと思います。
山形体験を濃縮した展示会「いぐべ!山形」
こうした私の山形暮らしを集めた個展を、5月に東京にて開催することになりました。
山形に移住して1年目で、まだまだ新鮮な目線だと思います。半分旅行者のような今しかない目線で、山形の魅力的な食べ物、郷土料理、伝統工芸などをイラストにして展示します。展示を見た方に『山形に行きたい!』と思ってもらえたら嬉しいです。
≫個展の詳細はこちらから
今年から山形暮らし2年目に入ります。これから感じ方は少しづつ変わっていくと思いますが、まだまだ行きたいところや体験したいことがたくさんあります。これからも山形暮らしを楽しんでいきたいと思います。
写真提供:竹永さん
取材・文:中島彩