real local 山形【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽5 - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【地域情報】

【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽5

山形の連載コラム

2021.05.23

「穏やかな休日のための音楽」では、毎回山形に縁のある南米のアーティストとそのアルバムを紹介しています。

ブラジル音楽を聴き始めておおよそ25年くらい経ちました。もちろんしばらくの間はブラジル音楽のみに集中できていたのですが、実は少し行き詰まりを感じた時期もありました。何を聴いても感激しないっていう時期があったのです。そんな時に出会ったのがアルゼンチンの「ネオ・フォルクローレ」でした。その時期の私には、ブラジル音楽に感じられなかった、新鮮な響きをそこに見出したのです。まず出会った音楽家の一人が、ネオ・フォルクローレを牽引する最重要アーティスト、カルロス・アギーレでした。最初に聴いたのは、彼のグループによる『ヴィオレタ』というアルバムで、アルゼンチン・フォルクローレの香りを維持しながら、ジャズやクラシック、ブラジル音楽などをも内包した洗練された幅広い音楽性で、しかし誠実な音楽はまるで風のような音楽だと感じたのです。

【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽5

しかしこの時期日本で、カルロス・アギーレに注目していたのはもちろん私だけではありませんでした。ある日、当時仙台の大型C D販売店に勤務されていたK氏(時々山形でのライブにも顔を出して頂いていた)と、その東京の本部にいらしたY氏が、天童にあったオルゴール美術館にいらしたことがあって、その後に食事をご一緒する機会がありました。

その時にアルゼンチンの新しい音楽について大いに盛り上がり、いつか山形でもカルロス・アギーレの公演を実現させたい、などと不可能と思われることを酔った勢いで言った覚えがあります。しかし彼らの行動は果断なものでした。その後驚くことにK氏が代表して単独アルゼンチンに渡り、カルロス・アギーレに直接面会し、日本での公演を依頼したのです。

その熱意が叶って、2010年にはカルロス・アギーレの初来日が実現します。もちろんおこぼれを頂戴して、山形での公演も実現しました。その後2012年にはギタリストで盟友キケ・シネシとのデュオで、2018年には再び初来日時と同じソロで、そして2019年にはセバスティアン・マッキ・トリオの一員として山形に来ていただきました。もはや山形に最もゆかりのあるアーティストの一人といって良いでしょう。見た目は体格も良く、髭面で鋭い目つきで、豪放磊落な印象なのですが、実際に会って話したカルロス・アギーレは、とても繊細で優しく思慮深い目をした気配りのある方でした。もちろん音楽的にも毎回この上なく美しい音楽を届けてくれています。

カルロス・アギーレの初山形公演のフライヤーとリハーサル風景(2010)
【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽5

【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽5

2012年キケ・シネシとのデュオで。
【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽5

2018年文翔館での公演の様子
【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽5

2019年セバスティアン・マッキ・トリオで。カルロス・アギーレはフレットレス・ベースを担当。
【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽5

今回紹介するのは2021年2月にリリースされたカルロス・アギーレの最近作『En El Jardin』です。本作は以前から度々共演を重ねているイスラエル出身のジャズ・ギタリスト、ヨタム・シルバースタインとのデュオ名義の作品です。2018年から制作を始めていたアルバムですが、新型コロナ感染症による諸序の影響を受けてやっと完成させたものとのことです。曲は1曲を除いて二人の美しいオリジナル。流麗なヨタム・シルバースタインのギターと川面の輝きのようなカルロス・アギーレのピアノやフレットレス・ベース、控えめなパーカッションと歌声。二人の寄り添うような演奏が、この上なく優しく心地よい作品です。これからの爽やかな季節にぜひ聴いて頂きたいアルバムです。

【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽5

(試聴はこちら)