名古屋を拠点に活動するアーティスト鷲尾友公さん
ローカル 気になる人
「画廊やギャラリーには所属してません。」「展示スペースは自分で作ります。」そんなアーティストってなかなかいないものですが、ここ名古屋にいることをご存知でしょうか。地元名古屋に根を下ろしながらも様々な場所で活躍し、巨大な壁画から小さなグッズまで、デザイン・イラスト・アートといった境界線を軽快に超えていく鷲尾友公さんに話を聞いてきました。
それは、ひとり芸術祭みたいなもの
5月22日から名古屋市中区のコットンビルで始まった、鷲尾さんの自主企画による展覧会「SITTING NEXT TO YOU」。
そもそも展覧会とは、アーティストが自ら企画するものかと言えば、そんなはずもなく、自主企画である理由を鷲尾さんに聞いてみると、「誰かから「やりませんか?」と言われてやっているわけでもないので」とのこと。飄々とした回答は、まさに鷲尾さんの人柄そのもの。
会場が決まったら、その空間の中に絵をどう置くか、自分が描いたものをどう見せるのかにこだわり、そこにある壁にただ飾るのではなく、新たな壁を建てたりしながら、空間そのものが作品のようになっていくのが、鷲尾さんの展覧会の特徴です。
特に名古屋で「見せる」ということをやる場合、場所を借りて空間を作り込むことが必要だと、会場を決めるのも、もちろんご自身。1年間で様々な作品を手がけながら、すでに頭の中に広がっている構想にふさわしい会場も同時進行で探していくのだそうです。ご本人曰く、それは「ひとり芸術祭みたいなもの」なのだとか。
建物と、人と、作品とが交わる場所
今回の展覧会の会場となったのは、アーティストやクリエイターたちの発信と交流の場として昨年に誕生したばかりの「長者町コットンビル」。展覧会を企画する時、「その場所に単に飛び込んでいって、「やらせてくれないか」と始めるものでもない。」と鷲尾さんは言います。
「壁画と一緒で、ここに大きな絵を描きたいと思っても、建物の持ち主や近所の方の受け入れ、いろんな人や町の協力のもとに一枚の壁画が完成するように、制作を手伝ってくれる人、壁を建てる人、作品を販売してくれる人、場所を貸してくれる人、そうした人との関わりの中で展覧会は出来ていて、今回はそれらがちょうどよいタイミングでコットンビルに集まったということです。」
周りの人とのつながりを感じながらやる方が断然楽しいという、鷲尾さんが名古屋に根を下ろしている理由はここにあるのかも知れません。昔からの仲間や地元の人間が集まって、足りないものを補い合う心地よさは、生まれ育った生活圏で活動し続けたから味わえるものなのでしょう。
毎年、自分に課しているもの
それは修行みたいなものだと鷲尾さんは言います。今年の自分に課したものがコットンビルでの展覧会であり、昨年なら名古屋テレビ塔リニューアルによるTHE TOWER HOTEL NAGOYAでのプロジェクト。
それまでは壁画の制作がそれにあたるもので、例えば2019年にはあいちトリエンナーレで円頓寺商店街に巨大な壁画を描き、時には中国やキューバにも出向いたと言います。2014年には金沢21世紀美術館で、中央の円形展示室をぐるりと囲む約50mもの壁画を描き上げました。
その時々で自分に課したものをやり切る中で、人との関わりもさらに広く深くなっていったのだと言います。経験するにつれて、その容量が増えていき、その次の年へとつながっていくということを積み重ねているようでした。
最近ではSNSで作品を発表することもできるし、そうしたアーティストも少なくない中、「そういうやり方は自分には合わないし、1年に一度は何かしらの形で表現したい」と鷲尾さんは言います。展覧会は、1年間の作品を通して自分の感情を押し出すきっかけでもあり、1年に一度、どうなるか分からないけど思うようにやってみて、楽しかったり、悔しい思いもする、若い頃に経験した文化祭のようなもの。「ひとり芸術祭」とも言えるこの修行プロジェクトは、体力が続く限り、続いていくのだとか。
ここ名古屋に、根を張る
コロナ禍の2020年春、鷲尾さんはそれまでの自宅制作から、アトリエ制作へとシフトしました。工場跡地に「アトリエUTOPIA」を構えることに。家を出てから「今日は何をしようか」と考えていられることが決め手だったとか。
家族ができたという大きな変化もありました。家族ができて生活が規則正しくなり、日々のルーティーンができたと言います。
朝、アトリエに来ることで創作家としてのスイッチが入り、いろんなことが開放されていく感覚を、蓮根農家に生まれた鷲尾さんは「ハスの花が、朝になるとバーッと花開く感じです」と言います。「これまでで一番、創っている実感がある」のだとも。
「家族ができたからこそ、本当にやりたいことをやろうと振り切れたし、それは、裏を返せば、自分のやっていることに責任を持つということだと思う。」
それまでの暮らしを振り返って、「いったい自分は何を作ればいいんだろうと常に考えていたのが、金沢の壁画やキューバでの経験などを経て、「自由であるべきだ」と思えたことが大きいね」と話してくれました。
それでもあくまでベースは、ここ名古屋。外へ出ていくことに、今でも価値を見出せないと言います。それよりも、もっと大事なことがありそうだと。
現在コットンビルで開催中の展覧会は6月30日まで。コミュニケーションツールとして誕生し、美術館や海外でも発表されたオリジナルモチーフ「手君」も登場します。その他にも複数の会場で展示・イベントが開催されます。これまで出会ってきた方々の縁と創り上げる鷲尾さんの芸術祭を是非楽しんでみてください。
屋号 | 鷲尾友公 |
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備考 | イベント情報 <同時開催> 「#28手をつなぐアーティスト」 第1回おとなとこども STUDIO RECORD CLUB |