【福島・郡山】自由自在な塗料に魅せられて デコレイティブペインター 熊田牧子さん
ローカル 気になる人
印刷物が大量に溢れかえっている現代、手描きのものを見て「おっ!」と少し心が動く瞬間はありませんか?たとえば、お店のメニューボードに手描きで描かれたおいしそうな料理。それは誰によって描かれたものなのか、気にかけたことはありますか?
私の母が働くお店「アーマテラス あぐりあ店」に素敵なメニューボードがあるという話を聞き、「誰が描いたものなんだろう」と疑問に思った。これが私の熊田牧子さんとの出会いです。
デコレイティブペインターという職業
依頼いただいた仕事は基本的になんでもお受けするという熊田さんの作品はメニューボードに限らず、多岐に渡ります。使う画材は塗料、絵の具、チョークなど。活動場所もお店、オフィス、学校など、様々です。
熊田さんのInstagramプロフィール欄に書かれている「デコレイティブペインター」という言葉、今まで私が耳にしたことがないその名称は、世界的に存在する職業名だそうです。語源はデコレーションであり、壁などに大理石の模様を描いたり、木目を描いたりするペインターのことを呼びます。
日本ではまだまだ馴染みのないデコレイティブペインター、その名を掲げて熊田さんは活動しています。
アニースローン塗料との出会い
幼いころから絵を描くことが好きで、絵の学校へ進学した熊田さん。先生には画家として生活していくことを勧められましたが、どこかに就職する道を選択し、就職活動を始めました。そのとき、「お部屋に絵を描いてみませんか?」という求人と出会います。好きなことを仕事にできる、ということで飛び込んだのが塗装会社でした。自分が好きなことをできる場であったために、楽しみながら働いていました。
3、4年働いたのち、結婚を機に産まれ故郷の仙台を離れ、郡山に来ることになります。出産を経て、育児に専念するために一旦塗装の現場は離れることにしました。その間も物づくりをやめることはなく、小物づくりなどを楽しんでいました。そんな時、インターネットでアニースローン塗料の存在を知ることになります。
アニースローン塗料は下処理がほとんどいらず、どこにでも塗ることのできる水性塗料。「こう塗らなければいけない」ということもなく、自由な楽しみ方ができ、DIYとして一般の人も扱いやすい塗料です。また、無鉛無臭で毒性も揮発性有機化合物(VOC)も全く含まれておらず、小さなお子さんと一緒に使用することができます。完全に乾けば万が一お子さんが舐めてしまっても問題ありません。
従来の塗料の概念を覆す、新感覚の塗料に惹かれた熊田さん。この塗料をどうにか扱いたいと考えました。そこで、家業の塗装業で関わりのあった郡山市並木にある「LABOTTO」さんに相談し、取り扱いを始めました。これがきっかけとなり、熊田さんは「LABOTTO」でペインタ―として活動することになりました。
この魅力的な塗料を多くの人に知って、体感してもらいたいという想いのもと、ワークショップの先生としても活躍しています。
手描きであることに意味がある
今までで印象に残っている活動を尋ねると、「全部です」と答える熊田さん。仕事を受ける度に「これが私が絵を描く仕事で最後になるかもしれない」という気持ちで制作されています。
「あえて手描きで、私にやってほしいと言ってくださるのはこの上ない喜びで、そこに全力で応えたいです。自分のそのとき持っている技術と、出来ることを全部これでもか、これでもか、とぶつけて描きます。ご依頼頂いたオーナー様のお店への想いや、作った商品の想いがあると思うので、その想いを大事に伝え、表現したいと思っています。デザインでプリントされているものにも、もちろん素敵なものがたくさんあるんですけど、手描きで、温かみがあるようなものを、と言っていただくことも多いので、そこを大事にしています。きちんと描きたいけれども、あえて手描きらしさを出すためにちょっと外すっていうのかな。あんまりきちんとせず、写真のようではなくて、味をつけられたらいいなと思いますね。それを見た一瞬でも「おっ!」と心が動いたり、跳ねたりするような、それを感じてもらえたら嬉しいですね。」
自己満足だけでは、満たされない
画家として自ら発信していくのではなく、誰かの思いを絵にのせて伝達していく道を選んだ熊田さん。今後も仕事を依頼していただけるのであれば全力でお応えしていきたいと力強く語ります。
「絵や文字を描くことや特殊塗装、そしてアニースローン塗料のこと、私にやってもらいたいということであれば、なんでもお受けしたいと思っています。人に見てもらって喜んでもらいたい。自己満足だけではね、もう満たされないんですよね、欲張りでしょ?(笑)ご依頼頂いた仕事に感謝して、精一杯お役に立ちたいです。絵を描くことで役に立てるのは嬉しいですよね。」
塗料についていきいきと語る熊田さんのお話を聞いていると、「職人さんがやるもので、自分には縁がない」と思っていた「塗装」に対するイメージがどんどんと軽くなっていき、作品を触らせていただく頃には、「自分だったらどんなふうに塗ろうかな…」と想像が止まりませんでした。
熊田さんが開いているワークショップは、年齢も性別も問わず幅広い方が楽しめます。熊田さんいわく、大人の参加者も、色を塗り進めるうちに子どもにも負けない独創性が現れるのだとか。その様子はまるで「大人の図工の時間」。大人にこそ2時間とか何も考えずに没頭する時間が必要だと話します。私もぜひワークショップに参加し、このワクワクを形にしたい、そう思います。
美術館や展覧会で作者名や題名を明記され、額縁に入れられ、ライトを当てられるものだけがアートではない。まちのあらゆるところでアートに出会うことができるかもしれない。熊田さんのアートの多様性に触れ、まちの楽しみ方がまたひとつ増えました。
熊田牧子(くまだまきこ)
Instagram @makikuma8